長髪咲夜さん


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「やぁ、今日は随分と客人が多いね。」

ある日の昼下がり―――河城 にとり は博麗神社を訪れた。
神社の巫女さん 博霊 霊夢 が、いつものように縁側で茶を啜っている。
客人とは、霧雨 魔理沙 と 東風谷 早苗 のことである。
2人も霊夢の隣でぽわんとしていた。

「あんまり客って感じはしないけどね。邪魔なだけだし。」

にとりの挨拶に霊夢は物憂げな返事を返す。
しかしそんな事を二人の客人は歯牙にもかけなかった。

「おぅ、邪魔してるぜ。」
「まぁ、私なんか商売敵ですしね。」

果たして神職を商売と言って良いものか、にとりは一瞬疑問に思ったが、
本職の人が言ってるから別にいいや、と考えるのをやめた。

「それにしてもアンタが来るなんて珍しいわね。一体今日は何のご用?」

霊夢の質問に、にとりは得意気な笑みを浮かべた。

「うふふ、今日は皆に見せたいモノがあるんだ!」
「何それ・・核融合は勘弁しなさいよ?」
「お、なんだなんだ、新発明か?」
「まぁ、楽しみですわね!」

3人の反応に、にとりは自信ありげに続けた。

「今回はスゴイよ!人間達の悩みを1つ取っ払う、
 画期的な発明だからね!・・ホラ、これ!」

どんっ、と景気よく縁側に置かれたのは、一本のビンだった。
中は怪しい黄緑色をした液体で満たされており、
置いた時の衝撃で、ちゃぷちゃぷと音を立てていた。

「何よ、これ?」
「毛生え薬さ!」
「まぁ、素敵ですね!」

早苗が嬉しそうに言った。
どこがどう素敵かはあまり考えていないようだ。

「確かに身近な発明だな。ちゃんと効くのか?」
「もちろん!・・と言いたいところだけど、人体実験はまだなんだ。
 動物に使ったら、上手くいったけどね。
「あら、じゃぁあともう一踏ん張りですのね・・。」

早苗が残念そうに言った。
要するに、早苗は聞き上手だった。

「そうなんだ、・・それでね、誰か実験に協力してくれる人を探してるんだけど・・」
「なっ・・冗談じゃないわよ!」
「まぁ、幸い髪の毛には困ってないしな。」
「せめてそういうのを必要とする人を知っていれば良かったんですが・・すいません。」

3人の返事に、にとりは大分ガッカリした顔をした。

「やっぱりダメか・・あーあ、実験して成功しなきゃ、皆に売れないよぉ!」
「金取るのか、しっかりしてるぜ。」
「なるほど、『ちゃっかり』じゃないんですね!」

変なところで早苗は感心した。

「そもそも、髪の毛が薄い人じゃなきゃ、そんな薬必要としないでしょ。」
「ん~?・・あ、そうだ!じゃぁ、これ!」

どんっ、とにとりはまた景気よく別のビンを置いた。
中身はまたもや液体だが、今度のは色が赤黒く、ぶくぶくと泡が出ていた。

「何だ、これ?」
「脱毛薬さ!どんな毛根も一瞬で殺してくれるよ!
 だから、一旦これを被って、それからこっちかけてみてよ!」

にとりのこの提案に乗るものは、勿論誰もいなかった。
この間にもビンの中の『脱毛薬』はコポコポと音を立てている。
あまりの怪しさに、流石の魔理沙も少し顔をしかめていた。

「っていうかこれ、安全なのか?
 毛と一緒に皮膚までもっていかれそうだぜ・・」
「うん、こっちはもう、実験済みだからね。
 見た目は毒々しいけど、人が使っても安全だよ!」
「あら、そうなの?だったら私、使ってみたいな。」

霊夢は、この毒々しい脱毛薬に興味を示した。
彼女の意外な反応に、にとりは顔を輝かせた。

「ホント!?ありがとう、助かるよ!」

そう言うとにとりは、すかさずビンを手に取り蓋を開け、霊夢の頭にぶちまけた。
ジュウウウッ!!と何かが酸で溶けるような音がして、霊夢の頭は白い煙が立ちこめた。
やがて霊夢の髪の毛が抜け始め、はらはらと音も無く地面に落ちていった。

「ぎゃぁああああああ!!何してんだこの糞ガッパ!?」
「善は急げってね。大丈夫だよ、実験はすぐ終わるから!」
「誰がアンタに協力するっつったのよ!
 私はただ、腋毛の処理に使ってみたかっただけよ!!」

「あ、なるほど、それなら私も使ってみたいですね。」

早苗は呑気だ。

「なぁんだ、そういう事か。私は驚いたぞ、霊夢。
 ハゲに憧れる女なんて、幻想郷でも珍しい。」
「そんな女いるかよっ!」

霊夢が魔理沙に突っ込む間も、彼女の毛髪は死滅し続ける。
リボンで結わえた髪の束がまるごと抜け落ち、くしゃりと地面で広がった。
とうとう霊夢の天頂部は草木の生えぬ荒野と化した。剥き出しの肌が心なしか眩しい。

「あぁっ、私の髪がぁああ!ちょっとアンタ、どうしてくれるのよ!?」
「う・・や、やだなぁ霊夢!別にアンタをハゲにするのが目的じゃないんだから!
 さぁ皆、本番はこれからだ!こっち毛生え薬を使って、
 今からこの霊夢のハゲ頭をふっさふさにしてみせるよ!」

そう言うとにとりは、もう1つのビンの蓋を開け、霊夢の頭にぶちまけた。
ハゲ頭が水を滴らせて一層眩しく見える。だが、いつまで経っても髪の毛が生えてくる事はなかった。

「ちょっと・・何も変わらないじゃない。いつになったら生えてくるのよ?」

不安げな霊夢に、にとりは焦っていた。

「お、おっかしいなぁ・・山の獣達はかけてすぐふっさふさになったのに・・。」
「お前、山の獣にもこんな実験してたのか・・」
「え?まぁ、脱毛薬の方はかけてないけどね。
 アイツら、これを見ただけで怖がって逃げちゃうから。」
「え?じゃぁ毛が生えた動物さんに毛生え薬を?」
「うん、元々あった毛がボーボーに伸びてね。
 アイツら、ちょっと歩きにくそうだったなぁ・・」

にとりがククッとイタズラ小僧よろしく笑った。
しかしそれを聞いて魔理沙と早苗は笑えなかった。

「お前それじゃ・・」
「ん?なんだい?」

気づかないにとりに、怒り狂った霊夢は胸倉を掴んで迫った。

「お前それじゃあ、『毛生え薬』じゃなくて『毛伸び薬』でしょうがぁ!!」
「え、あっ、そうか!私ったら、こんな初歩的なミスを・・っ!」
「まぁ、人は失敗をバネに成長するもんだぜ?お前妖怪だけど。」
「その前に魔理沙さん、慰める人が違いますよ・・。」

流石の早苗もこれには突っ込んだ。

「もう、どうしてくれるのよ!こんな頭じゃ、誰とも会えないじゃないの!」
「神様に頼んで帽子作って貰えよ。」
「そうですね、もうすぐ新作ですし、イメージチェンジという事で。」
「そういうのはアンタらに任せるわよ!」

突っ込む霊夢に、にとりは申し訳なさそうに謝った。

「う~・・ごめんよ、霊夢。お詫びと言っちゃ難だけど、
 とりあえず禿げたのが分からないようにする道具をあげるよ・・ちょっと前時代的だけどね。」



―――後日。

「こんにちは、霊夢さん!今日も良いお天気ですね!」

博麗神社を訪れた射命丸 文はハキハキと挨拶した。
霊夢は掃き掃除の最中だったが、彼女を見て手を止めた。

「あぁ、こんにちは、文。
 じゃぁね、今、忙しいから。」

それだけ言って霊夢はいそいそとその場を立ち去る。

「なんですか~つれないですね・・皆が噂してるんですよ?
 『最近アナタが人目を避けてる』って・・。」
「べ、別に、避けてなんかないわよ、私は、忙しいのよ!」
「最近は仕事もサボらないで、一体何してるんですか?」
「だから仕事よ!」

執拗に追っかけてくる文に、霊夢は苛立ちを隠さなかった。
終いには家に入ろうとする霊夢の腕を文は掴み、
それを振り解こうと霊夢は腕を引っ張った。

「放しなさいよ、清く正しい新聞記者が聞いて呆れるわね!」
「半分は本気でアンタを心配してるのよ?
 あくまで半分だから、両腕は掴まないけど!」
「ワケ分かんない事言ってんじゃなーい!」

パサッ。
取っ組み合いの最中。
霊夢の頭から、何かが落ちた。

「・・ん、何?この黒くてふっさふさの・・!!!!」

文は黒い固まりを取ろうとしたが、
その前に霊夢の頭を見て全てを理解した。
彼女の頭は、てっぺんが大きく禿げ上がっていた。
横の髪は残っていたが、それが逆に落ち武者のようで余計に滑稽に見えた。

今地面に落ちた固まりは、にとりがくれた『カツラ』だったのだ。

「・・・・・・っ!!」

見られたくないものを見られた霊夢は、
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めて今にも泣きそうだった。

しかし、そんな霊夢を前にして文は何の後悔もしていなかった。

「・・そう、霊夢、アンタもだったのね・・。」

そういうと文は自分の髪の毛をわし掴みにして、引っ張った。
すると文の髪は何の抵抗もなく、ごっそりと抜けた。
抜けた、というより、取れた、といった方が正しいだろう。
文もまた、頭にカツラを被っていたのだった。
ヅラが取れた彼女の頭も、霊夢に負けないくらい眩しかった。

「えっ、文!?なんでアナタまで・・」
「この間、河童にいきなり変な水をかけられてね・・
 それからずっと、この有様だよ・・。」
「・・『実験済み』って、これじゃまるでテロじゃない・・」
「え?」
「いえ、なんでもないわ・・。」

そう言うと霊夢は文の肩にそっと手を乗せた。

「さぁ、中に入って。お茶でも飲んでいきなさい。」
「なんなら、酒でもいいわよ・・。」

二人は輝く頭を並べ、仲良く家の中に入って行った。

                                       ( 完 )
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