『妹紅の紅魔館でのメイド修行』


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『妹紅の紅魔館でのメイド修行』

時刻はそろそろよなかの12時前。

藤原妹紅は落ち込んでいた。
落ち込みつつ、紅魔館の中を歩いていた。
隣には蓬莱山輝夜も歩いている。ちなみにどんよりした顔で歩いている。
輝夜から見れば、妹紅の顔もさぞどんよりしているに違いなかった。


事の発端はそもそも輝夜との決闘であった。
その日は『いつもと違う方法で決闘しようじゃないか』と、輝夜と酒ぶっぱの呑み比べ対決をしたのだ。
だがどちらの肝も不死クラスの強さ、呑んでも呑んでも勝負がつかない。
結果、三日三晩飲み明かして、輝夜と妹紅はお互い、ついに潰れてしまった。


それはいい。

そうでなくて、目が覚めたら妹紅と輝夜は、紅魔館の前にぶっ倒れていたのだ。それが問題だった。
正確には、ぶっ倒れている二人の目の前にあった、紅魔館の門が丸ごと、門番ごと、粉々にぶっとんでしまっていたことが問題だったのだ。
咲夜に救出された門番と、遠くから見ていたメイド妖精達の証言から、この破壊行動の犯人は酔っ払っていた妹紅と輝夜と断定。
さすがに悪いと思った二人はメイドの十六夜咲夜に平謝り。
弁償しようにも二人は金を持っていない。

「なら、働いて返してもらうしかないわね」
咲夜の笑顔はとても素敵だったという。南を指す磁極的な意味で。

それで、妹紅と輝夜は咲夜の後ろをどんよりと歩いていた。
「さあ、着いたわ。メイドの控え室」
紅魔館の一室。メイド用控え室。
瀟洒な笑顔のメイドに促され、二人はそこに入った。

当然メイドならメイド服を着る。当たり前である。
妹紅と輝夜は咲夜に渡されたメイドコスチュームに袖を通した。


数分後。

「──だははははははは!」
カリスマの権化、レミリア・スカーレット。
自分の前に連れて来られた妹紅と輝夜を見て、彼女は大爆笑していた。


妹紅はいつだってもんぺ姿でいて、それはそれで似合っていたのだが、今回はメイド服。
咲夜が選んだのはミニスカートにネコミミカチューシャ。ミニスカートは動きに気を遣うし、ネコミミに至っては機能性はゼロ。
もちろん咲夜が選んだ。楽しそうに。
妹紅は真っ赤になって怒りを抑えているが、実は普通にしていればそれなりに映える筈である。
もっとも、妹紅は自分にこんなもの似合わないと思っているので、だからその着こなしには違和感があった。
それが見るものには可笑しくてたまらない。


輝夜は服を着ようとした所で、咲夜に「待ちなさい」と言われた。
「なによ」
「輝夜、貴方そんな髪でメイドをやるつもりかしら?」
輝夜は永遠亭の姫様である。だから艶やかな黒髪は地面をひきずらんばかりに長い。
「切りなさい」
弱みを握られている輝夜、言われるがままに髪をばっさり切られることに。
ちなみに髪はメイド妖精が切った。下手だった。輝夜の見た目は最早おかっぱのレレルである。
もちろんレミリアは爆笑であった。


「さあ、働きなさい」
ニヤける口元を手で押さえながら、咲夜は命じる。実に楽しそうである。
レミリアもニヤけていた。パチュリーもニヤけ気味だった。メイド妖精達も遠巻きでニヤけていた。
フランドールも何処からか出てきて、ひとしきりニヤけてから去っていった。
門番までも、なんか姿は見えないけど外でニヤけてる気がしたので、妹紅と輝夜はイライラがマッハであった。



ちなみに、というか当たり前だが、家事仕事は肉体労働である。
しかも弾幕ごっことか、戦闘とか、そういうものとは違った疲れ方のする肉体労働である。
効率よくやろうとすれば頭も使うし、メイドとは、見た目とは裏腹に相当ハードな仕事である。


「まずは何をやればいいのかしら?」
半ばヤケクソで妹紅が咲夜に言う。

…ナイフが飛んできた。

「おいィ?」

「その姿勢。メイド失格よ」
妹紅はポケットに手を突っ込んで喋っていたのだ。彼女にとってはこれが普通なのだが、確かにメイドとしてはおかしい。

「輝夜、あなたはまあOKね。でも…」
「でも、何なのよ」
輝夜は姫様なので普通に手を身体の前で組んでいる。でもおかっぱである。姿勢は良くとも見た目はおかしい。
プスプスと笑う咲夜。
プライドの高めな輝夜のストレスは有頂天である。



結局やらされたのは館内の掃除であった。
モップとバケツを持って、ひたすら床を拭き掃除。
地味な仕事だし、気を抜くとバケツの水がこぼれる。あと館が無駄に広い。
ちなみに咲夜が後ろから監視しているので、ミスがあるといちいち嫌味を言われる。にこやかに。
時々「お嬢様に紅茶を淹れてきますわ」などと言って居なくなるのだが、だからといって小町気味でいると瞬間移動で戻ってくるので性質が悪い。
結局掃除は深夜の2時頃までかかった。

次は夕飯の準備。
鬼のように雑用・下拵えばかりさせられた。
水を汲んできてお湯を沸かす。野菜の皮剥き。肉・野菜・魚を捌く、切り分ける。なんか変な赤い液体パックを鍋にあけて煮込む。
妹紅は一人暮らしなので普通に上手だが、お姫様な輝夜も案外手際よくやっている。

「へえ、上手いな輝夜」
「えっへん」

ちなみに盛り付けとか調理とかはメイド長の咲夜がやる。あとメイド妖精達はそこら辺でニヤけながら小町っている。
そろそろ妹紅も輝夜もニヤけをスルーすることに慣れたので無視している。

時々フランドールが調理場に来るが、ニヤけるのに飽きたのか、ただの来客と接するように妹紅と輝夜に話しかけてくる。
外に出られないので刺激が少ないのだろうか。
あと「私もやってみようかな」と言って包丁を握ったが、食材が粉々になった。『すべてを破壊する程度の能力』云々ではなく、単におそろしく下手なのだった。
妹紅と輝夜はちょっと笑った。フランは頬を膨らませた。
咲夜はそんな会話を聞いて、見られないように背中を向けて微笑んでいた。


その後は給仕。
銀食器を並べ、お盆で料理を運び、食べ終わった皿を下げ、ワイングラスを運び、妹紅はつまづいて転んで小悪魔にワインをぶっぱした。
パチュリーに顔を拭いてもらいながら、小悪魔は「気にしないで」と言ったが、妹紅は後で咲夜にこっぴどく叱られた。何本かナイフも飛んだ。リザレクした。
輝夜は万事そつなくこなしていたが、食卓の紅魔館メンバーの間で話題が途切れそうになる度に髪型でイジられた。いいネタ扱いであった。
輝夜はそろそろストレスで胃がマッハになるんじゃないかと一人思っていた。


食事が終わった。皿洗いもさせられた。
終わったらもう時間はよあけ前、良い子の悪魔──つまりここの主人──は寝る時間である。
「二人とも、もういいわ。今日は寝て頂戴」
ついにメイド長からそういう言葉が出た。ちなみに咲夜は時間を止めては休んでいるので常に元気である。
妹紅も輝夜も、蓬莱人とは言え疲れは感じる。ういー、あいー、などと言って、案内された寝室に向かう。



「…。」
「…。」
寝室に着いた。
「あら、お二人さん。私はそろそろ寝る時間なんだけど」
どう見てもそこはフランドールの寝室であった。
「おや失礼、間違えたかな、ちょっとメイド長に訊いて…」




「待って」

立ち去ろうとする二人に、フランが声をかける。


「あんた達、不死身なんだってね」

「…そうだけど?」
輝夜が答える。

「私さ、あんた達を破壊することは出来ないみたいなんだ」

「まあ、そりゃそうか」
妹紅が言う。

「裏を返せば、私はあんた達を”恐れずにすむ”。壊すことを恐れずにすむ」


「おねがい」


「あのさ、おねがい。
 あの、私が寝るまで、その、一緒に───」



とっさに、妹紅と輝夜は顔を見合わせた。
お互いの顔はもう、どんよりとはしていなかった。疑いようもなく。
それから言った。二人同時に。


「「ええ、喜んで」」






その日、レミリア・スカーレットが眠りに就くとき、少し疲れた様子(ちょうど能力を使った後のように)ながら、すごく満ち足りた顔をしていたのを、
彼女の傍にいた咲夜は見た。
仲は悪く見えるが、レミリアが、自分の妹を好きでいるのは疑いようもない事だった。


もちろん、フランドール・スカーレットの満ち足りた笑顔も、フランドールと、それから、妹紅と輝夜の眠りと共にあったのだった。


『妹紅の紅魔館でのメイド修行』おわり

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