「さあ、横になって下さい」
ぺしん、と叩かれた場所は、俺が寝そべるにはおこがましいというか……。
「何を突っ立っているんですか? 早くしないとお屋敷のお掃除が出来なくなってしまいます」
「いや、無理っていうかなんていうか……」
「ほらほら」
半ば無理矢理に寝かされた場所はふかふかと柔らかく、俺は申し訳ない気持ちやら何やらで頭がいっぱいになった。
「やっぱりやめましょう」
「今更ですよ」
と、突然頭を優しく押さえられた。左耳を上にしたかと思えば、俺の耳たぶは引っ張られる。咲夜さんの上、もとい太ももの上で俺はされるがままだ。
「もっと力を抜いて下さい」
全く、今のこの俺の状態を見て言って欲しい。しかし、悪い気はしないのは何故だ。
「痛かったら言って下さいね」
そう言って、咲夜さんは固い耳かきを耳壁に滑らせた。
「あひんっ」
「動いたら怪我をしますよ」
いや、声我慢出来ないし。無理っす無理っす、と言う間もなく、咲夜さんは耳かきを小さく動かす。俺はまたも声が出そうになるのをぐっと堪えた。
軽いタッチで耳の入り口を攻められる。くすぐったい。首の後ろにかけてをモゾモゾ這い回るような感覚は、なんとも言えない。
「痛くありませんか」
「はい」
喋りながら手を止めないのは流石というか、パーフェクトメイドだ。一挙一動がパーフェクト……! なんてニヤけている間に、耳かきが奥まで入ってきた。軽いタッチは相変わらずで、優しくカリカリと壁に沿って動かされる。産毛が撫でられているような感覚が、とても気持ちいい。耳かきって血行が良くなる気がするんだよなぁ。気持ち良いのはそれのせいかもしれない。
「時間は大丈夫ですか?」
「ええ」
軽く会話をしながらスムーズに耳かきが進行している、と思った矢先だった。ある一部分にさじが触れた瞬間、耳の中に大きな音が響いた。
「ここ、痒いですか?」
つん、とさじでつつかれて、俺の背筋に電流が走る。
「あぁん!」
「……取りますね」
咲夜さんはこちらの様子を察したようで、早速耳かきで掻き始めた。耳垢がはじから剥がれる感覚と一緒に、カリッパリッと音がする。耳垢が擦り上げられ、細かい振動が耳の中に広がっていく。今間違いなく、俺の背筋は粟立っている筈だ。
咲夜さんは、剥がした隙間にさじを滑り込ませてくる。カリカリと優しく掻いていたさじが、突然引っ掛かった気がしたその時。チクッと刺す様な痒みと一緒に、耳垢が剥がれ落ちた。耳かきがゆっくりと引き上げられていく。
「取れました」
咲夜さんが心なしか嬉しそうな声を出した、気がする。この状態だと顔が見れないので残念だ。
「もう大きいのはありませんね」
気持ち良さで軽く昇天しそうな俺の頬を、銀色のものが掠めていく。多分咲夜さんが顔を俺の方に近づけているんだろう。いい匂いがする。
「じゃあ、最後の仕上げですね」
言うや否や、咲夜さんは梵天を入れてくるくると回してきた。これは……!
「ウッヒョオオオオ」
「なんて声出してるんですか」
「いや、気持ち良くてですねオウフ」
「はいはい」
喋っている俺を無視して、咲夜さんは強引に俺の体を引っ繰り返そうとする。
「今度は反対側です」
もう、どうにでもして欲しいと思った。
最終更新:2008年10月28日 16:20