2006-04-09
2006-04-15 追記あり
インテリジェント・デザイン
インテリジェント・デザイン(ID)とは、宇宙、世界、生命、人間などが何らかの「高度な知性」によってつくられた、とする説です。IDのもとになったのは
創造論という考え方です。創造論は、聖書の記述に基づいて宇宙や生命の成り立ちを科学的に説明できる(だからダーウィンの進化論は間違っている)とする疑似科学の一種です。IDは、創造論における「キリスト教の神」の役割を「高度な知性」という言葉に置き換えただけのもので、宗教色を薄めることで政教分離を定めた憲法規定の回避をねらっているのです。
進化におけるダーウィン説を学校教育から排除できないため(
アメリカでは最高裁判決が出ました)、ブッシュ大統領をはじめとしたキリスト教保守派は、平等のためにID説もダーウィン説と同じように理科の時間を使って教えるように、教育委員会に圧力をかけています。一部では創造論者が成功を収めつつあるようです。
空飛ぶスパゲッティ・モンスター教
- 宇宙は空飛ぶスパゲッティ・モンスターによって作られた。
- すべての証拠が、進化はモンスターのヌードル触手によって推進されたことを示している。
- 地球温暖化などの異常気象は海賊の減少が原因である(ので、信者は海賊の格好をしなければならない)。
- 天国にはストリッパー工場とビール火山が約束されている。
- 祈りの言葉は「アーメン」ではなく「ラーメン」である。
- 学校教育でもスパゲッティ・モンスター創造論を教えるべきである。
などなど。FSM信者(パスタファリアンといいます)は当然のことながら、ブッシュ大統領をはじめとするIDの主張者は自らの代弁者だと見ています。つまりIDにおける
「高度な知性」とは、実は「スパゲッティ・モンスター」のことであり、彼ら(つまりブッシュ大統領を含むIDビリーバー)は我々(つまりパスタファリアン)の同志であると主張しているのです。
我らが勇敢なる同志、ジョージ・W・ブッシュ氏に幸あれ! ラーメン
空飛ぶスパゲッティ・モンスター教とは
学校教育において、ID説にもダーウィン説と同じ時間を割く決定を下そうとしたカンザス州教育委員会に抗議して、ボビー・ヘンダーソンがでっち上げたパロディカルト、それが
空飛ぶスパゲッティ・モンスター教(FSM)です。FSMは自らの宗教を、ラスタファリズム(ジャマイカの宗教)をもじってパスタファリズムと呼ぶそうです。非常に手が込んでいますね。
ネットで調べ物をしているときに、このFSMと出会ったのですが、思わず仕事そっちのけでハマり込んでしまい、こんな文章を書いてしまいました。
私の考え
私は講師として予備校で生物を教えています。その中にダーウィン説は含まれていますが、ID説やパスタファリズムは含まれていません。個人的には、ダーウィン説は正しいが、ID説やパスタファリズムは間違っていると思っています。でも、ただ思うだけなら、創造論者が創造論は正しいと主張することと、どんな違いがあるというのでしょうか。
スパゲッティ・コード
ヒトゲノム計画によって明らかになったように、人間は30億文字のスパゲッティ・コード(構造が複雑で、一部を修正するだけであっても全体を読み直さないといけないコンピュータプログラムのこと)によってプログラムされています。その中には、ムダにたくさんコピペされた遺伝子、壊れて機能を失った遺伝子、かつて侵入したウイルスの残骸などが見つかります。リチャード・ドーキンスの
『盲目の時計職人』にあるように、これらは
総合説(ダーウィン説を中心とした現代の進化理論)による予測を証明するものです(「高度な知性」はなぜスパゲッティ・コードにしか見えないような、思いつきで書いたようなプログラムをつくるのでしょうか)。
ダーウィン説は予測を与えるのでその結果を検証することで理論の正しさ(あるいは誤り)を証明できます。これを
反証可能性と言い、その理論が科学であることの重要な条件の一つです。ダーウィン説が正しいことの証拠は、世界中の生物学者によって今でも集め続けられており、分子生物学の発展により、定量的な証明もされるようになりました。
一方、創造論は聖書の記述を証拠として扱うので反証が不可能です。またID説では、偶然の積み重ねによってできたとは思えないような複雑なものはデザイナーによってデザインされた、と考えます。つまりID説は現在の科学がまだ未熟な領域でしか生息できません。結局、創造論もID説も科学ではなく疑似科学なのです。学校の理科の時間で扱うべきなのは、科学であって疑似科学ではないということは、誰もが賛成してくれることだと思います。
科学と疑似科学
ところで科学と
疑似科学の見分け方には訓練が必要です。私は、自分が関わった生徒に少しでもその手助けがしたいと思い、ダーウィン説を教えるときにはID説の話もしています(ほんのちょっとだけですが)。メンデルの話と一緒にルイセンコの話もしています(これからは空飛ぶスパゲッティ・モンスターの話もしなくちゃ!)。天文学の裏側に占星術があるように、科学の裏側にはいつも疑似科学がいるということを忘れないようにしたいものです。
インテリジェント・デザインの証明(2006-04-15追記)
さらに悪乗りとしか言いようがないのですが、パスタを用いた
インテリジェント・デザインの存在を証明する論文が発表されました。2種類のパスタをゆでると新種のパスタ(Noodleous doubleous:ヌードルウス・ダブルウス)が生じる理論的な確率は2×10の-32乗であるが、実際には60%も生じるので、何らかの知的存在(もちろんスパゲッティ・モンスター以外にありえません)が関与している証拠と考えられる、とのこと。思わず笑っちゃいますね。下写真の左側2つが材料に用いた2種類のパスタ、右端のものが新種ヌードルウス・ダブルウスです。
この論文はトーマス・シュナイダー博士による英文なので、日本語の解説は
こちらのサイトをご覧ください。この新種ヌードルウス・ダブルウスはシュナイダー博士が空腹に耐えかねて食べてしまったため、現存していないそうです。罪深きシュナイダー博士にも幸あれ! ラーメン
参考文献
コメント
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最終更新:2009年09月24日 10:48