俺と小町


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よく見ると川も流れている。しかし霧がかかっているのでどうも視界が悪い。


『さ、次はあんただよ。早く乗った乗った。』
声が聞こえた。見ると自分の丈ほどの大きな鎌を軽々と持つ赤髪の女性がそこにいた。
「あんた……誰だ……?」
思わず聞いてしまった。いきなりこの質問は少し失礼だったか。
しかしその女性はめんどくさそうな顔をしながら答えてくれた。
『あたしゃただの三途の水先案内人さ。死者が行き先を迷わないよう案内するのさ』




……俺は……死んだのか?
『ん?ああ、なんだい、たまにいるんだよねぇ。自分が死んだこともわからない人間が。」
なんてことだ。よりによってこんなタイミングで。
というと、今日は妻の出産予定日だった。
……そうか、もうすぐ生まれると聞いて会社から病院に向かう途中に事故にあったんだ。


「……なぁ、一日だけ。そう、一日だけ待ってくれないか?」
『……はぁ?いや、そうは言ってもね、あたしゃただの水先案内人。人間の生死がどうのということはできないよ。』
彼女はあきれたような顔をしながら言った。
そうか、そうだよな。人間が生き返るなんてことは許されないことだ。
だが俺は諦めたくなかった。
「頼む!今日子どもが生まれるんだ!一目でいい、少しだけでいい。頼む!」
俺は必死に頭を下げた。靴を舐めろと言われたら舐めてもいいほどだ。
『いや、だからさ……生死がどうのというのは私の仕事じゃあないんだ。」
彼女の困っている姿があった。そうだよな……やはり無理なお願いだったんだ。
諦めるしかない。人間死んだらもう終わりなのだと。
「……無理を言ってすまなかった……」
『まぁねぇ…気持ちはわからないこともないけどさ……』


『……で、駄賃はいくらあるんだい?』
「……え?」
いきなりのことなのでつい間抜けな声を上げてしまった。
『だから、駄賃だよ。おまえさん、タクシーに乗るときもタダ乗りするのかい?』
彼女は少し怒ったような言い方で強く言ってきた。
「…金取るのか…はっは……今は手持ちにはこれくらいかな……」
そういってポケットから財布を取り出した。
……そもそも通貨が同じかどうかは知らないが……
『はぁ?あんたなめてんのかい?これっぽっちで船に乗ろうなんて。片腹痛いね。』
……え、足りないのか?
……じゃあどうしろというのか…まさか俺は永遠ここにいるのか、自力で行かなければならないのか…
「……えっと、どうすればいいのかな…ははは…」
さすがに不安を隠しきれなかった。苦笑いを浮かべている自分が用意に想像できた。
しかし反対に彼女はニヤニヤと笑いながら話していた。
『そうだねぇ……一度現世に戻って取ってきてもらおうか。」


……え?
『ほらほら、早く戻りな。あんたの手持ちじゃ駄賃が足らんよ。』
状況が理解できなかった。現世に戻るということはつまり……
「……生き返らしてくれるのか……?」
『いやいや、戻ってお金を持ったらまたすぐに来てもらうよ。そうだねぇ……一時間後にしようか』
彼女はニヤニヤしながら話す。
「…ありがとう……」
俺は感謝の気持ちでいっぱいになった。
一時間あれば間に合う。


『そうそう、次にきたとき他の案内人だったときは「小野塚小町」さんはどちらにいらっしゃいますか、って聞くんだよ。」
彼女の名前は小野塚小町、か……ありがとう……



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「すまない!遅れた!」
『あなた、遅いわよ。もう生まれちゃったわ。』
俺は息を切らして話かけたが、妻はゆったりとした声で返事をした。

  「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。」

『ふふ、あなたとしては男の子がよかったかしら?』
「ははは、いやいや、どっちでもうれしいよ。」
賑やかな、暖かい空気だった。



『あなた、名前とかってもう考えてある?』
名前……そうだな、子どもが生まれたら名前は付けるものだ。
「……小町、とかどうかな?」
『小町?なんだか昔の人みたいな名前ね。』
「変かな?」
『いいえ、素敵な名前よ。ね、小町?』
妻は小町を抱きかかえそう語りかけた。



いつまでもこうした時間を楽しみたい。だが俺は……
「それじゃ、悪いけどやらなきゃいけないことがあるから、先帰るわ。」
『あら、もう帰っちゃうの?……なんてね、忙しいものね。気をつけてね。』
妻は軽く微笑みながらそう答えた。
「……わかってる…気をつけるよ…」
そう言って俺は静かに部屋から出て行った。


……さて、と……



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再び霧がかかったところにきた。
しかし最初に訪れたときとは違って不安な気持ちは全くなかった。


「あの、すみません。「小野塚小町」さんはどちらにいらっしゃいますか?」
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