地球を貫通するトンネル内の落下運動
仮に、地球の中心を通って真裏まで貫通するトンネルが掘れたら、中に落とした物体はどんな運動をするか?
地球の中心圧力は約400万気圧、中心温度は推定5,000~8,000Kもあるので、現実的に掘るのは不可能ですが、力学の思考実験として、面白い問題です。よく質問されるので、理論上の解を例示します。
仮定として
- 落下物体は質点とする。
- 地球の密度は球対称とする。
- 空気力は考えない。(トンネル内は真空)
- トンネル壁面との摩擦もない。
- 自転の影響を無視。
つまり、地球内部で生じる重力のみで、自由落下した運動として考えます。
ちなみに、自転を考慮した場合、コリオリ力で壁面に押しつけられる力が発生します。壁面との摩擦ゼロを仮定してるので、直接的に上下の減速度は生じませんが、壁に対する垂直抗力から横方向速度をもち、それが遠心力を発生させて、間接的に上方向加速度が発生します。とはいえ、この遠心力が最大となる赤道上でも、重力の300分の1くらいの小ささです。
(1)運動方程式
時刻
における物体の位置を、地球中心から出発点へ向けて
とする。
この点の地球中心からの距離は
である。
万有引力定数を
m
3/s
2kg
地球の半径を
km
とする。
球対称な質量分布の場では、質点に働く万有引力は、原点からの半径
の仮想的な球の内部にある質量が、すべて原点に集中している場合と等しくなる。
より外側の質量の影響は、ちょうどうち消し合う。
証明は省略しますが、積分するとそうなります。大学の初等物理では定番の例題なので、検算してみるとよいでしょう。ついでに、これもよくある質問ですが、地球の内部が球対称な空洞だったら、中心のみならず空洞全域で無重力になることがわかります。
中心から
の点での密度を
とすると、
より内側の質量は、
であるので、その点での重力加速度は、
これらを用いて、運動方程式は、
となる。
(2)地球の密度が均一の場合の解析解
地球の密度分布が均一の場合、簡単に解析解が得られる。
地球の質量
kg
平均密度
g/cm
3
であるので、
より内側の質量は、
ここで、地表での重力加速度が、
m/s
2
であること使って、
つまり、地球内部の重力加速度は、中心からの距離に比例することになり、運動方程式は、
これは、単振動の運動方程式であるので、解は
となる。
この単振動の周期は、
5061秒(84.34分)
これは高度0の人工衛星の軌道周期と等しくなる。
約42分後に地球の反対側のトンネル出口にちょっと顔を出し、約84分後に入口に戻ってくる。
最高速度は地球の中心を通るときで、
km/s
これは第一宇宙速度と等しくなる。
(3)地球内部の密度分布モデル(PREM)を使用した数値解
実際には地球の密度分布は均一ではなく、中心ほど高密度になっている。
そこで
標準地球モデル(PREM)を用いて、計算してみる。
PREMが数値表のモデルであるので、
は数値積分で求める。
この密度分布を用いて計算した。以下、
赤線はPREMの密度分布を用いた数値解
青線は密度均一モデルの解析解
周期は4582秒(76.36分)。均一密度モデルより、早くなる。
グラフではよく分かりませんが、地表の近くでは、余弦波よりも、やや放物線に近い形状となります。
地球中心を通過するとき最大で、9.92km/sである。
密度の高い中心核に強く引かれるので、青の正弦波より、ピークが鋭く三角波に近い曲線となります。
(4)対蹠点
この問題で、よく「日本からアルゼンチンまで」とか「日本からブラジルまで」と表現されますが、日本の真裏(対蹠点)ってどこでしょう?日本から真っ直ぐ掘ったら、出口はブラジルやアルゼンチンではありません。南大西洋の中です。
う~ん、かろうじて南西諸島がブラジル南部にかかっています。
参考
最終更新:2010年10月13日 09:33