2011-06-03



ニュージーランドの水力発電

ニュージーランドは,2025年までに再生可能エネルギーの比率を90%にすることを国家目標にしています。GLOBAL NOTE にある世界銀行の2007年のデータでは,ニュージーランドの総発電量の53.6%は水力発電によるとのこと(日本は6.58%)。果たして日本でもそのようなことはできるのでしょうか? 発表されている数字をもとに検証してみました。実はこれらの検証をどこかのブログで見たのですが見失ってしまい,検索をかけても見つけることができず,自分で調べてみることにしたのでした。

ニュージーランドと日本

水力発電は環境(地形や気象)に依存した発電方法です。日本とニュージーランドはどちらも火山島で,よく似た地形ですので,これをざっくりと相似形と見て比較してみることにします。Wikipediaによるとニュージーランドの国土面積は268,680[km2],日本の国土面積は377,916[km2]です。日本の国土面積はニュージーランドの1.41倍です。
水力発電所は,水の位置エネルギーを電気エネルギーに変換する施設です。位置エネルギーはある物体の質量とその高さを掛けることで求められます。水力発電であれば水の質量とその落差です。

左の小さいプリンがニュージーランド,右の一回り大きいプリンが日本です。上の平面に降った雨が下の面にまで落ちて発電することを考えます。ニュージーランドと日本の降水量が同じなら,発電に使える水量は集水面積に比例します(2008年の降水量はニュージーランドが1,732[mm/年],日本が1,668[mm/年]でほぼ同じです)。ニュージーランドの集水面積をS[km2]とすると,国土の面積比から日本の集水面積は1.41S[km2]になります。落差は水を集める上面と,水を落とす下面の差です。相似形と仮定したのでこれは面積の平方根に比例します。ニュージーランドの落差をh[m]とすると,日本はその√1.41倍の1.19h[m]になります。ニュージーランドと日本はどちらも先進国なので,双方の水力発電設備は同じ技術レベルをもっている,同じエネルギー効率をもっているものと仮定します。水力発電量は水量(集水面積に比例)と落差を掛けたもので得られ,それをそのまま比較してみます。ニュージーランドの発電量をE[kWh]とすると,日本はその1.41×1.19倍の1.68E[kWh]になります。

さてこの数字を実際の水力発電量と比べてみることにしましょう。GLOBAL NOTE の2007年のデータによると水力発電量は

   ニュージーランド  23,516[百万kWh]
   日本        74,009[百万kWh]

とのこと。これは世界銀行が発表した数値です。日本の水力発電量はニュージーランドの3.15倍です。つまり日本は,環境から予想されるよりもおよそ2倍の発電量を得ているのです。あるいは逆の言い方をすると,ニュージーランドは環境から予想される発電量の半分しか得られていないのです。また別の見方をすると,ニュージーランドの水力発電の効率が日本並みなら,ニュージーランドが必要とするすべてのエネルギーは水力発電だけでまかなえるのです。ニュージーランドが発電量の53.6%を水力発電でまかなえているのは,国の経済規模が小さく,それで充分間に合うからなのでしょう。実際,日本とニュージーランドでは,GDPの差は40倍にもなります。このような状況の日本でさらに水力発電を推進しようとすれば,条件の悪いところにダムを作らざるを得ず,それは発電効率の低下と発電コストの上昇(と,さらなる環境破壊)を招くでしょう。水力発電は,原子力発電と比較して燃料費を必要とせず,メンテナンスコストもかなり低そうです。しかし,ダムの撤去費用は,原発廃炉と同じくらい膨大なコストが発生しそうです。というわけで,水力発電にバラ色の未来を賭けることは,現在の日本では非常に難しそうです。

根拠に基づいた脱原発

ニュージーランドにできるのだから日本にもできるはず,などという話をあちこちで眼にする機会がありました。で,実際どうなのかと調べてみた結果がこの記事です。

私は反原発・脱原発の運動が非科学的な感情に駆動されたあげく市民の支持を失って失敗に終わることを恐れています。スリーマイルの後で,チェルノブイリの後で,日本が脱原発に踏み出せなかったのはそのせいだから。また,反原発・脱原発の運動が非科学的な感情に駆動されたまま成功してしまうことも恐れています。それは結果さえよければ手段は問わないと言っているのと同じことだから。根拠に基づいたかたちで脱原発が達成されることを願っています。




参考リンク



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最終更新:2018年08月26日 19:39