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リアルは燃えているの…か? ゲーム「PANZER FRONT」



パンツァーフロントとは?

パンツァーフロントというゲームがある。第二次大戦を舞台にした戦車戦シミュレーターだ。
プレイヤーは戦車を操りながら、僚車に指示を出し、史実になぞらえた各マップごとに設けられた目標に挑む。
例えば史上最大の戦車戦となったクルスクにおいて、地平線を埋め尽くすかのごとく現れるソ連軍の戦車をかのティーガー戦車で討ち取ったり、
連合軍の猛攻の前に陥落寸前のベルリンで、脱出を計るため敵中を突破したりする。

このゲームをプレイした人々は口をそろえて言う。このゲームは「リアル」だと。
各戦車の装甲の厚さや主砲の威力には実車と同じ性能が設定されており、
ゲームの舞台となるマップも大量の資料で可能な限り再現されている。
このゲームにはヒットポイントという概念が無く*1 、装甲厚・砲とその砲弾の種類・彼我の距離・角度などから威力が算出され、
砲弾が装甲を貫通しないと判定されれば何十発喰らおうともやられることはないが、貫通したと判定された時は一発でやられてしまう。
現実の戦車や兵士にHPなどというものが存在しない以上、極めて妥当なシステムと言える。

「敵を倒すためには、適切な砲弾を選択し、弾道を計算しつつ照準を合わせ、なおかつ相手の装甲の薄い部分を狙わねば撃破は望めない。
そして……リアルタイムで進む戦闘の中では、一瞬の判断ミスが命取りとなる。」(公式HPより)

敵を待ち伏せ、あるいは僚車を囮にし装甲の薄い側面や背面を狙ったり、操縦手用のバイザーを狙うことにより重戦車を一撃の下に葬ることも出来る。
キャタピラ装備といえど路肩を走れば遅くなるため、基本的に道路を走るのが望ましい。装甲の薄い戦車は家屋に身を隠して敵を引きつけ、
一方重戦車は道を逸れると亀のように遅くなるので分厚い装甲を生かして積極的に前に出る。
敵は戦車ばかりではなく、歩兵の進撃を邪魔する火点や陣地も片っ端から吹き飛ばさなくてはならない。
戦車より火点を多く叩かなければならないミッションもある。敵の航空機にも注意が必要で、黙っていれば一撃でやられてしまう。
現実同様、移動しながらでは砲撃の命中は望めない。砲身が当たるくらいの距離でない限り必ず一旦停止してから射撃するべし。
キャタピラが吹き飛ばされても終わりではない。主砲さえ無事ならまだトーチカとして戦闘可能だ。
無論、戦車には徹甲弾、歩兵には榴弾を使わなくてはならない。弾切れにも注意が必要だ。などなどなど…。

これらの「現実と同じ要素がてんこ盛り」「史実で行われた戦法が使える」点がリアルだと好評を博したのだ。
それゆえコンシューマーで発売されたのにもかかわらず、プレイヤーの多くはゲームファンではなくミリタリーファンがだった。
彼らの方が戦車と、戦車による戦闘の知識があるからだ。

「リアル」の本音と建前

ところで、このゲームは本当に「リアル」なのだろうか?
確かに戦車に関する数値は本物同様で「リアル」と言える。しかしリアルでない部分も多い。

たとえばハードの性能のために、戦車やその他オブジェクトが地形に対して4倍のデフォルメがなされている事が挙げられる。
ゲーム中は全く気が付かないが、現実のスケールに戻すと、ティーガー戦車は全長およそ23m、全高11mで、時速130キロで移動し、
6000m先の目標を狙っていたことになるのだ。もちろんプレイヤーにはそれらが4分の1にされた情報が伝わり、
かくて1500m先の20キロで動く目標を捕らえることとなる。

また、僚車に指示を与えるためにマップの俯瞰図に切り替えるとその時点で一旦時間が止まる。
そのマップには僚車の位置や残弾数に敵の位置、はてはどの戦車がどの方向に砲塔を向けているかまで乗っている。
どんなところを走っても、また実際には禁じ手とされている超信地旋回をどれだけ行おうともキャタピラが外れることはない。
敵弾で乗員が負傷する事もないし、火炎瓶や地雷を持った歩兵が肉薄してくることも、
あるいは物陰に隠れた兵士からパンツァーファウストやバズーカをお見舞いされることもないのだ。
さらに言うなら残弾の概念はあっても燃料の概念はない。

なるほどリアルとは言えない要素もある。しかし、これら全てを組み込んだリアルなゲームは今以上に面白い作品になるのか?

絶え間ない故障と損傷、リアルタイムで与えなければならない指示、肉薄する歩兵を回避するために湯水の如く使われる砲弾と燃料。
負傷した部下、ケシ粒にしか見えない2000m先の戦車……。
こんなゲームはストレスがたまるだけだろうし、面白くもなければ爽快感もない。
第一ゲームに何から何まで完全なリアルを求めること自体が間違いだし、リアルなら何もかもがハッピーという訳でもない。
一時停止してトイレにも行けないようなゲームが面白いはずもない。

見た目はとにかくリアルな「グランツーリスモ」や「エースコンバット」でさえゲームであるが故の「嘘」は加えられているのだ。*2
心地よく感じさせるための嘘が添加されていることにより、本当に自動車を乗りこなしてレースするような、
あるいは戦闘機を飛ばして空戦しているような気分が味わえる。
その「嘘」は知識が乏しいゆえの「間違い」とは本質的に違う。場を盛り上げるための演出だ。

プレイヤーが「リアルっぽい」と感じるための要素と、「現実のそれと全く同じ」となる為の要素は異なる。

パンツァーフロントはドイツ軍が戦車兵育成のために作ったシミュレーターではない。ミリタリーファンである開発者が
「リアルっぽい」と感じる要素を詰め込んだ「ゲーム」だ。開発者は戦記や資料を血眼で漁ったに違いない。
「ああ、本物の戦闘とか戦場ってこんなんだろーなー」とお茶の間にいながらプレイヤーに思わせる手法は
頭の中だけで組み立てられる物ではないからだ。その結果がパンツァーフロントという「リアルっぽさ」である。
ハードの性能に物を言わせたポリゴンや秀麗なグラフィックだけでは「リアル」とは言い切れない。それは数多くのゲームが陥った落とし穴だ。

そも戦車は複数人で動かすものである。もちろん操縦にはレバーとペダルとハンドルを用いるわけで、デュアルショックで動かすわけではない。
そしてここに、戦車を操縦するゲームの難しさがある。飛行機ゲームや自動車ゲームがジョイスティック、ハンドルコントローラという
優れた周辺機器により実際の機械と同じ操作系統でプレイすることが可能なのに対し、戦車ゲームにはそれがない。
実際に作ろうとしたら、複数いるクルーの仕事を全て再現する大がかりな物になってしまう。
「重鉄騎」のように動体感知を使えばなんとかなるかもしれない。でも繰り返すが戦車は一人で戦う兵器ではない。

10個のボタンと1組の方向キーだけで戦車を自在に操り戦える点に、パンツァーフロントの真髄である「抽象化」が現れている。
未プレイの人はちょっと考えてみて欲しい。戦車の前進後退旋回その場旋回ギヤチェンジ、砲弾の選択と射撃、砲塔の回転、双眼鏡の使用を
これだけのボタンで行うにはどうやって割り振ればよいだろうか?

いくら史実に忠実な展開とは言え、強力な敵戦車に袋だたきにされたり、数十発の砲弾を直撃させてなお動く敵戦車があったりしたら
普通のゲーム好きは投げ出すに違いない。性能の低い戦車で絶望的な防衛戦などをさせられた暁にはコントローラーを床に叩きつけるかもしれない。
しかしそれら戦車・戦闘の知識があるプレイヤーは同じシチュエーションでも史実のエピソードを思い出しリアルさを感じる。この違いは大きい。
「ティーガー堅すぎ! こんなバケモノどうやって撃破しろってんだよ!」と誰しも思う。そこから一歩進んで
「そりゃソ連や連合軍の戦車兵もびびる訳だわ」と自分の持つ知識と照らし合わせることで、ゲームにさらなる深みが与えられる。

詳しくない人から見れば「戦車戦とか言って、さっきから歩兵や機関銃を潰してるだけじゃん」とか言われるかも知れない。
「いや、歩兵支援は戦車の重要な任務の一つで、普通は砲弾の半数くらいが榴弾なんだよ」と答えられる人でなければ、
このゲームの何処がリアルか分からないし、プレイしていて楽しくないかも知れない。
「砲弾が貫通しない=無傷」「砲弾が貫通した=死」というこのゲームの大原則は、
敵の戦車を撃破し、陣地を突破するに従って異常な緊張感をプレイヤーに植え付ける。マップをクリアしたとき、
あるいは後一歩のところで撃破されてしまったときには体から力が抜けていくのが分かるくらいだ。
だがかつての戦車兵達はこの何倍もの緊張やストレスに耐えていたに違いない…そういった事を考える
想像力あふれるプレイヤーほど熱中するだろう。

要するにパンツァーフロントが持つ「リアルっぽさ」とは、ミリタリーファンが持つ「戦車で戦うというのはこういう感じらしい」
という知識や想像とゲームの中身がぴたりと一致したために生まれ出たのだ。
だから、実際の戦車兵にこのゲームプレイさせたらまた違う感想が得られるはずだ。なぜならこのゲームでは
来る日も来る日もエンジンの点検整備をしたり、汗だくになりながら破損したキャタピラの交換をしたり、
空薬莢の中に小便をするなんて事はシミュレートされていないのだから。
でも一日中戦車の中で敵を待つだけのゲームなんて面白みも何もない。
戦車戦の一番面白いところだけを抽象化しつつ、本物っぽく見えるよう丁寧に丁寧に組み立てたゲーム。
それがパンツァーフロントを端的に表す言葉だと思う。

お茶の間戦争経験ゲームとして

このゲームにはやたら強いラスボスも居なければ自分の戦車だけ強さが2倍になっていたりもしない。
現実の戦争がそうであるように敵も味方も同じ条件で撃ち合いを演じる。ただそれだけなのに「リアルっぽさ」は間違いなく増している。
リアル系FPSが持つ「リアルと謳いながらも、エンターテイメント性を確保するためにランボー的な一対多数になってしまう」という
持病から抜けきれないジレンマは確かにパンフロにもあるが*3、ヴィットマンやバルクマンが
たった一両でアクション映画さながらに暴れ回ったマップを収録するなど、嘘と本当のギリギリの線を果敢に攻めている。

パンツァーフロントは正直難易度の高いゲームだ。普通のACTやSTGと違い、最初の面は簡単で後の面は難しい、なんて配慮はない。
チュートリアルのマップですら本気で殺しに来ている。逆に言えば最終マップの「ベルリン」や「串良」ですら
自分と敵はフェアなシステムの下戦うことになる。ストイックここに極まれりと言ったところか。
初心者にとっては最初のとっかかりを乗り越えるのが最も厳しい。だけども実際の兵士達には
「簡単な戦場」「難しい戦場」を選ぶ権利なんて与えられていなかったことを考えると、何とも言えない気分になる。

難しさの原因には「当たり所が悪ければ即死」「1ミッションがクリアするまで十数分かかる」「敵の配置がよく練られている」
といった点が挙げられるだろうか。ここには薄ら寒くなりそうな現実が隠されている。「死んだら終わり」なのだ。
シリーズ二作目の「bis」では撃破されても即ゲームオーバーが通告されるわけではない。
ミッション中止やリスタートも出来るが、それもプレイヤーが自らメニューを開かなければならない。
自車が撃破されると画面には煙を上げて動けなくなった自分の戦車が残るが、背後では敵味方が撃ち合いをしている場面がそのまま流れる。
自分が撃破した戦車と同じくマップ上にオブジェとして残るわけだ。この状態でも友軍に指示を出すことができ、
味方にマップの目的を達成させればばミッションクリアとなる。お前なんかが死んでも戦争は続くし地球は回るんだよ、といった空しい
メッセージを突き付けられるわけだ。実際の戦車兵はリスタートするなんて選択肢を持ち合わせていない。
事前にネットで攻略情報を見ることもない。常に手探りで状況を切り開くことを求められる。
彼ら兵士の心情とはどんなものだろうかと思わず考えてしまう。

現実的要素を上手に抽象化してシステムに盛り込み、なおかつゲームとしてのエンターテイメント性を失っていない。
そしてゲームのそこここに想像力をかき立てさせる仕組みがある。
だからこそパンツァーフロントは「リアル」な「ゲーム」なのだ。

だが、ファンがさらなるリアルさを求めた結果、我々は「B型」という怪物と遭遇する事になるのだった。




参考
ふたつのシミュレーション、ひとつのゲーム パンツァーフロント
http://web.archive.org/web/20090408102722/http://www.intara.net/og/panfro.shtml
リアルって言うな!
http://homepage1.nifty.com/~yu/panzerf/pf_real.html

ゲーマーから見た至極真っ当な感想。「パンツァーフロントは気軽なスリルを味わいたい人のためのゲームでは断じてない」
「戦争は簡単ではないし、パンツァーフロントもまたそうだ」といった個人的名言が続出。「難易度をコントロールするための劇的な設定がない」というのは
言われるまで気がつかなかった。自分がどれだけ毒されているかよく分かってしまう。
Panzer Front On GameVortex.com
http://www.psillustrated.com/psillustrated/soft_rev.php/36/panzer-front-playstation.html


ミッション開始前にはブリーフィングが入る ミッション開始直後。戦車長が僚車に向けて一言
こまめにマップを開いて味方に指示を下そう 砲弾の選択は超が付くほど重要だ
戦術マップではこう見えているが… 実際にはこんな感じ。これでワクワクしない奴は男じゃない!
崖下から友軍歩兵を見守る 機銃や対戦車砲をチマチマ潰すのも任務の内である
飛んで火に入る何とやら。迷わず撃破だ 無論調子に乗ってるとこうなる
ドイツ語・ロシア語・英語の台詞を喋ってくれる 串良神社前で記念撮影



最終更新日 2012-11-09
2012/11/09 文意が散漫になっていたので色々改訂





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最終更新:2012年11月09日 22:23

*1 歩兵や火点のみHP制

*2 レース中にクラッシュして炎上したりしない、ミサイルが何十発も撃てる、など

*3 ザクセンドルフなど