めーりんの食卓


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『めーりんの食卓』

紅 美鈴が紅魔館の門番をやっているのは周知の事実である。
最近はそれに加え、実は彼女は門番をやるだけでなく、料理を作らせても一級である、という噂が立っていた。



射名丸 文はその噂を聞きつけ、美鈴に取材を試みた。しかし、
「根も葉もない噂でしょう」
美鈴は笑って手を振りそう答え、にべもない。

「いや、しかしですね、火の無い所にとも言いますし」
文は食い下がるが、
「やや、本当に。やっつけみたいな物しか作りませんから」
美鈴は邪気の無い笑顔でそう繰り返すだけである。

「むむむ、そうですか」
これ以上の収穫は望めまい、残念ながら。
文はそう判断し、美鈴に一礼した。
「お付き合いいただき、ありがとうございます」
「いえいえ。また来てくださいね、今度は館のお客さんとして」
「ええ、ありがとうございます」

お嬢様、だいたいいつも暇してるんでー。
と、いう美鈴の声を背中に聞きながら、文は空を飛んでいった。




「いつも暇とはどういう事かしら」
「げ、お嬢様。いたんですか」

美鈴がいつも寝泊りしている小屋。それは館の庭にある。
彼女がそこに帰ってくると、主人のレミリア・スカーレットが座っていた。

「まるで私が常に退屈してるみたいじゃないの」
「違うんですか。強者とは常に退屈していると聞きましたが」
「大体合ってるわ」
「まあどっちでもいいですが」


「で、美鈴。またいつものを頼みたいんだけど」
「ええ、分かっています。さあお嬢様、こちらに」
レミリアは美鈴に連れられ、小屋の奥へ歩いていった。






紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜は珍しく、ぼーっとしていた。
する仕事が無いのである。

「掃除は済んだ、洗濯も取り込んだ、食事の用意は…まだ早いわね」

ぷ、と軽く頬を膨らませる。
それはちょっと見ても分からない程度の変化だが、咲夜の主人などは一目見て見抜くだろう。
咲夜は不機嫌らしい。

「最近はこういった事が多いわねえ」
彼女の不機嫌の原因は、端的に言えば仕事が減ったことにある。
レミリアが「私の分の食事は要らないわ」と宣言したのだ。
勿論、咲夜が作る料理はレミリア用の物だけではないのだが、主人の分を用意しないというのはどうにも心持ちが悪い。

「ま、気にしてもしょうがないか」
紅茶でも作ろうか、パチュリー様とかフランドール様にお出ししよう。
そんな事を考えながら、咲夜は歩き出した。






こちらは美鈴の小屋。

「うむ、美味しいわ!」
「ああ、良かったです」
レミリアが口をもぐもぐと動かしながら、満足気な表情をしていた。

「それにしても美鈴は料理が上手だよねえ。私はこないだ、つい自慢してしまったわ」
「え、困りますよお嬢様。私が目立ったら意味が無いです」
「美鈴は謙虚ねえ」
レミリアは軽く息をつき、それから立ち上がった。

「さて、行ってくるわ」
「ええ、頑張ってきて下さいね」






とん。

物音に気づいて咲夜が振り返ると、レミリアが何かを食卓に置いていた。

「あら、お嬢様。いたんですか」
「今来たのよ。ほらほら咲夜、こっちに来なさい」
レミリアがホイホイと手を振っている。
軽く首を傾げながら、咲夜は彼女の側に寄った。

「何でしょう、お嬢様」
「おほん」
レミリアが口を開く。

「十六夜咲夜」
「はあ」
レミリアが突然真面目くさった顔をしたので、何となく笑ってしまいそうになるのを抑えながら、咲夜も姿勢を正す。

「今日が何の日か分かっているかしら?」
「今日ですか?満月ですね」
「そう。で?」
「ええ…?」
咲夜は困ってしまった。何の日、と言われても思いつかないのだ。
レミリアとかフランドールの誕生日とかでは無い。何だろう?

「んもう、肝心な所が鈍いわねえ、咲夜は」
「はあ…?」
「もういいわ、これを見なさい」

レミリアは、さっき持ってきた何か…食卓に置いた何かを指差した。
「はあ」
それは皿である。
その上には銀の蓋がされていて、中に何かが入っていると思われる。

レミリアが蓋を取った。


まず咲夜の目に入ったのは文字だった。
読んでみた。


「『しつも あいがとつ ちくや』」
「『いつも ありがとう さくや』!!」


レミリアはウガーと怒鳴る。


勿論、咲夜にはその文字はすぐに読めたのだが、でも恥ずかしくて、ついレミリアの字が汚いのをからかってしまったのだ。

「あのねえ、もう分かってるでしょう!」
レミリアが詰め寄る。
咲夜は何かがこみ上げてくるような気がした。

「今日はね、咲夜、貴方が我が従者になった日、記念すべきその日が、それが今日なのよ!」

咲夜は何も言うことができなかった。

レミリアが持ってきたのはケーキだったのだ。
普段料理なんてしないレミリアが、でもとても頑張ったようで、それはきちんとケーキの形をしているのだ。
ケーキの上にはチョコレートのプレートが載っていて、その字がすごく歪で、だから尚更、咲夜は何も話すことが出来なくなってしまったのだ。

「お嬢様、」
咲夜は、やっとそれだけを言った。
「うん?」
レミリアは咲夜を見上げている。

咲夜はレミリアを抱きしめた。






「…ふむ」
ケーキを作って散らかった小屋のキッチンを片付けて、それから美鈴は軽く料理を作っていた。
別に凝った物ではない。
やっつけみたいな物である。

「別にね、自分に作る分は凝らなくてもいいんですよね」
誰にともなく、美鈴はつぶやく。
ケーキぐらい、彼女は簡単に作れる。
でもああいったお菓子というのは、それは作りたい相手がいる者が、誰かの為にそれを作りたい者が作るべきなのだ。
だからレミリアに作り方を教えたのである。

「咲夜にさ、何か贈りたいのよ。ケーキとか」
そう言って頼まれたから。




美鈴はケーキを作らない。
やっつけで十分だ、と彼女は思っている。


「さて、出来た出来た」
軽い炒め物。
別に、誰にだって作れるものだ。
それを皿に盛り、彼女は自分の食卓に向かう。


…つい今まで、その食卓には何も無かった。

でも次の瞬間、そこには何か置いてあったのだ。

時間でも停めて、それから置いていったみたいに、そこには何か置いてあったのだ。

『お礼よ』」

大きなケーキだった。
誰が作ったかなんて、一目でわかる。


ばたん

それから音がした。
美鈴が目を向けると、

「美鈴!やったわ、うまくいったわよ!」
「うまくいかされましたわ」
レミリアと咲夜が戸を開け、現れた。

「なんかケーキが食べれるんだって?」
フランドールもいた。
「私は少しでいいわよ」
パチュリーも来ていた。

美鈴は思わず笑ってしまった。

「初めてですよ、私の食卓がここまで賑やかなのは」





おわり
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