向日葵と月

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「姫様、戻りましょうよー」 「あら、良いじゃないの。この辺りはまだ来たことのない所だからもっと見て回りたいわ」 「…だから困るんですよー、帰りが遅くなっちゃうじゃないですかー」 永遠亭の詐欺兎、因幡てゐは放って帰りたい、という衝動を必死に抑えながらマイヘースに歩を進めるその人物に必死について行く。 「永遠のお姫様」こと蓬莱山輝夜にである。 幻想郷における永夜事変まで輝夜が自由行動が許されたのは永琳の術が常に届く竹林の範囲内までであった。 その反動なのか、自由に出歩けるようになった今ではこうしてよく竹林の外に出かけるようになっていた。 …そう、少々やんちゃ過ぎるほどに。 『今日はちょっと別の用事があって姫様にはついて行けないの。代わりをよろしく頼むわね、てゐ?』 そんな永琳の言葉を思い出して、てゐは内心深くため息をついた。 いつもなら他の兎達に押しつけるような類の仕事なのだが、永琳から直々に頼まれたのでは断るに断れない。 逆らっていい相手と逆らってはいけない相手の判別くらいは付くつもりだった。 「それにしても、随分辺鄙な所。ねぇ、ここがどこなのか知ってる?」 「えっと、確か魔法の森とかいうところの近くだったような…。それより姫様、もう帰りましょうよー」 「あら、あんな辺鄙な所に建物があるわ。行ってみましょう」 「…はぁい」 聞く耳を持ってくれない輝夜にがくりと肩を落としながらてゐはついて行くしかできない。 彼女もまたてゐにとって逆らってはいけない人間の一人なのだ。 やがてたどり着いたのは一見のお世辞にも綺麗とは言い難い建物の前。 「香霖堂」と大して目立たされるという意図も感じないような看板が控えめに立て掛けられている。 「お店、なのかしら?イナバは知ってる?」 「…私は来るのは初めてですけど、この辺りに古道具屋があるとは聞いたことがあります」 「あら、古道具屋。それは面白そう、入ってみましょう」 てゐはしまった、と軽く後悔する。 蒐集家というほどでもないが、輝夜は古い道具に目がないのだ。 古道具屋なんて彼女からすれば宝物の山があるようにしか感じないだろう。 これでまた帰るのが遅くなるな、と思いながら輝夜とともに香霖堂とやらの暖簾をくぐる。 ――そして、てゐはさらにその店に入ったことを後悔することになる。 「いらっしゃい」 店主と思しき眼鏡姿の男性があまり愛想がいいとは言えない出迎えをしてくれる。 「おや、初めてのお客さんであってたかな?」 「ええ、この辺りを散策していましたら珍しくお店を見つけましたので、良い商品でもないかと思いまして」 どこかのご令嬢とも思わせる丁寧なしぐさに、極上の笑顔。 輝夜を知る人間からすれば「誰お前」とでもいいそうな変わり身の早さだった。 「冷やかしでないなら大歓迎だ。それにしても今日は千客万来だな。初めてのお客さんが連続で来るなんて」 言われててゐはようやく店内にいたもう一人の人物に気がつく。 そして、同時に固まった。 「お初にお目にかかりますわ、永遠亭の姫君様。私、風見幽香と申します。噂は聞いております」 風見幽香、てゐの関わり合いになりたくない人物リストのベスト10に入る人物だ。 いつぞやの花騒動の時には軽く会った程度だが、その「軽く」でとんでもない目に合わされているのだ。 「あら、それはご丁寧に。初めまして」 (あわわわ…) 知ってか知らずか、いや恐らく知っていてもそうするだろうが輝夜は何事もないように返す。 逃げ出したい衝動にかられたが、そんなことをした後の方が怖いのでてゐは動くに動けない。 「それにしても噂になってるなんて私も有名人のようで」 「ええ。――人もどきと若造の妖怪にやられるような新参者ということで笑い話の種に」 「……」 刹那、空気が凍ったのは決しててゐの気のせいではなかっただろう。 幽香は満面の笑みだ。 てゐはその笑みの意味をよく知っていた。 幽香のそれを知っていたわけではないけど、それと同じ種類のものを身近でよく見ているのだから。 それはどうしようもなく底意地の悪い思いつきをした時の笑みだ。 ――そして、対する輝夜も全く同じ笑みをしていた。 「私程度でそれなら、人間一人に敗北したという貴女はさぞかし物笑いの種になっているのでしょうね」 「……」 凍った。余地なしまでに完全に空気が凍りついた。 それは氷点下をさらに下回る空気の凍りつきっぷりだった。 「…私のことはご存知でしたか。ご意地の悪い」 「いいえ、他にやることもなかったもので知識だけは無駄にあるので」 うふふ、と笑みを浮かべる二人。 これは何かの罰ゲームなのだろうか、と真面目に考えてしまうてゐ。 真面目に生きてるだけなのにこの仕打ちはあんまりである。 「知識と言えばそう。こんな昔話が」 「…へぇ、知識のある貴女の昔話ならさぞかし面白い話なのでしょうね」 「いえ、とても単純な話よ?ある人が私が趣味でやっていたなぞなぞ遊びにケチをつけてきてね、『解けないのが前提の謎なんて卑怯だ』なんて言うの」 「善人ですわね」 「ええ、だからその人にはとびきりの謎をあげたわ。『永遠』という命題をね。彼女の永遠に悩んでる姿でも見て退屈をしのぎにしたいと思って。私これでも粘着質なものですから」 「あら、出来れば喧嘩は売りたくない人ですわね」 うふふ、と輝夜は微笑んだ。 「昔話なら私もこんなのがありますわ。その昔、下衆な妖怪がいたんだけど、その下衆以下の力しかない哀れで弱っちい力しか持ってなかった妖怪が一人ゴミのように蹂躙されたの」 「その後はどうなったのかしら」 「とても単純な話。その後強くなった蹂躙した相手に蹂躙され返されたそうよ。相手の絶望した顔なんか笑えて仕方なかったそうですわ」 「あら、それはとても恐ろしいわね」 ふふふ、と幽香も微笑む。 二人とも微笑んだまま一歩も引かぬ媚びぬ省みぬ状態だった。 (…何この人外魔境) もはやてゐは考えるのも疲れたので場に状況を任せるしかない。 ちなみに店主はこんな空気にもかかわらず本を読んでいた。 どんだけ暢気なんだ。 それからどれだけ時が過ぎたのだろうか。 先に表情を崩したのは幽香の方だった 「ここまでしておくわ。噂の姫君が油断ならない相手と分かっただけで私としては満足」 「あら、難題にチャレンジしてくれると思っていたのに」 「一つ教えてあげる。私は勝ち目が少しでもないなら戦わない主義なの。もしこちらから貴女に挑むことがあるなら100%勝てる時よ。それに――」 「それに?」 「こんな所で辺鄙なところでやり合うのだけは御免よ」 「それは私も同意ね」 ふふふ、と先ほどまでとは打って変わって和やかに笑い合う二人。 「それじゃ、私は行くわ。今度会う時は敵同士であることを祈ってますわ」 「良いわね。あなたと戦えるのなら信じてない仏に祈ってもいいわ」 「ふふ、その時を楽しみにしてるわよ」 そうして暴風は去って行った。 「勝てるか勝てないか分からない戦いだから面白いのに。そう思わない?イナバ」 「…多分それは姫様だけと思いますよ、あと焼き鳥の人」 幽香の姿が見えなくなってからそんなことを呟く輝夜にてゐは一応突っ込みを入れておく。 きっとそれは感性というか生死があるかの問題。 「ああ、そうだ。欲しいものが会ったら遠慮なく言ってくれ。一応売り物だから勝手に持って行かれると困る」 「ええ、分かってますわ」 今頃しれっとそんなことを言う店主に、 (…こんなとこで店開いてる時点でまともなわけないってことなのね) そう強く感じたてゐであった。 ついでにこの姫様のお供なんて弐度とするか、とも強く誓ったとか誓ってないとか。 オチてないけど終わり

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