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躁病・気分障害

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概説
 古くから統合失調症とともに2大内因性精神病とされていたものが、この気分障害に相当する躁うつ病です。内因性というのもわかりにくい考え方ですが、脳に何らかの異常(脳腫瘍や脳出血、あるいは脳の感染症など)があって生じる器質性の精神病や、ストレスやショックな事件などはっきりとした心理的因子によって生じる心因性の精神病と違って、脳に器質的異常がなく、またはっきりした心因がないのに生じる精神病が内因性精神病と呼ばれてきました。
 しかし、例えばリストラを契機に落ち込んでしまって食事ものどを通らなくなる状態が、心因性のうつ病なのか、内因性のうつ病なのかの区別をつけるのは難しいし、そのようなことをすることに科学的な意味があるのかという疑問が起こります。
 現在のアメリカの精神科の診断基準であるDSM-IV(「精神障害のための診断と統計のマニュアル」第4版)では、気分障害として旧来躁病やうつ病、躁うつ病とされていたものがまとめられています。また、WHOによる国際基準(ICD-10:国際疾病・傷害および死因統計分類)でも気分(感情)障害というふうにまとめられています。
 なおアメリカでは感情障害というより、気分障害という呼び方のほうがより明確な呼び方であるということで、1987年版のDSM-III-R(第3版改訂版)より感情障害が気分障害という名前に呼びかえられました。しかしICD-10では、原則的に気分障害といいますが、感情障害といういい方も残すという立場をとっています。
 この障害における基本的な症状は気分の変化で、ひどい落ち込みや昂揚感です。この障害の際には、多かれ少なかれ、この気分に支配された状態になってしまいます。そのため、通常はその支配する気分(抑うつ、昂揚)によって活動性が大きく変わります。
 一生のうちにこの障害に冒される可能性は意外に高く、5%から25%の人が一度は経験するとされています。現時点でこの障害を患う人も約3%と見積もられています。そして、1:2の割合で女性に多いとされています。ただし、よく躁うつ病とはいわれますが、実際は躁病や躁状態を経験する人は、この障害の10人に1人程度で、大部分はうつ病やうつ状態のみを経験します。現状では原因不明とされていますが、最近は治療法が進歩し、大部分のケースでは、少なくとも症状が緩和されるようになってきています。

症状
 この障害の基本的な症状は気分の変化とそれに伴う活動性の変化です。抑うつ状態の時には何もできなくなって、躁状態の時には派手に動き回るという具合のものです。こういう際に、患者さんは自分をコントロールできているという感覚を失い、多くの場合、その症状に苦しみます。また抑うつ状態になると悲観的になったり、躁状態になると非現実的なほど楽観的になるなどものの見方が変わったり、不眠や食欲低下など植物的機能(自律神経機能)とされるものも冒されます。
 うつ状態と躁状態では大きく違う病像ですが、それが人間に通常起こるレベルの気分の変動とどう違うのかも問題になってきます。アメリカの診断基準であるDSM-IVでは、大うつ病エピソード、躁病エピソードの診断基準が記載されていて、その中のどれをいくつ、どのくらいの期間満たすかで診断をつけるという立場をとっています。

 大うつエピソードの症状とされるものは下記です(訳は高橋三郎らによる)。
 1.その人自身の言明か、他者の観察によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
 2.ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退
 3.食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加(例えば、1カ月で体重の5%以上の変化)、またほとんど毎日の、食欲の減退または増加
 4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
 5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
 6.ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
 7.ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感
 8.思考力や集中力の減退、または、決断困難がほとんど毎日認められる
 9.死についての反復思考、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画

 躁病エピソードの症状とされるものは下記です(訳は高橋三郎らによる)。
 1.自尊心の肥大、または誇大
 2.睡眠欲求の減少(たとえば、3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
 3.普段より多弁であるか、喋りつづけようとする心迫
 4.観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
 5.注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でない関係のない外的刺激に転導される)
 6.目標志向性の活動の増加、または精神運動性の焦燥
 7.まずい結果になる可能性の高い快楽的活動に熱中すること(例えば、制御のきかない買い漁り、性的無分別、馬鹿げた商売への投資などに専念すること)

 このような症状がいくつも(大うつ病の場合は5つ以上、躁病の場合は3つ以上)生じ、また一定期間続く(大うつ病の場合は2週間以上、躁病の場合は1週間以上)と、この障害の診断を受けることになります。これより軽い抑うつが2年以上続く、気分変調性障害というものも気分障害に含まれます。

診断
 アメリカの診断基準(DSM-IV)では、現在、この気分障害に含まれるものは、「大うつ病性障害」「気分変調性障害」「特定不能のうつ病性障害」「双極I型障害」「双極II型障害」などがあります。
 大うつ病性障害は、上記の大うつ病性エピソードの症状のうち5つ以上が同じ2週間に存在することと、そのために著しい社会的、職業的な機能の障害を引き起こしていること、そしてそれが大切な人を失った時の死別反応などではうまく説明されない時にその診断が下されます。
 気分変調性障害は、大うつ病性エピソードよりは症状が軽いものの、2年以上続き、やはり臨床的に著しい苦痛や、社会的、職業的などの領域で機能の障害を引き起こしている時にその診断が下されます。
 双極I型障害もII型障害も、旧来躁うつ病といわれていたものです。I型では、基本的には躁病エピソードの症状のうち3つ以上が1週間以上持続し、それが職業的機能や社会的機能や他者との人間関係に著しい障害を起こすほど激しいものであることが条件とされ、うつ状態になったことがあってもなくてもこの診断が下されます。
 II型では、上記の躁病エピソードの症状のうち3つ以上が4日間以上続くのですが、それが職業的機能や社会的機能や他者との人間関係に著しい障害を起こすほど激しいものではないことが条件とされます。かつては、内因性の躁うつ病と神経症の躁うつ病を厳密に分けようとすることが多かったのですが、このように基準にあてはめたほうが、診断をつけるのも投薬するのにも、はるかに実用的であると最近は考えられるようになってきています。

標準治療
 もちろん、うつ状態にいる場合と躁状態にいる場合では、治療の方針が違います。うつ状態の場合には、基本的には患者さんに休息をとらせ、これは自分のせいで起こったことではなく立派な病気であることを知らせ(能力が発揮できなかったり、気力がないことについて自分を責める人が多いため)、さらに薬を使うことが一般的です。
 自殺のおそれがある場合や、環境を変えないと必要なだけの休息がとれない場合などは入院治療も行われます。
 薬については、三環系抗うつ剤とか、四環系抗うつ剤と呼ばれる薬を使われることが多く、食欲低下が目立つ場合は、もともと抗潰瘍剤であったスルピリドという薬も汎用されています。それに加えて患者さんの不安が強い場合は精神安定剤を、不眠が強い場合は睡眠剤を投与します。
 うつ病の場合、不安や不眠の症状が強くでることが多く、最初から安定剤や睡眠剤で対応しようとすると相当の量の薬が必要となり、またどんどん薬の使用量が増えてしまうことが多いのです。そのためまず抗うつ剤を使って、これらの薬のベースラインを下げておく必要があります。最近、上記のようなはっきりとしたうつ症状を示さずに、不眠や不安の症状が表にでるものもめずらしくないため、頑固な不眠や不安が続く場合も、抗うつ剤を投与する価値があるでしょう。このような場合も広い意味でうつ病と考えてよいでしょう。
 これらの抗うつ剤は、おおむねどの種類のものも約7割の患者さんに有効とされています。これらの薬が有効でない場合や、あるいは特に高齢者の場合、三環系、四環系の抗うつ剤では、口渇や便秘などの抗コリン症状という副作用がでやすいため、最近注目されている薬にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)があります。
 その他、薬が効かなかったり、薬の副作用がでやすい場合、自殺念慮の強い重症のうつ病などに対して、電撃療法が用いられることもあります。最近では筋弛緩薬と全身麻酔を用いて無けいれんで苦痛を伴わないやり方が開発され、高齢者にも安全であることが注目されています。
 また、うつ病になるとものの見方が悲観的になり、それがさらにうつ病を悪化させるという悪循環を断つために、ものの見方を変えさせる認知療法も注目を集めています。特にこの治療は再発の予防効果が期待されています。
 躁状態の場合は、炭酸リチウムが有効とされています。これは躁状態の時に限らず、双極性障害の場合は、躁状態にもうつ状態にも半数以上で予防効果がみられます。その他、カルバマゼピンというてんかんの薬や抗精神病薬も有効とされています。


※「標準治療」は診療活動をする専門医により行われている一般標準的な治療法の解説です。厚生労働省や学会で作成した「ガイドライン」そのものではありません。
病後の経過
 このような治療法の進歩に伴い、症状に苦しむ時期や症状の重症度をやわらげることができるようになりましたが、うつ状態でも躁状態でもない時期には普通に日常生活や社会生活を送れることが通常です。しかし、長期的にみると、何度も繰り返すことが多く、必ずしも予後のよい病気とはいえません。
 うつ病の場合は、標準治療の項で述べた認知療法による予後の改善効果が期待されています。ただ、最も予後を悪くするのは、何といっても自殺企図です。命を落としたり、取り返しのつかない後遺症が残るのはこのためです。薬物療法や精神療法、認知療法、そして電撃療法も含めて、あらゆる手段を講じてでも、その予防に努めなければなりません。そのためには放っておいてもいつかはよくなる病気と考えずに、医師のもとを訪ねるのが必須なのです。

生活上の注意
 本人の生活としては、なるべく休息することが必要です。早くよくなるようあせることなく、ゆっくり休むようにしておくのが好ましいのです。回復後も負担が過重にならないように気をつけるべきでしょう。
 うつ病の場合、何より大切なのは自殺の予防です。特に焦燥感が強い時期や治りはじめのようにみえる時期は、家族による十分な注意が必要です。また、うつ病患者は罪悪感を持ちやすいため、なかなかよくならないことに家族があせりをみせることは避けるように努めたいものです。
 そのほか、励ましの言葉をかけると、自分ががんばりたいのにがんばれないため、かえって追い込まれた感じをもって症状が悪化することがあります。まず相手の話を聞いてあげることが大切です。

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