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夏休み特別企画、夏厨の数を統計から調べろ! あるいはプレテクストとしての存在



毎年夏になるとあちこちでうっとおしがられる夏厨。自分としてはそんな存在が本当にあるのか疑問だったし、
正直「夏だなぁ厨」の方がうっとおしいような気もするのだが、実際の所どうなのかと調べてみた。

最初に、「夏厨」を「~10代のネット利用者で2chを利用する者」と定義する。
かなりおおざっぱな定義だが、世代別の2ch利用者数を割り出すことで実態に迫っていきたい。

まず、2chの年代別利用者層を調べたのだが、これがなかなか難しい。
一応下の2つを見つけたのだが、より詳細な調査があったら教えてください。

ITmediaニュース:ブログ訪問者は1年で2倍の2000万超に 2chは990万人
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0511/29/news004.html
2chやYouTubeより長い「発言小町」利用時間 - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0809/01/news040.html

どの記事も鵜呑みには出来ないが、なかなか興味深い数字になっている。

「2ちゃんねらー」意外な実像 14%が年収1000万以上
http://www.j-cast.com/2009/05/27042011.html
上の記事にヒントを得、Google Ad Plannerで調べると以下のようになっていた(2011,3,9現在)
https://www.google.com/adplanner/planning/site_profile?hl=ja#siteDetails?identifier=2ch.net%252F&geo=JP&trait_type=1&lp=true

0-17 15%
18-24 4%
25-34 13%
35-44 42%
45-54 20%
55-64 5%
65-  2%

各年齢の利用者が均等に分かれているとして無理矢理変換するとこうなる。
~10代 16%
20代 9%
30代 28%
40代 31%
50代~ 17%
(四捨五入しているので合計101%になっていることに注意)

表にするとこうだ。

2005年 2008年 2011年
~10代 20.0 16 16
20代 15.0 11 9
30代 30.7 28 28
40代 21.9 29 31
50代~ 12.5 16 17
(単位は%)

05年のソースは日本広告主協会Web広告研究会、08年はネットレイティングス、11年はGoogle Ad Plannnerによる。
10代と同じくらいの50代、ガクンと落ち込む20代、
ほぼ同数で両者を足すと半数を占める30&40代と、おおむねどの調査にも類似が見られる。
また年を経るにつれて利用者が高齢方向にシフトしていっているようにも見える


次に年代別の「ネット人口」を割り出してみたい。


より、
平成21年(2009年)のインターネットの利用者は9408万人に達し、人口普及率は78.0%
世代別利用率は、6~12歳が68.6% 13歳~19歳が96.3% である


6歳から12歳までの人口は815万6千人、世代別利用率68.6%を掛けると559万5千人となる
13歳から19歳までの人口は846万人、世代別利用率96.3%を掛けると814万7千人となる
二つを足した1374万人が「夏厨」になりうるネット利用者となる。
5歳以下のネット利用者やネラーというのは流石に考えにくいので、ここでは政府の統計通り無視することとする。

さて、この1374万人で先ほど上げた2chの2011年の10代利用者16%を占めることになる。86万人で1%だ。
この「86万人で1%」は「その世代の2chへののめり込み具合」を表す。
2chの利用者1%を占めるのに必要な人数が少ないほど、頻繁に2chを使っていると言うことだ

20~29歳の人口は1442万人。世代別利用率は97.2%で、ネット人口は1402万人となり、利用者数の9%を占めるので、156万人で1%
30~39歳の人口は1831万人。世代別利用率は96.3%で、ネット人口は1763万人となり、利用者数の28%を占めるので、63万人で1%
40~49歳の人口は1641万人。世代別利用率は95.4%で、ネット人口は1566万人となり、利用者数の31%を占めるので、51万人で1%

表にするとこうなる

年代 人口(万人) ネット利用者(万人) その年代が2chに占める割合(%) 2ch利用者1%あたりの人口(万人/%)
~10代 1662 1374 16 86
20代 1442 1402 9 156
30代 1831 1763 28 63
40代 1641 1566 31 51

要するに、40代のネット利用者に石を投げたとき、石に当たった人が2chを使っている確率は
10代のそれより1.6倍高いと言うことになるわけだ。

この表からは夏厨の存在そのものを読み取ることはできない。が、参考にはなるだろう。
10代はネット利用者の数も、2ch利用者の数も他の年代に比べ劇的に多いわけではなく、
夏休みという「うねり」があったとしても、彼らの書き込みがそうそう目に付くようなことはないはずだ。
10代のネット利用者全てが夏休みにいつもの倍2chにかじり付いている(!)としても、ようやく40代を超える利用頻度になる程度だ。

そもそも、夏厨という現象の根拠は「10代は夏休みの最中暇なはず。よって2chにフラフラとやってきて、お馬鹿な書き込みを残すはず」という
一見筋が通っているように見えて実は無茶苦茶なものに基づいている。彼ら10代の人々が夏休みに暇なのかどうか*1
暇をつぶすためにネットをするかどうか、2chをするかどうか、書き込みをするかどうか、その書き込みが「夏厨的」なものか、という
数回のフルイを突破した上でようやく夏厨という現象が観測されるのだから、はっきり言って数字上は誤差として吸収されてしまいそうな物だが…。

夏厨はどれくらいいるのか
http://d.hatena.ne.jp/longlow/20080812
2008年の2ちゃんねるのページビュー動向
http://d.hatena.ne.jp/longlow/20090101
2009年の2ちゃんねるのページビュー動向
http://d.hatena.ne.jp/longlow/20100102
2010年の2ちゃんねるのページビュー動向
http://d.hatena.ne.jp/longlow/20110101

以上より7・8月にページビューが劇的に増加しているという訳ではない事が分かる。
少なくとも2chには、言うほど夏厨はいないんじゃないか? と個人的には思える。
これが(比較的低年齢層も利用していると言われる)twitterやmixiやamebaならまた少し違うデータが出てくるはずだ。



次に、各機関が公開している犯罪統計を調べてみる。
夏休みの期間である7,8月に少年犯罪の認知数や検挙数が有意に増加しているのならば、つまり「夏になると学生のタガが外れる」
と言えるのならば、夏厨も観測されやすくなるはずだからだ。

警視庁の統計(平成21年)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/bunsyo/toukei21/k_tokei21.htm
第7 刑法犯の認知状況(月別及び罪種別)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/bunsyo/toukei21/pdf/kt21b007.pdf
第32表 刑法犯の罪種別認知件数(月別)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/bunsyo/toukei21/pdf/kt21d032.pdf

以上より月別の犯罪認知数を表にしてみる。警察庁ではなく警視庁のデータな点に注意。
総数 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
205708 15038 14933 16691 17640 16875 17971 18152 17912 17529 18630 16935 17402

うーむ。目立って大きいとは言えないようだ。
しかし、これは全年代をまとめた統計で、ここでの論点である「少年」を正しく反映しているとは限らない。
そこで少年犯罪に限った月別のデータを探したのだが、なかなかよい統計を得られなかった。


年度 総数 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
H20 766 55 102 65 52 54 65 60 36 60 51 73 93
H21 786 44 75 64 37 37 49 106 59 91 87 56 81

次いで、鳥取県のデータを示す。
平成20・21年版(平成22年刊)/統計課/とりネット/鳥取県公式サイト
http://www.pref.tottori.lg.jp/dd.aspx?menuid=153411
221 少年犯罪・保護・観察の状況(Excelファイル)
http://www.pref.tottori.lg.jp/secure/552084/00000120101221.xls

年度 総数 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
17 806 75 43 65 36 54 113 70 87 57 52 110 44
18 580 36 50 46 43 27 80 41 50 69 37 74 27
19 516 49 30 48 24 30 65 28 47 17 76 69 33
20 498 38 20 42 23 29 61 31 28 37 60 99 30
21 420 25 20 41 19 12 71 21 23 28 43 94 23

ただし、大分県の非行少年数は全国で検挙されたすべての非行少年の0.7%程度、
鳥取県のそれは0.3%程度を占めるに過ぎずデータ的な正しさには疑問符がつくが、参考程度にはなるだろう。
両県とも7,8月に非行少年の数が激増する、という訳ではないようだ。

夏厨は我々が思うほどにはいないのだ、と言えそうなのだがどうだろうか?




※よりよい統計資料、計算の間違いなどがありましたらトップページより連絡いただけると幸いです

最終更新日 2011-07-26








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最終更新:2011年07月26日 15:27

*1 受験生なら補修や学習塾で時間がつぶれることは容易に想像がつく