八雲紫


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txt名 「八雲紫」












―――結局あなたはアインシュタインが間違っているといいたいわけ?

―――そんなことは言ってないわよ。ただここ数年異常気象が続いているでしょ。
   蜜蜂なんてほとんどいなくなったじゃない。なのに人は減るどころか増えてるじゃない。

―――だから、アインシュタインが間違ってるってことでしょ?蜜蜂がいなくなったら人が絶滅するって言ったのは彼よ。

―――あら?私は彼は正しいとは言っていないわ。ただ勘違いしていると言いたいだけよ。

―――・・・結局同じことじゃないの。

―――細かいこと気にするのねぇ蓮子は。

―――まぁいいわ。ところで、最近あなたまた結界の向こう側に行ったでしょ?

―――どうしてそう思うの?

―――タラの芽が取れる時期はとっくに過ぎたわよ。なのになぜ貴方はタラの芽の天麩羅を作っているのかしら?

―――さぁ?そこにあったから・・・としか言えないわ。

―――全く、行くなら私も連れて行きなさいよ。

―――あら?結局貴方も向こうに憧れてるんじゃないの。

―――当然よ。あなただけずるいわよ。でも、最近向こうに行く回数が増えてきてない?
   前々から思っていたのだけれど、あなたの能力、結界を見る程度から、操る程度の能力に変化しつつないかしら?

―――確かに、最近は結界を弄れるようになってきたわね。
   今までは隙間を見つけて飛び込んでいたけれど、薄くなっている部分があったら飛び込めるようになったわ。

―――全く気持ち悪い能力ね。ところでメリー。
   今日は貴方に呼ばれてきたのよ。一体何の話?

―――呼んだけれど結局遅刻してきたじゃない。せっかくの能力が台無しよ。
   まぁ其れは置いといて・・・一つ決心したことがあるの。



                          • 懐かしい夢を見た気がする。
自分がまだ人間で、親友とたわいも無い会話を楽しんで、永遠に続くと思われた日常の夢。

紫は陽の光のまぶしさに耐え切れなくなり目を覚ました。
外は快晴。異常気象のためか3月でもさほど肌寒いとは思わなかった。
なぜあのような夢を見たのだろうと僅かの間思考する。
思い出すのに時間は要らなかった、単に昨日タラの芽を見つけたため、博麗神社に持っていただけだった。
霊夢はタラの芽が採れるのが早過ぎるといぶかしんでいが、こちらではもはや遅すぎるくらいであった。
あの会話は一体いつの話だったか。ずいぶん昔にも思えるし、つい最近のこととも思えた。

あの日、自身の人間としての境界を操った日、自分が人間をやめて妖怪となる道を選んだ日、親友にその決心を告げた日。
彼女は何て言ったのだったか。賛成したような気もするし、反対したような気もする。
ただ、メリーが改名をすると話したとき、一緒に考えてくれた。
苗字はあっさり決まった。“八雲”だ。
理由は簡単だ。過去にハーンという苗字の人間が日本に帰化したとき、八雲姓を名乗った、それを真似ただけ。
名前を決めるのは少々時間がかかった。
暫く悩んだ挙句、“ゆかり”を名乗ることとした。“ゆかり”は“縁”に通じる。蓮子との縁を断ち切りたくない気持ちの表れだった。
ただ、縁と漢字で表記した場合、蓮子に自身の考えていることがばれるのはくやしい、そして恥ずかしい。
だから同じ読みで“紫”とすることとした。



「あれ?紫様、珍しいですね。この時間に起きているだなんて」
そこまで記憶をたどった後、聞き慣れた声が思考をさえぎった。
空気の読めない狐である、あとでちゃんと躾ないと。
縁側には八雲紫の式神である八雲藍が、なにやら帳簿のようなものをつけていた。
どうやら各地での結界の強度や綻びが無いかを記録しているらしい。
律儀なものだと思ったが、よく考えたら自分がそうするように命令したのだった。

紫は改めて声の主のほうに向き直った。
彼女はこちらを一瞥した後に、再度記録と向き直った。
数式や文字は彼女の得意分野であった。もちろん自分のほうが得意だが。
彼女は何の迷いもなくいつまで結界がもつか、いつ張りなおすべきかなどの難しい計算を次々と暗算で解いていく。
紫は彼女を見ながら思い起こしていた。

人間をやめる決意、それは特にたいしたことではなかった。
幻想郷に何度も出入りするうちに、種族などどうでもいいと思ったからだ。
しかし、蓮子は人間であった、いつしか必ず別れの時が来ることはわかっていた。
人間をやめることは可能でも、其れに伴う別れは彼女にとっては辛いことであった。
人間をやめ精神が少し困憊していたころ、彼女は一匹の狐を拾った。
なぜ狐を拾ったのかはわからない。ただなんとなく拾ってしまったのだ。
紫は狐を自分の式として扱うことにした。
狐の名前は八雲藍。虹の七色の中で最も紫に近い色。最も近くにいてくれる色。
最初は“あい”にしようかと思ったが、“れんこ”の名前に少しでも近くなるように“らん”とした。
もちろん藍には何も言っていない。自分の心の弱さなど言える訳が無い。

「どうしたのですか、紫様?この計算、どこか間違っているでしょうか?」
藍は少し困惑したように紫に問いかけた。
そこで、紫はじっと藍を見つめ続けている自分に初めて気がついた。
「別にたいしたことはないわ、藍」紫は平静を装って彼女にそう答えた。
しかし紫の胸中の幽かな悲しみは消せなかった。
彼女はいつまで自分と共に居られるのだろう、不意に急に不安になった。

その場に居ることに気まずさを覚えた紫は、出かけることにした。
数日前、藍の記録をみて、最近人間の里より北西の結界が弱まっていることに気づいたからだ。
藍は非常に優秀だった、しかし全てを任せるわけにもいかなかった。
出かける寸前、紫は藍に聞こえるか聞こえないかわからない程度の声で藍に問いかけた。
「貴方は、ずっとそばに居てくれるわよね、藍?」
藍はビックリして紫のほうを見つめた。主人にそのように言われたことは初めてだった。
だが、その直後、藍はゆっくりとはっきりした声でこう答えた
「当然です、紫様」

幻想郷を守ること、それが彼女の最大の決意。そのために人間を捨てて友人と別れた。
だから幻想郷の平和は乱されてはならない、たとえ他人に嫌われようとも、たとえ理解されなくても。
たった一人、彼女のそばに居てくれる人物が居たら其れでよかった。
藍の答えを確かに聞き、彼女は真直ぐ歩き始めた。
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