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「カツ」は何故ここまで嫌われるのか


機動戦士Zガンダムのキャラクター、カツ・コバヤシはファンから嫌われている。曰く自分勝手だ。曰く自己中心的だ。曰く大人の会話に口を挟むキャラだetcetc。
割と似た行動をしているカミーユや「逆襲のシャア」でのハサウェイはあまり問題視されないのに、何故彼だけ親の敵のように叩かれているのだろうか、
調べてみると、彼はそこまで悪くないキャラ、いやむしろZガンダムという作品を読み解く上で興味深いキャラに感じられてきたので、少々まとめてみたい。

彼の汚点として真っ先に上がるのが度重なる無断出撃である。15話ではサブタイトルがそのものずばり「カツの出撃」になっている。
しかし彼にはそうする理由があった。

カミーユ:君はアムロ・レイとは親しいの?
カツ:一年戦争では、ホワイト・ベースでずぅっと一緒でした。
カミーユ:本当?
カツ:僕らの憧れだったんです、アムロは。だけど、最近のアムロは別人です。
カミーユ:輸送機をぶつけたのはすごかったじゃないか。
カツ:でもね、まだわかりません。元気ないもの。

この時点でのアムロはクワトロ、カミーユ、ベルトーチカにまでさんざんに言われているほど落ちぶれていた。
憧れであるアムロに1年戦争時のような冴えを取り戻したい。と同時に自分も全盛期の彼のように戦いたい。という気持ちが先走り出撃してしまったのである。
その後ハヤトに修正されてしまうだが、彼の第二の保護者であるクワトロは意外にも咎めなかった。むしろ「こうして若者達も戦っている」とアムロを咎めさえした。

なぜならクワトロには「怒りを爆発させることが事態を突破する鍵になるかもしれない」という哲学が存在したからだ。
この言葉は重要なので覚えておいて欲しい。

彼に足りないのはひたすらにMSパイロットとしての、そして男としての実力である。24話「反撃」でジェリドに坊や呼ばわりされたり
「僕だって役に立つんだ」の台詞はそれを端的に表している。このときのカツは拳銃を所持していたためにジェリドとマウアーをホールドアップすることが出来たのだが、
この直後にモブキャラの少年がジェリドにボコられている。銃がなければカツも同じように殴り倒されたであろう事が暗喩されている。

実力の足りなさが彼の足下をすくってしまうのが25話「コロニーが落ちる日」だ。捕虜にしたサラに言いくるめられて、結果として彼女を逃がしてしまう。
人が良いからだまされたのではなく、一目惚れした女の子の言うことをホイホイ聞いた結果ミスをしたのであり、このエピソードもよく叩きのネタになる。

サラ:あなたパイロットなのでしょ?出撃しなくちゃいけないんでしょ?
カツ:僕はそのつもりでも、僕はそのつもりでもモビルスーツがないんだ。
サラ:私のハイザックが、あるじゃない
カツ:ハイザック?ありゃダメだ。ジオンタイプのはいろいろ乗ったけど、ハイザックは触ったこともない。
(略)
サラ:あたしなら、ハイザックの操縦を教えてあげられるわ。
カツ:サラが?
サラ:あたしを連行していくフリをして、モビルスーツデッキに出られるでしょ?
カツ:そ、そうか。
サラ:あなた、ニュータイプでしょ?あたし、あなたの活躍、見たいな。

実力があればMSを割り当ててもらえたかもしれないし、実力があればいきなりハイザックを動かすことも出来たかもしれない。
だが前者はともかく後者はカツにとって元から無い選択肢だった。何故なら前にMK-IIでヘマをしているからだ。
Mk-IIは動かせているのにハイザックについては「触ったこともない」というのは、謙遜ではなく学習の結果である。
つまりこの台詞には「動かせたとしても皆の迷惑になるだけだ」という意味が込められており、割と理知的に振る舞っていることが分かる。

「感情と理性のせめぎ合い」というのは彼を読み解く上での大きなポイントだ。
26話では感情を爆発させて行動に出てしまう。

エマ:カツ、何度言わせるの?
カツ:僕だって一人前のパイロットです。このままじゃ何のためにラーディッシュにいるのか…。
エマ:焦らないで、みんなあなたのことを忘れたわけではないのよ。
カツ:でも。
エマ:その事は後で。

相変わらず実力不足を指摘されているのだが、いてもたってもいらずGディフェンサーで飛び出す。
艦長のヘンケンはクワトロ同様放任主義的で、「やらせろ。カツにはいい勉強だ」
「今回は、Gディフェンサーのテストも兼ねて出撃させた。今度独断で動いたら、独房入りだ。わかったな?」とお咎めなしで済ませている。
周囲に師たるキャラが豊富なこともカツの特徴だ。カミーユ、クワトロ、エマ、ヘンケン、ハヤト、アムロ等々。
ガンダムという作品は、主人公が様々な人と接することで人間として成長するというのが基本的なプロットであり、
その意味ではカツは主人公クラスという破格の待遇を受けている。そしてヘマをしながらも確実に、一歩ずつ学習して行く。

29話「サイド2の危機」ではカツの理知的な面が見られる。

カツ:ご苦労様です、どうぞ。はい、どうぞ。
エマ:あ。
カツ:ご苦労様です、どうぞ。
アーガマ・メカマン:ありがとう。
エマ:カツ。
カツ:お疲れです。エマさんには、パイロット食です。
エマ:ん…ありがとう。こういう仕事をしてくれる人がいると、本当に助かるけど。
カツ:これ、飲み物です。
エマ:ありがとう。クワトロ大尉には、挨拶したの?
カツ:いえ。
エマ:まだ間に合うわ。ブリッジに行けば?
カツ:大尉が言ったんです。今は悩んでるのも惜しい時だ、時間を無駄にするなって。
エマ:今度はいつ大尉に会えるか、わからないのよ。
カツ:わかってます。
エマ:そう。覚悟はできているのなら、後で、あなたのネモのシュミレーション、見てあげるわ。
カツ:ありがとうございます。それじゃ。
エマ:(何悟ったんだろう、あの子…?)

どうだろうか。あなたのカツ像とはかけ離れた行動ではないだろうか? この後の戦闘パートでは言いつけ通りサポートに徹し
そつなく任務をこなせている。身の程をわきまえ感情的にならなければ結構生真面目なキャラだというわけだ。

生真面目さは43話「ハマーンの嘲笑」で垣間見ることが出来る。ティターンズに打撃を与えるため、敵であるアクシズと一時的に
組もうというシーンでの会話だ。

カツ:裏切りを勧めるなんて、汚いですよ。平気で毒ガスを使うティターンズと、どこが違うんですか?
  それに、アクシズだっていつ寝返るかわからないし、グワダンに後ろから撃たれるのはご免ですよ。
エマ:白旗を揚げてるモビルスーツを、撃つ訳がないでしょう。
カツ:えっ…違いますよ!
エマ:ブライト艦長。
ブライト:ファもカツと同じ意見なんだな?
ファ:はい。
ブライト:わかった。ファもカツも今度の作戦が終わるまで、自習室に入ってろ!
ファ:なぜです?
ブライト:理由は自分で考えろ。今すぐ自習室だ!
(略)
エマ:はぁ…今度の作戦に反対なのは、あの子達だけじゃありませんものね。
ブライト:こんな時に反対だ、反対だと喚かれてみろ、士気に関わる!
エマ:えぇ。

ティターンズ打倒のためならあらゆる手段を辞さない大人達に反論するカツ。
結果として謹慎処分を受けても荒れることはない。

(自習室にて)
カツ:ファは、出動したいんだろ?
ファ:あなたはどうなの?
カツ:ブライト艦長の許しが出るまで、ここを動かない。当たり前だろ?
(略)
ブライト:よし、謹慎処分は解く。出撃しろ。
ファ:は、はい!
トーレス:カツ、お前も行けよ!オレが代わりに出るところだったんだぞ!
カツ:トーレスさんが?そりゃ無茶ですよ。
トーレス:オレはこっから離れられないの!
カツ:わかりました!

どうだろうこの成長っぷりは。カミーユが感情を爆発させることで事態を突破しようとし、実際に突破できるだけの実力があるのに対し、
そこまでの実力がないと悟ったカツは理知的な振る舞いを身につけたのである。同じクワトロを師とする二人が違った処世術を身につけたのは興味深い。
とは言え、じゃあ万事OKかというとそうでもない。45話「天から来るもの」でのシーンから。

サラ:うっ、敵!?
カツ:サラ、なんでまた僕の前へ出てきたんだ。
サラ:カツなの?
カツ:そんなにシロッコのところに戻りたいのか?
サラ:そうよ!だから邪魔しないで! あたしはあなたよりも先にシロッコに出会ったのよ。
カツ:そんなことが理由になるものか!
サラ:そう、そうなの、わかったわ。さあ、早く撃ちなさい!今なら撃たせてあげるわ。
カツ:う、やめてくれサラ。会いたいんだ、会って話がしたいんだよ。
サラ:そんな…。たとえそう思っていても、それをいうのは男じゃないわ!だからあなたのこと全部好きになれないの!
カツ:サラ…。
エマ:カツ!撃ちなさい!
カツ:中尉が出てくることないでしょ!
エマ:カツ!
カツ:悪いのはシロッコです。サラじゃないんだ。
サラ:カツ、あなたの好意は涙が出るぐらい嬉しいわ。でも遅いのよ。
カツ:サラ!
エマ:逃がすか!
カツ:サラ!僕には撃てない…撃てないよ。

サラが魔性の少女と言うよりはカツが初心すぎるように感じられる。恋は盲目と言うが、彼にはやはり実力と経験が足りていないのだ。
カミーユ曰く「(サラ脱走の一件で)カツは人間不信になった」とまで落ち込んでいたらしい。
感情の津波に理性が吹き飛ばされるといともたやすく投げやりになるのが彼の弱点だろうか。
その暴走の様子は46話「シロッコ立つ」で描かれている。要約すると、サラがシロッコの言いなりになっているため戦いを止めないと考えたカツは
ハマーンとの会談のためシロッコがいるグワジンへと潜入し、彼の暗殺を謀る。色々あって失敗したあげくMS戦となり
シロッコを狙撃したカツであったが、よりにもよってサラがシロッコの盾となり命を落としてしまう。
ここまで読んでいただいた方なら彼の弱点が如実に表れたがための失態だと理解していただけると思うが(暗殺を止めようと考えるチャンスは数回あったのである!)
傍目にはストーカーが彼氏を殺害して彼女をかっさらおうとしたとしか見えないため、これもよく叩かれる。
アムロ・ララァ・シャアといい、カミーユ・フォウ・ジェリドといい、ガンダムでは多用されるレトリックなのだが、
動機が動機なだけにあまり擁護されることがない。あんまりと言えばあんまりである。

彼の自暴自棄的言動は続く。49話「生命散って」より

カツ:あいつら、このまま共倒れになっちまえばいいんだ。
カミーユ:そんなこと言っているから、子供だと言われるんだ。そのために、エゥーゴが潰されるかもしれないんだぞ。
カツ:そんなこと、やってみなきゃわからないだろ!
エマ:カツ、いいかげんになさい!
カツ:いけませんか?
エマ:サラのことがあるでしょう?それでは死ぬわよ。
カツ:わかってますよ、Gディフェンサー、出ます

実力のなさを理知的振る舞いで補ってきた彼だが一度荒れるとずるずると尾を引いてしまい、とうとう戦いの中で命を落としてしまう。
隕石に衝突したあげくヤザンによって撃墜、なんて非常に印象的なシーンで、ともすれば彼をヘタレとさげすむ材料になりがちだが、これほどカツの「実力不足」が
露骨に描かれたことはないだろう。ガンダムにおけるMS戦とは敵を撃ち落とすか敵に撃ち落とされるかであるのに、隕石に衝突って…。
クワトロが後任を育てる際のモットーであった「怒りを爆発させることが事態を突破する鍵になるかもしれない」という言葉に従ったカミーユとカツであったが、
片方は精神崩壊、片方は隕石に衝突して死亡という結果を残すこととなった。感情を爆発させても何も変わらない現実に対して嫌気がさしたクワトロは
後に隕石落としをするわけだが、それはまた別の話である。

それを考えると非常に惜しい気もする。サポートしてくれる師や友人がいたのだからもう数年下積みを続けていればどういうキャラになったのだろうか…と。
でなくともZの最終戦を生き延びれば、ZZのシャングリラ5人組とはまた違った思考を持つキャラとして活躍できたのではないかと思うのだ。

彼が嫌われるのはひとえに「実力がないのに出しゃばるから」「年齢不相応の理屈をこね回す、頭でっかちだから」である。というより、多分カツが好きだなんて言う人はいないだろう。
コンプレックスや寂しさを抱え目標と現実との差異に悶えながら、一方で努力してみたりもするという、ジェリドとかギュネイにも通じる点がある奴なのだ。
「大人の仲間入り」という事を考えてみたとき、中高生だったらタバコやアルコールに走るのだろうが、仮にも軍隊であるエゥーゴでは食った飯の数が全てである。
カミーユやかつてのアムロの用にバカスカ敵機を落とすのは実力の面から言って無理だ。というか実力がないから「大人の仲間入り」が出来ていないのである。嗚呼堂々巡りかな。

さんざん酷いことを言ったが、カツ自身、それを理解しており克服しようともした。
劇中、割と理知的に振る舞っていたこともあるのだが、前半の「身の程をわきまえない行動」と後半の「荒れてヤケクソになっている行動」のみがクローズアップされ、
「よく分からないけど痛くてうっとおしいキャラ」とされてしまったのだろうか。同年代と思われるジュドーやウッソが出来すぎている、というのは言い訳になってしまうだろう。
Zという作品は彼が成長するのを待ってくれるほど甘くはなかったのである。

以下にまとめを記して終わりである。世間のカツ観が変化することを願って。

まとめ
  • カツはとことん実力のないキャラとして描かれている
  • 身の程をわきまえ理知的に振る舞うことでそれを克服しようとした
  • しかしサラとの交流で気持ちが荒れ、実力のある人間(カミーユ)にのみ許される「感情を爆発させること」を行ってしまう。
  • 結果として隕石に衝突してアボン。
  • 師や友人が大勢いたのだから、もうしばらく修行を続ければ「化けた」かもしれない

人はね、人間はね、自分を見るのが不愉快なのよ。でもね、どんなに不愉快でも、どんなに憎くっても、
自分自身を殺すことも、自分自身をやめることもできないのよ!
(続編であるZZから、プルの有り難いお言葉)

参考
Zガンダム,富野由悠季(喜幸)


Zについて丁寧に書かれたサイト。劇場版Zのラストについての考察はなるほど!と思わず頷いた。


機動戦士Zガンダム 全台詞集


本文中の台詞はここからお借りしました。




最終更新日 2011-04-04




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最終更新:2011年04月04日 00:48