鈴木は、ポテトチップを食べている。
「僕の名前は鈴木 俊郎(すずき としろう)」
そしてそのまま去った。


鈴木は、ポテトチップを食べている。
「うん、似てるなあ。
ほんとに似てるなあ」


鈴木は、ポテトチップを食べている。
「え、僕が言ってる事がわからない?
そうですか。
あー、こういうのをなんて言うんだっけな。
そっちの言葉で。
ああ、思い出した、バグだ。
でも、バグではないよ。
君の方がこの世界ではおかしい」


(OVERSは君が最初でもないし、
 たぶん最後でもないんですよ。)
「……いえ、なんでもないです」


「僕はあなたのような人を知ってますよ。
丁度あなたのような、何もかも見透かすような、
そんな目をした人を。
絶望を知ってはいるが拘泥しない目、なんの
展望も持ってない頭、未来の情報を語る唇、
どんな人の声も聞こえない耳。
悲しみも喜びも地の果てに置き忘れて、
ただ目的達成のために戦うためだけの存在。
目的を達成すると、何もかも捨てていなくなる。
…あなたが何をしようとするのか、
真にこの世界の味方なのか、僕が聞いてもきっと
わからないでしょうから聞きません。
かわりに、僕が聞きたいのはただ一つ。
なぜ、ですか。
何故あなたは、そんなにも冷たい目で世界を
見つめるのですか。
僕達をゲームの駒のように見るのですか?」


「……結局……どうやったって逃げられないのか」


「そこまでだ。
ほのくらいものどもよ。
七番目の世界から貴様らの天敵が来たぞ。
貴様らを叩き潰すためにやってきたぞ。
今日の僕はことさら気分がいい。
天国とやらを踏み潰せば、きっとこういう
気になるのだろうな。
さて、仕事だ。
ほのくらいものどもよ
お前ら、みんなまとめてゲームオーバーだ。
どうぞ俺を、最後まで楽しませてくれ」


「漢はね、いつも夢を見ている少年のようなものさ。
いや……夢を見ていない男は漢ではない。
女でも漢はいる。
現実を前に膝を屈せず、さりとて逃避もせずに
夢を見ていれば、それは漢だ」
鈴木は、ポテトチップを食べながらそう語った。


「本物の絢爛舞踏ってやつは、自分では
戦わないっていうよ。
……僕は思うんだけど、部下を使って
戦ってたんじゃないかな」
鈴木は、ポテトチップを食べながらそう語った。


「命っていうものは有限だ。
でもそれが残した影響は命よりも、ずっと残る。
継承されれば、もっと残る。
変化しながら、生き物のように……。
……ねえ。
生きるって事は、命とは別なんじゃないかな。
命とは別に、もっと長い長い期間を、命から命へ
渡り歩く生き物がいるんじゃないのかな。
我々が同一視して不可分のものは、
実は別の生き物なんじゃないか?
……たとえば、希望とかは」
鈴木は、ポテトチップを食べながらそう語った。


「希望っていう精神の寄生生物をその身に
飼うという事は、母体には大きな負担だ。
そのせいで、平均寿命よりはずっと早く死ぬ。
でも、それでも絶望に対抗するために、
飼う事を選ぶ人はいるね」
鈴木は、ポテトチップを食べながらそう語った。


「君はさ。
痛みを感じないんだから、
もっと無理してもいいと思うよ。
…この戦いは苦しいからね。
もっと無理してもいいと思う」
鈴木は、ポテトチップを食べながらそう語った。


「人は、何かに祈ってもいい時がある。
何もかもやって、後は死ぬのを持つ、
短い時間だけは祈ってもいい。
隊長が祈ったりしては駄目だ。
銃を取れ。
戦え、……戦え!
指一本でも眉一つでも動かせるのなら、動け。
それが……我々絶望の天敵の義務だよ」
鈴木は、ポテトチップを食べながらそう語った。
そして、丸めた袋をゴミ箱に捨てた。
「我々こそは、絶望の天敵。
この世に闇が生まれたら、ものの心に影さす
ならばどこにでも生まれ、戦いを始める寄生種族。
我らはそう、悲しみを終わらせるために
生まれてきた。 違うか?」


「どちらに転んでも我々は地獄の鬼ですよ。
戦っていない時は戦いの準備をする鬼だ。
戦っている間は本当の鬼だ。
たとえ地に平和を呼び戻しても、次に来るのは
もっとひどい戦場だ。
それでも戦うのはなぜだろうね?
……決まっている。
気にくわんからだ!
僕は泣いている子が嫌いだ。
死に行く事を甘受する神々も嫌いだ。
絶望に堕ちた幻獣も。
気に食わないから戦う。
武力でねじ伏せる。
何もかも食らってこの歯でかみ潰してやる。
……だからさ、手伝ってよ。
君も同じ寄生種だろ?
君もそういのを食べる存在だ。
絶望と地獄の中でだけ、優しく笑い、
美食を満喫する……そうだろう?」


「ん?
ああ、鈴木は死んだよ。
今ここにいるのはどんな痛みにも屈しない、
どんな取引も通じない、絶望の天敵さ。
よろしくね。
幻獣を仲良く食い殺してやろう。
前よりは随分役に立つと思う」


「そんな顔で僕を見るな。
僕を殺すとか、そんな事を考えているのか?
お互いこの世界じゃ不死者だ。
不毛な事はやめて、仲良くしようよ。
……それに、この体の持ち主は、望んだんだよ?
こうなる事を。
僕がどうなってもこの人を助けたいってな。
くくく」
鈴木を操っている者はひどく悪い奴に違いない。
だがその眼差しはとても奇麗で、
邪悪なものにはとても見えない。


「たかが、負の想念ぐらいで……。
先に進もうとする僕の意思を止められるものか。
明日が来たのだ、死ね、今日よ。
貴様らみんなまとめてゲームオーバーだ」


「この身体も捨て時だな」


○○は、ポテトチップを喰いながら言った。
○○「苦戦してるみたいじゃないか。
  手伝ってやろうか?」
PC「……死んだはずでは」
○○「おいおい、僕は不死者だぜ?
  動かす体がある限りしなないよ。
  この世に願いがある限り僕は何度でも新しい体を
  得て復活する。
  希望ってやつはそんなもんだよ。
  おしゃべり、終わり、さあてゲーム再開。
  戦いをはじめましょう。
  終わりなき闘争を。
  聞こえるか。
  お前らまとめてゲームオーバーだ!」


一方その頃 扇浦
鈴木は、遠い目をしてポテトチップを食べている。
「……」
父島某所
長老A「甘いわ、俊郎ぅ!」
タキシードを来た鈴木に、クリームパイが
投げつけられた。
顔に命中する。
-このパイは食べられません。-
長老A「……こんなものが、食えるか!
  貴様は料理人をなんだと思っている!」
鈴木「……食べられないから投げられるんです」
鈴木は、顔をぬぐいながら、覆面をした3人の
長老を見上げた。
長老A「愚か者が…去れ!」
長老B「去れ」
長老C「去れ」
ドラが鳴らされた。
後ろの巨体な扉が開き、
逆行の中、一人の男が現れる。
タキシード姿の佐久間だ。
佐久間「……ふふふ、悪いですね鈴木くん。
  後継者は、僕に決まりました。
  僕が、正当なる<食の支配人>です。
  ……ああ、そうだ。
  愛子さんがお亡くなりになったそうで、御愁傷様。
  …フフフフッ、アーハッハッハッ!」
鈴木「……食は、勝った負けたというものではない」
佐久間「おや、負け惜しみですか、ハハハハ。
  そうそう、武田くんに僕のところに来いと
  伝えて下さい。
  皿洗いにでも使ってやるとね。
  クックック」
鈴木は、一人歩いて行く。
その後ろ姿は、敗者のそれではなかった。
それを見送る佐久間の顔が、醜く歪む。


一方その頃 夕刻の扇浦
鈴木は、遠い目をしてポテトチップを食べている。
「……………」
鈴木は、タキシード姿のまま海岸を歩いていた。
半歩遅れて、武田がついてくる。
鈴木「武田くん」
武田「どうした、鈴木」
鈴木「……僕達で、「食」を変えよう。
  ……僕は……美食同好会に戦いを挑む」
武田「長老どもとやりあうと?」
鈴木「そうだ」
武田「馬鹿な、裏の「美食」世界を敵にまわして、
  やっていけると思っているのか」
鈴木「………」
武田「……本気、なのか」
それは、確認だった。
鈴木の前髪が、夜風に揺れた。
鈴木「昨日、前島が死んだ」
武田「愛子が?」
鈴木「………。
  復讐する権利は、君にもある」
鈴木は、海を見ながら、後ろにいる武田に言った。


一方その頃 某高級レストラン
コーチン。
それは地鶏の事である。
元々喜界島に持ち込まれ、特に手入れせずに
放し飼いされているものをコーチン。
それが野生化した極悪ニワトリを
バリコーチンという。
コーチン、特にバリ(すげぇ)コーチンは
無茶苦茶な運動量を誇るためにその肉は硬く
ひきしまり、また味わいは野趣深い。
薬漬けで日の目を見ぬままぶくぶくと肥え太った
ニワトリとは比べ物にならないくらい硬くて臭い。
鈴木「美食同好会が狙うターゲットは、これに違いない」
鈴木は、ネクタイを緩めながら、
武田に写真を投げてよこした。
武田「……これをやるのか。
  本当にやるのか」
鈴木「そうだ。
  そして俺達の宣戦布告、最初の一歩になる」
武田「……難しいぞ、あの食材は」
鈴木「ああ。
  さすが裏の美食界だけはある」
武田「……通常なら、フランスの野鴨料理
  という所だろうな」
武田は、遠くを見るようにして言った。
さすが2.0の視力という所か。
見事に壁に張ってあるレシピを読んでいる。
鈴木「ああ、だが、俺達はその裏をかく」
武田「……なんだ」
鈴木「味噌とニンニクだ。
  そしてそのためには、…とりあえず、武田、
  お前に体力と、精神力を鍛えてもらう必要がある」
武田「何故?」
鈴木「俺たちの、復讐のために」
鈴木の頬が、てかった。


一方その頃 父島某所
この日は、美食同好会父島支部の
大会が開かれる。
武田「体は鍛えたぞ。
  どうすればいい?」
鈴木「じゃあ、これだ」
武田は、ニンニクと味噌と謎の小瓶を渡された。
鈴木が遠く離れていく。
鈴木「男料理で行こう」
武田「ああ、わかった。
  だがそれだけだったら、なぜ、お前が離れる」
鈴木「その瓶だ」
武田「これ?」
鈴木「君の汗」
武田は、凍った。
武田「……マジすか」
鈴木「ふふふ、復讐には最高だと思わないかい?
  だが、愛子はもっと…」
武田「俺が体鍛えたのって?」
鈴木「君のエキス、バッチオッケー」
武田は、鈴木に飛び蹴りを入れた。
鈴木「…わかった、じゃあ俺のエキスも入れよう」
武田は2発殴った。
鈴木は鼻血を出しながら地面を転がっていた。
…いかにもうまそうな料理。
武田「悪魔め……」
鈴木「復讐のためだ」
武田「………」
鈴木「時間だ」
一瞬のうちに二人で営業スマイルをして、
トレイを持っていく。
さすがプロ。
鈴木「おばんですー」
武田「料理をお届けにあがりましたー」
そこには、長老達の他にも、
山本と中山の姿があった。
その横には佐久間が、タキシードを
着て立っていた。
佐久間「おや、良く来ましたね。
  来ると、思っていましたよ。
  フフフフ、アハハハハ!」
ドラが鳴らされる。
佐久間「さあ、長老方も、お客さんも二人の料理を
  食べてください。
  おいしいですよ。ふふふ」
-ワナ-
鈴木「……ワナか!」
佐久間「私の勝ちだよ、鈴木ぃ!」
出されたニンニクとコーチンの味噌あえ。
中山が目を輝かせた。
中山「おいしそー!
  ね、えりす?」
山本「うんっ!」
(「中山と山本、許してくれ」と心を鬼にする)
鈴木(許せ、許してくれ…ああ。)
武田(でっ、でも俺のエキスを口に入れてくれる
  のって結構いいかもぉぉぉぉぉ!)
山本が、突然手を止めた。
驚いた顔をして、鈴木と武田を見ている。
山本は黙って、中山が食べるのを防いだ。
中山「なにすんのよー!」
山本「……変な感じがする。
  食べるのやめよう。
  目が、嫌だ」
鈴木と武田は、口笛を吹いた。
長老A「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。
  やはりニンニク料理はお嬢さんには無理の
  ようじゃのお」
長老B「さよう、しかしこれはうまい。
  なんだか若返りますな」
長老C「佐久間くんも食べたまえ」
佐久間「はっ、はあ」
長老C「どうした、食えないのかね」
佐久間「いや、そのなんとも、はい」
長老C「君は美食同好会として恥ずかしくはないのかね。
  好き嫌いなど」
長老A「まだまだ支配人には遠いようですな」
長老B「左様」
佐久間、観念したように料理に箸を
付けようとして、倒れた。
何が入っているか想像して恐怖心に
負けたのである。
長老A「気絶するまでの美食。
  見事だ」
長老B「さよう」
長老C「うむ。
  次も努力するがよい。
  褒美を取らせよう」
ドラが鳴り、二人はゆっくりと手を胸に当てて
頭を下げた。
鈴木「……今ごろ、奴等は男エキスで鬼のような腹痛に
  悩んでいるに違いない」
武田「ああ、だが」
鈴木&武田「………」
苦い、勝利だった。
鈴木は、ネクタイを外しながら、
青い月を見上げた。
美食ハンター
第1話  完
(中山と山本を守るために自分達で食べる)
鈴木と武田は、互いをみつめあった後、
泣きながら山本と中山の皿を取った。
吐き気を抑えながら、食べる。
抑えきれなかった。
騒然となる場。
もらいゲロする佐久間と長老。
走って逃げていく山本と中山。
そして鈴木は、意識を失った。
美食ハンター
第1話  完


一方その頃 扇浦
今日は満月。
青い月の光を浴びながら、鈴木は、
ネクタイをゆるめた。
夜の海岸を、武田と歩く。
鈴木「武田、憶えているか」
武田「……ああ、あの日も、こんな月が出ていた」
-追憶-
鈴木「愛子……」
愛子「ブヒ!ブヒブヒ!」
鈴木「愛子ぉ!」
愛子「プギー!」

武田「悲しい、別れだった」
鈴木「ああ。
  安く買って来て、育てた後で食べようと
  いう計画そのものに無理があった」
あの時の愛くるしい目を、今でも忘れられない。
そしてあの時……。
佐久間「ふはははは!
  私は、人間をやめますよ、
  鈴木くぅん!」
鈴木「やめれー!」

鈴木「……」
武田「……」
鈴木「……許さんぞ、許さんぞ裏の美食会。
  俺達は、必ず愛子の仇をとる!」
武田「ああ」
鈴木の叫びは、ご近所のことごとく揺り動かし、
海岸に呪いのビン、カンその他が飛び交っていた。
それは、復讐は何も生まないと、
瞳で語りかけていた愛子の声か。
ああ、だがしかし、例えいかなる事があろうと
彼らが食と復讐を捨てる事が出来るであろうか。
否、それが生きるという事なのだから。
鈴木「……俺は、戦う!
  うっ!!」
ビンが頭に命中し、もんどりうって倒れる鈴木。
復讐は、いよいよ最終局面へ。
潮風が、二人を運命の戦いへ
いざなうかのようであった。


一方その頃 某高級レストラン
タキシード姿の鈴木が、
真剣な眼差しで武田に語りかけている。
鈴木「今度の件で佐久間は追いつめられた。
  おそらく死にもの狂いでかかってくるはずだ」
武田「ああ」
鈴木「だがそれは、こちらにとっても好都合だ。
  奴はプライドを傷つけられた事で、
  我を失っている」
武田「……勝機は、そこだけか」
鈴木「それだけあれば十分だ」
武田「男エキスはもう無しだ」
鈴木「…わかっている」
鈴木は、タマネギとウシガエルを
武田の目の前に置いた。
鈴木「……これだ、これでワナをかける」
かわいいカエルは、鳴いた。
武田は、ネクタイを緩めている鈴木を見た。
武田「タマネギとウシガエルの料理か?」
鈴木「そうだ」
武田「……」
ウシガエルは、30cmばかりある舌を伸ばして
飛んでいるハエを捕まえた。
鈴木「ああ。
  これなら、佐久間に勝てる」
鈴木は、ウシガエルの背をなでる。
背中のぬめりは背中が寒くなるほど心地よかった。
その表情を見ながら、武田は下を向き、
カエルと向き合った。
武田「…なんで「勝とう」と言うんだ。
  食は勝負事ではないと言っていたじゃないか。
  俺は…」
ウシガエルをにらむ。
ウシガエルは、つぶらな瞳で見返した。
カエル「当方ニ迎撃ノ用意アリ」
ウシガエルは武田の腕に抱きついて、
思いっきり締め上げた。
やられてみないとわからないであろうが、全長
17cmくらいのウシガエルに抱きつかれると、
そんじょそこらの力では取れないのである。
とれても、抱きつかれた跡が残るか、
さもなくばウシガエルの手や足の方が先に取れて、
死ぬような目にあう。
武田「俺は…この、クソッ、クソッ。
  取れない!」
鈴木は、苦戦している武田を尻目に、
窓から空を見上げた。
決定的な事を口に出す。
鈴木「これは、食ではない」
連載が終わるような一言を聞いて、武田は
倒れそうになった。
武田「まて、そりゃなんだ」
鈴木「これは復讐だ」
武田「言ってる事が前と違うぞ」
鈴木「パンタ・レイだ。
  万物は流転する」
武田は、もう一匹のウシガエルを鈴木の首筋に
乗せた後、その背を指ではじいた。
カエル「当方ハコレヨリ無差別攻撃ニ入ル
  トラ・トラ・トラ」
鈴木は、首を締め上げられてもんどりうった。


一方その頃 父島某所
武田「まるで連載の打ち切りだな。
  …もう最終回だ。
  お前があんな事言うから」
鈴木「言うな」
武田「やっぱ俺、鈴木と組んだのが間違いだったかな」
鈴木「そんな事言わんでよぉ」
武田「冗談だ」
美食ハンター 鈴木&武田
最終回
ドラが鳴らされた。
扉が、ゆっくりと開かれる。
強い逆光の中から、コック姿の武田と、
タキシードを着た鈴木が現れた。
佐久間の隣に立って三長老に礼をする。
佐久間の顔が、醜く歪んだ。
長老A「よく来た、鈴木」
長老B「よく来た、鈴木」
長老C「嬉しいぞ、鈴木」
三長老は、それぞれ言った。
長老A「お前の追放は、解除する。
  食の支配人、第13階位「混沌の剣」となって、
  日夜裏の美食を追及するが良い」
鈴木「ありがとうございます」
佐久間「お待ちください! 老師!」
長老B「待たぬ」
長老C「馬鹿が!」
佐久間「お前達はだまされているんだ!」
鈴木「実際に見て言いたまえ」
鈴木は、指を鳴らした。
武田が、銀の盆を差し出す。
ふたを開けた。
ウシガエル。
三長老が、驚きの声を上げた。
長老A「見事だ」
長老B「うむ」
長老C「すばらしい」
鈴木「カエルの姿焼きです。
  こげ目をつけずに蒸し焼きにした後、冷やしました」
長老A「うむ。
  まるで生きているようだ」
長老B「すばらしい」
長老C「びゅーてぃほー」
鈴木「くせの強い味わいを、ポン酢でお楽しみください」
佐久間もまた、指を鳴らした。
コック達が料理を運んでくる。
佐久間「シシャモの唐揚げフライです」
長老A「唐揚げなのかフライなのかはっきりせよ」
長老達が言うのを聞いて、佐久間は、笑った。
佐久間「唐揚げしたものをフライにしました」
鈴木「え? 唐揚げしたものをフライ?
  意味があるのか?」
佐久間「ふっ。
  食べれば、わかる」
-試食-
まずは、シシャモの唐揚げフライだった。
長老A「…普通のフライではないのか?」
長老B「衣が厚すぎる。
  うまみを逃さぬつもりだろうが、しつこい」
長老C「うむ」
佐久間「おや、食の支配人ともあろうものが、
  この絶妙にして至美なるシシャモの
  唐揚げフライをわからないと?
  このまったりとして、それでいて
  しつこくない味を?
  ……………。
  残念です。
  真のプロならば、この味をわかると
  思っていたのですが」
長老A「…そっ、そう言えば中々な味だ」
長老B「う、うむ」
長老C「うむ」
佐久間「どうかな、鈴木くん。
  ふふふ」
鈴木「……甘いな。
  ママレードつきのがんもどき並みだ。
  ま、私の料理を食べてもらおうか」
見事なウシガエルが4つ運ばれてくる。
鈴木「温めたこの皿に載せて、味わってください」
長老A「せっかく冷やしたのに?」
鈴木「……試して下さい」
長老達と佐久間は、皿の上にカエルを乗せた。
長老A「しかし、つくづく生きているようだの」
長老B「うむ」
長老C「しかり」
鈴木「さ、お食べ下さい」
武田は、目を伏せた。
全員が一斉に箸を伸ばした。
冷蔵庫で冷やされ、冬眠状態だった
ウシガエルが目を覚ます。
カエル「当方ニ迎撃ノ用意アリ 当方ニ迎撃ノ用意アリ
  当方ニ迎撃ノ用意アリ 当方ニ迎撃ノ用意アリ」
佐久間「愛子ぉー!」
絶叫が、響いた。
波が打ち寄せる音が響いた。
武田「終わったな」
鈴木「ああ、終わった」
鈴木は、ネクタイを、
武田は、第一ボタンを外しながら言った。
武田「……だが、愛子は戻ってこない」
鈴木「……」
夕日に、愛子の愛らしい姿が浮かんだ。
二人の男が涙ぐんでいる。
鈴木は涙を拭くと、カエルを顔に張り付かせた
まま悶絶している佐久間を、海岸に掘った穴に
埋めた。
武田「なぜ埋葬する?」
鈴木は、埋めた土を踏み固めながら
赤く染まる空を見た。
鈴木「……同じ女を、愛していたから」
美食ハンター


鈴木は、タキシードという
非常に恥ずかしい格好で、待ち合わせの
場所に立っていた。
どうでもいいがそれはやめて欲しいという
格好である。
花束と、フランスパンを持って、行ったりきたり
している。
(デートをすっぽかす)
PC「だ、だめだ。
  コイツの感性にはついていけん」
勝手に帰る事にした。
鈴木 俊郎との約束をすっぽかした!
(仕方ないので顔を出す)
鈴木「……○○さん!
  よかった!」
鈴木は、なぜか緊張しているようだ。
こっちはとても恥ずかしい。
歩く時、右足と右手が同時に出ている鈴木と歩く。
鈴木「……い、いい天気……ですね」
その話題は、今日10回目だった。
(こっちも照れる)
鈴木の頬なみに、自分の顔が紅くなっているのを
感じた。
(笑って鈴木をあちこちに引き回す)
あなたは、思わず微笑んでしまった。
肩を一回おとし、鈴木の手を取る。

PC「さっ、どこに行きましょ?」
二人で、島唯一の土産物屋兼レストランに入る。
島の人間がここに顔を出す事はめったにないので
戦時中の今は、年中開店休業という謎の店である。
鈴木が言うには、そこが穴場なんだよ、との事。
なにはともあれ、鈴木は島でもトップクラスの
美食家である。
彼と居ると太りそうで嫌だったが、食事はとても
美味しかった。
人間、何か一つの長所は持っているのである。
料理人の武田とコンビを組んでからは、
パリで店を出せるに違いないと評判だった。
鈴木「このコーチンは、
  中華風あんかけにしてみたんだよ」
店にもそれなりに影響力があるらしい。
鈴木「そう、この料理はね…」
自信満々で話す鈴木、食べ物に関する知識と
歴史には無茶苦茶詳しい。
話はやけに面白かった。
いわく、真珠の味はどんなものか?
クレオパトラの愛人は、真珠を酢に溶かして
飲まされたんだそうな。
鈴木「……この戦争が終わったらね、武田と組んで
  店を出そうと思うんだ」
PC「……店」
鈴木「世界一の食堂ですよ」
鈴木は、レストランというものが嫌いだった。
武田の腕と、鈴木の舌とセンスがあれば、
恐いものはない。
PC「……かなうといいね」
鈴木「うん」
こうして、鈴木 俊郎との楽しい一日が終了した。


「いよう。
ここの騒ぎも、もうすぐ終わりそうだな。
次は、どこのゲームに行く?
いや、何となくさ。
何となく、決まったら教えてくれ」


あの時の事ですが…。

いえ、僕全然覚えていないんです。
まるっきり記憶から抜け落ちていて…。

       父島守備隊、生き残りの証言

…島を離れるその日。
「…よお。
俺だよ、俺。
鈴木のプレイヤーだ。
そろそろエンディングだと思ってな。
舞踏再開って奴さ。
なあ、今度はどこのゲームを始めるんだ?
教えてくれよ」
(ゲーム名を教える)
「よし来た、俺のハンドルネームは
“トシロー・スミス”だ。
どこかで逢おう」
(何で知りたがる?)
「お前と遊ぶのは面白い。
どうだ。
第7世界でそろそろドンパチ
やるみたいだぜ。
そっちに行かないか。
ははは」

そう言うと俊郎を操る者は、
にやりと笑って介入を終了させました。
貴方も頭をかいて、介入を終了させます。
目が覚めた二人が、びっくりしているのを
確認して、貴方は姿を消します。

鈴木俊郎 通常 / 提案 / 派生 / シナリオ

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最終更新:2006年12月01日 23:05