とき325号脱線の、トホホな考察
新潟県中越地震において、とき325号が脱線しても怪我人さえ出さなかったことについての、桜井氏の考察。
(1)脱線した位置が高架橋の直線区間であったこと(カーブしている区間であれば、車両が高架橋から落下していただろう)
(2)トンネル内走行で速度を制限され、なおかつ8km先の長岡駅での停車にそなえスピードが出せない区間であったこと
(3)車輪の半分がかろうじてレール上に残り、車両がレール軌道から大幅にずれなかったこと
(4)いちばん後の車両が大幅にレールからずれ、大きな負荷となり、急ブレーキの役割を果たした
(5)旧式の重い車両であったため、安定性が増していたこと
(6)現場はいくぶん上り坂になっており、ややブレーキの役割が期待できた
明らかに変なのは(4)以降。
(4) 佐藤国仁氏の、日経ものづくり2004/12の記事に頼る。
不幸にして脱線した場合には,車両の制動はあまり期待できない。車両側で非常制動をかけても,レールを外れると車輪-レール間の粘着がなくなり有効な制動力を発揮できないからだ。(*1)
(5)ここでも、佐藤国仁氏の、日経ものづくり2004/12の記事に頼る。
事故の直後,一部に注意すべき報道があった。「たまたま重い車両だったため,地震の揺れで跳ねなかった」として,車体質量が重いことを惨事を免れた原因の一つとするものだ。この理屈によれば,軽量車両は地震で飛び跳ねて危険なため使用するべきでなく,高速化も不可能ということになる。
しかし,跳ねるかどうかは,地震変位の動的特性とこれに対応する構造物や車両の動的特性によって決まり,車両の軽重のみでは判断できない。(*2)
この報道は,今後の新幹線のあるべき技術開発の方向性を誤らせる可能性を秘めており大変危険だ。このようなミスリードを防ぐためにも,事業者および関係者は,今の新幹線技術で提供可能な安全のレベルや内容を,社会に対して正しく伝えるべきである。
しかし残念ながら。福知山線事故に際しても、同じミスリードが発生(軽量車体でなければ、云々)。オマケにステンレスが軽量素材という、新たなミスリードまで発生した。
加えて、車体重心を下げるために、わざわざ軽量車体=アルミ合金ボディにした381系の例もあり、はたして重いから安定すると一概に言えるかどうか?
車体が軽ければ相対的に足回り・床下艤装品の占める重量割合が大きくなり、より安定しそうではあるが・・・。
滝谷トンネル~206.211Km=下り3パーミル
206.211Km~206.911=下り6パーミル
その先、とき325号の停止位置=下り1パーミル
下り坂が緩くはなっているが、決して上り坂ではない。資料の選択を誤ったのか、主観だけで書いてしまったのか?
*1 鉄道総研ではこの脱線事故を受けて実験をおこなった。実験は実際の鉄道車両を使わないまでも、かなり上手く模擬された台上試験であり、レールの代わりにモルタル(砂利なしのコンクリート)を使ってレール-車輪間の摩擦係数とモルタル(コンクリートを模擬)-車輪間の摩擦係数を比較するものである。詳細は鉄道総研報告24巻4号「クリープテスタを用いた車輪/コンクリート間の摩擦係数測定」を参照いただきたいが、結果は摩擦係数が前者は0.4-0.5程度、後者は0.2程度と明らかにコンクリート-車輪間の摩擦係数が低いということになった。すなわち不幸にも脱線して車輪がコンクリート上を走ることになると、レール上を走る場合に比べて摩擦係数が低くなり、ブレーキがかかりにくくなるということが試験結果から改めて実証された。
*2 分野は違うが、阪神大震災の際に神戸港の岸壁として利用されていたコンクリートの巨大な塊(これらは単純に地面に置かれていただけだった)が地震によって
軒並みずれて港湾機能がマヒしてしまった例がある。このコンクリートの塊は巨大な(=とても重い)船舶が接岸時に操縦を誤って衝突してもビクともしない(位置がずれない)
ように設計されていたのだが、地震の際には地面が変位することでゆりうごかされるため、自らの巨大な慣性は全く関係無く動かされてしまった。つまり地震の際には
重いものでも軽いものでも同じだけ変位する(動く)のである。
少々難しく物理学的に言えば「与えられる外乱は変位か、力か」の違いである。変位が与えられる[強制変位]なら(神戸港の例なら地震)物体はその軽重に関わらず同じ運動をする。外力が加わるなら(同、船の衝突)重いものほど動きは小さい。
地震は強制変位であることを忘れてはならないことを神戸港の例は教えてくれている。