木を隠すには森の中、という言葉がある。それでは、闇を隠すにはどこがいいのだろか?答えは単純。闇を隠すには闇の中に隠せばいいのである。つまり昼まであれば光が全く届かない洞窟の中。――そして、夜であれば光を発する以外のその世界のすべてが闇を隠すうってつけの環境となる。彼女――ルーミアはそんな闇の中に生きる者。そして、現在月のほんの僅かな光だけが彼女を照らす光景である。―――ああ、それは正確ではない。彼女には何も見えない。だって周りに広がっているのは無限の闇だけなのだから。その瞳に光は映らない。その瞳は何の機能も果たさない。否、彼女にとって光の世界そのものが何の意味もなしていないのだ。
そんなルーミアにとっても聖地と呼べる空間がある。つまるところがと一番くつろげる空間であるのだが、そこはとある神社の縁側であった。夜中に何気なしにぶらりと神社に忍び込んで、勝手にお茶を入れてお茶を堪能するのが彼女にとっての何よりの楽しみであった。本来ならお互いに敵対するような立場であるのだけれど、あの仕事に不熱心な巫女ならこの程度は全力で見逃してくれる、そういう確信が彼女にはある。実際何度か見つかっているのではあるが、本人はわざとらしく何も見なかったふりをして立ち去っている。そして、これは滅多にないことだが、独り言のようにそして彼女に何かを語りかけるようにして話して去っていくこともある。それだけで彼女にとっては何よりの安心でもある。闇を拒否されない、それだけで彼女にとっては何よりの救いであるということをあの巫女は知っているのだろうか?闇が広がる名が出自分の証明をしてくれる存在がどれだけ貴重な存在かを彼女は知っているのだろうか?いや、きっと知らないだろう。それは彼女自身も気づいていないことなのだから。知らずに自然体で何もかもやり遂げてしまうからこそあの巫女はこの常識が存在しない幻想郷の巫女足り得るのだから。
彼女の視線の先には変わらず闇が広がる。無限の闇。ルーミアはそれ以外の世界を知らない。けれども、それ以外の世界があるということも彼女は知っている。それは、どんな世界なのだろうか。この闇だけの世界と何が違うのだろうか、その差すら彼女には何も理解できない。それでも、彼女は生き続ける。闇を体現する存在として。どんな光さす世界にも必ず闇が存在するのだと、それを証明していくために。
――この世界に闇という世界がある限りは彼女はいつでもそこに在るのだから。
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