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忍びジン報告書最終話

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匿名ユーザー

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「はぁ!はぁっ!……っく!」

跳ね上がる心臓の求める酸素を必死に喘ぎながら吸い込み薄暗い廊下を走り続ける

訓練はされていたはずだ、だがあの醜悪な化け物の姿のせいで動揺が激しく思うとおりに動いてくれない

おそらく自分は逃がされたのだろう、無様に逃げる自分を見て笑っているのだろう

逃げ切れない、その確信はある、でも最後まで足掻いてみたかった

任務しか知らなかった自分に笑う事の素晴らしさを教えてくれた彼らにもう一度会いたい

不吉な気配が背後から伸びる、とっさにクナイを抜き放ち切り付ける

遊ばれている、あの部屋で気配すら感じさせなかったあいつがあんな殺気を放つわけがない

そう思うと無性に腹が立ってきた、確かに自分は隠密だ、直接戦闘は騎士と比べ得手とは言えない、だが自分の能力に誇りがあった

「舐めるな!まだ化け物に遊ばれるほど鈍っちゃいない!」

火薬を仕込んだ手裏剣を数本投げつける、ヒトが相手なら正中線にそって貫いていたはずだがあの化け物に急所があるかどうか

確認する暇も無く手裏剣が爆ぜる、煙幕が吹き上がる寸前、燃え上がった火薬の明かりで影の細部が少しだけ照らされた

見た目はMS族と大差ない、だが輪郭はどこかあいまいで、目は恐ろしいほどに見開かれている

似ている分そのわずかな違いが酷い違和感を感じさせる

「見なければ……良かった」

この世のものとは思えない、いや、信じたくも無い姿を頭から振り払い窓を叩き割り身を投げ出す

目の前を勢いよく流れていく壁を何度も蹴りつけ勢いを殺していく、安眠妨害になるかもしれないが知った事か

二転三転し落下の衝撃を受け止めているとすっと月明かりが消えた

嫌な予感を感じ飛び退ると同時に黒い影が粘着質な音を立て地面に叩きつけられ、なにかを探すようにもぞもぞと動き始める

「化け物め!」

手持ちの手裏剣は心もとないが死んでしまっては意味が無い、ぎょろりと嫌な光沢を放つ目に向かい投げつける

「――――っ!!」

鼓膜をいたぶる悲鳴が小さく、だが異質さゆえか妙にはっきりと響く

「この吐き気に釣り合うほど堪えたかどうか……」

歯を食いしばりながら素早く脳裏に周囲の地図を描く、現在地と照らせ合わせると見事に深い崖が近くにある、おそらく通常の攻撃はさほど効くまい、なら答えは一つ

「賭け事は弱いんだけどな……」

おそらく通じないだろうが気休めにとマキビシをぶちまける、少しでも身軽になりたいという気持ちもあった




野外訓練の時はさほど距離を感じなかった道も焦燥と恐怖が千里にも万里にも感じさせる

付かず離れず嬲る様に追いかける影の存在も神経を徐々にすり減らしていく

膝が折れそうになるたびにラクロアの人々の顔が浮かび自分を励ます

「ようやく!任務以外のやりがいを見つけたんだ!」

疲れた体とは思えない滑らかさでクナイを一閃させ胴回りもありそうな木を切り倒し足止めにする

鎧は全て脱ぎ捨てていた、薄手の装束を通し肌に直接風が当たるほどの軽装、しかしその軽装が驚くべきほどの素早さを与えている

この時、忍びジンは自分がいかに自然体で限界を超えているか気付いていなかった

水が引くようにさっと森が開ける、どれほど走ったのかようやく目的の崖に到着する

「しくじるなよ……忍びの……」

呼吸を整え感覚を研ぎ澄まし気配を探る

手には取って置きの炸裂弾を握り締め指の動きだけで着火できるよう構える

頭の中で数度シミュレートする、後は自分の体術を万全に発揮できれば成功するはずだ

すっと梢がわずかに揺れたかと思うと同時、影が飛び出してくる

恐ろしいまでの勢いだが今のジンには判る

「間合いが浅い、誘いは読まれているか!」

視界がはじけるようにクリアになる、動きが信じられないほどシャープに洗練される

このときの動作はのちに思い出しても自分の体がどう動いたのか判らないだろう

半歩踏み込みクナイを攻撃にあわせる、しかし打ち込みはごくわずか、素早く身を引き体勢を崩しつつ自分の方向へと引き込む

かかとがほんの僅か崖からはみ出す、がそれも計算のうち

炸裂弾を地面に叩きつけると同時に跳躍、爆風を全身で受け止め吹き飛ばされるように横っ飛びに大跳躍

崖と共に落ちていく化け物を確認し、ようやく一息つく

その油断がいけなかった、空中で弾けるように影が広がり、触手のような動きで絡めとろうと迫る

(ダメだ、避けきれない!)

諦めが全身を支配しようとした瞬間、青い閃光が矢の嵐のように次々と触手に突き刺さり、吹き散らす

「まったく、なんというでたらめな速度だ、援軍に駆けつけようと追いかけたが間一髪だった」

そこには青い鎧に身を包み、ボーガンにも見える妙な形をした武器を両手に持ちたたずんでいた

「た……助かった……」

緊張の糸が切れたのかへたり込んでしまう

「ああ、貴方の名前は?自分は忍びジン、わけあって追われる身だ」

「俺はブルー、どうもこの国はきな臭いと思ったが……まぁ立場は似たようなものだ、それよりまだ安心するのは早いぞ」

「どういうことだ?」

「言っただろ、でたらめな速さだったって、もうすぐ向こうの援軍も追いつく頃だ」

ちろりと木々の隙間に松明の明かりが見えた、その時ようやく自分が明かりもなしに夜中の森を全力疾走していた事に気付く

「火事場の馬鹿力……かな」

「ともかくこうなったから一蓮托生だ、すまんが協力してくれ」

「とんでもない、あんたは命の恩人だし、それにあの追っ手は自分を追ってるはずだ」

「半分は、そうかもしれんな」

軽く笑いかけ隙無く両手の武器を構える

「切り抜けたら、ラクロアに行こう、あそこは良い国なんだ、凄く、本当に良い国だ」

クナイを逆手に構え一言一言かみ締めるように言いブルーの横に並ぶ

「来たぞ!」

夜はまだまだ続く、しかし希望が見えてきた、初めて自分以外の誰かと並ぶ戦いは、背中が温かく頼もしかった

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