ある日の日常 高槻やよい

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  「はぁ~、困ったなぁ~」
  一人の少女がとぼとぼと夕方の街を歩いている。
年のころは中学1~2年生くらいだろうか、セーラー服に身を包み、手には鞄を持っている。ちょっとウェーブしている髪を頭の斜め後ろで二つに縛っており、髪留めゴムには向日葵をあしらったボタンが二つ付いていて彼女の雰囲気ととても合っているように思える。
  その格好からはとても溜息をつくような姿は想像できないのだが、現に今、彼女の表情は曇って萎れており、当然、頭に飾られた向日葵も地面を向いていた。
  「お父さん、昨日の夜、『今月は家計が苦しいなぁ』って言ってたしなぁ~」
  そういって右手に握られた封筒を眺める。
  その茶封筒には【給食費】と書かれている。
  家計が苦しい原因は分かっている。今月の頭に一番下の弟が熱をだして医者にかかったからだ。幸い大したことはなく、点滴と注射にお薬を貰うだけで済んだので家族みんなで大いに安心して、喜んだのだが家計を圧迫したことに違いはなかったのである。
  「『お給料』が入るまで待ってもらえないか、先生に相談するしかないのかなぁ~」
  こんな年頃の少女の口からお給料とは随分違和感があるが、決して非倫理的かつ不道徳的なことではなく正真正銘、労働の対価として支払われるお給料というやつである。
  彼女の仕事とはなんなのか?この日本において義務教育中の子女ができる仕事などそうありはしない。そう、彼女はアイドルなのである!
  彼女の名は高槻やよい、アイドルとしてはもう一人、同じ事務所のメンバーとの2名でユニット活動中。ユニット名は『ツインTe♪』で鋭意活動中である。
  「でも給料っていってもそう当てにできるほどじゃないしなぁ~」
  ただし、まだ駆け出しではあるが・・・
  「それに、先生に給食費のことを相談しているところなんて男子に見られたらまた、からかわれちゃうよぅ・・・」
  彼女の家は大所帯でしかも貧乏なので、よく男子にそのことをからかわれるのである。からかう側には大した意味はなくても、からかわれる彼女にしたら、自分だけではなく家族全員をバカにされているようで、とても悔しい思いをするのである。
  思春期な中学生である彼女にとっては何としても避けたい未来なのである。
  もちろん父親に相談すれば、きっとなんとかしてくれるだろうとは信じている。でも、それは父親の負担が増すばかりである。普段、自分や弟達のことで手をかけさせているのだ、高槻家の一番上のお姉さんとしても頼りになるところを見せたい。
  「お父さんにはアイドル活動にも理解をしてもらってるし、『やよいがアイドルでよかった』って言ってもらいたいしなぁ。でも~・・・はぁ~、困ったなぁ~」
  あれこれ悩みながらも、その足は無意識によく通っているあの場所へ向かっていった。
                       ・    ・
  気が付けば事務所まで来ていた。
  真っ直ぐ家には帰れないし、何かいいアイデアが浮かぶまで、と思っていたらつい、いつもの癖でここまで来ていた。
  今日はOFFの日とプロデュサーに言われているので何か入り辛く、入り口付近で思案していたら、後から、突然、
  「あれ?やよいじゃないの。どしたー?」
  「あ、律子さん・・・」
  呼ばれて振り向くと、同じ事務所のメンバーにして『ツインTe♪』のもう一人である、秋月律子が、立っている。律子も学校帰りなのだろう、高校の制服姿のままだ。
  プラスチックフレームの眼鏡に肩まで届くか届かないかくらいのお下げという、まるでクラス委員みたいな格好がトレードマークである。
  「んー・・・あれ、やよいは今日、OFFの日じゃない」
  胸のポケットから手帳を取り出し、眼鏡をちょい、と持ち上げて言った。
  「だめよー、むやみにレッスンしたって上達しっこないわよ。それはプロデュサーからも言われているでしょ?」
  「あ、あの律子さん、違うんです、その、今日は」
  いつに無く元気のないその調子に、心配になったのか
  「あれあれ、どしたの?やよい。元気、ないじゃない」
  「その~、実は相談があって・・・」
  「なになに、相談?何かしら?まぁ、まずは中に入りましょ」
  律子はそのクラス委員のようなお堅い格好からは想像できない好奇心を発揮して早速話しに乗ってきたのだった。
  この性格が、硬い雰囲気を持つ彼女が煙たがれない理由の一つなのだろう。
  やよいも頼れる仲間に出会うことができて幾分、表情が和らいだように見える。
  促されるまま事務所に入る。
  事務所の中は暖房が効いており暖かかった。
  もう、すっかり顔なじみとなった事務の方々と挨拶を交わす。
  「あら、こんにちは、やよいちゃん、律子ちゃん」
  「よう、寒くなってきたから風邪ひくなよ、アイドルちゃん達よ」
  「お?相変わらず熱心だねぇ、でもアイツはまだ営業から戻ってないよ。んー・・・あと、1時間ぐらいかな」
  その一人一人に返事をして奥へと進んでいく、最初の頃はなんだかわからなくてびくびくしていたけど、みんな優しいってわかったからもう、自分の家みたいな感覚を覚えたりする。
  律子さんも同じみたいで「今日は、レッスンじゃないですよ」と笑顔で受け答えをしているからきっと同じ気持ちだと思う。
  事務所を抜けて、奥に行くとそこは会議室とレッスン場に続く階段がある。
  律子は何室かある部屋のなかでも、6人も集まればいっぱいになる小会議室の扉を開けて中に入った。
  「さー、聞かせて?何?相談事って?」
  「実は、その、困ったことがあってぇ・・・」
  「困ったこと?アイドル活動で?
  「ううん、違うんです。あの・・学校で・・」
  「学校で?はは~ん、意地悪な男子でもいるのね?そんな、女の腐ったような奴はね、ガツーンっと言ってやるか、ぶん殴っちゃいなさい。女の子はね、そういう輩には暴力を振るってもいいことになっているんだから。」
  なんか、さらりと怖いことを言ってる。律子は眼鏡をかけた鬼か。
  「あの、違うんです・・・」
  「じゃあ、性悪女にアイドル活動を嫉まれて、靴に画鋲でも入れられたのね?そんな女の風上にも置けない相手にはねガツ―ンっと・」
  「律子さんっ、そうじゃなくて」
  「え、あら、ちがうの?ごめんなさい、つい、ね。ほら、やよいって可愛いからさー、そんなこともあるのかなーって心配になっちゃったのよ」
  「えっ、えっ、律子さんにそう言ってもらえると嬉しいですー。律子さんだって十分綺麗ですよー」
  「あ~ら、お世辞なんて覚えちゃって、ありがと。まあ、あたしは、企画力で勝負するって決めているから。ビジュアルはやよいに任せたわよ!」
  「はいっ!がんばりまーす!トップアイドル目指して!やよいさんっ、ハイ、ターッチ!・
・・・あれ?律子さん、話が変わってますよぅ」
  「あららら、ごめんなさい、熱くなっちゃって」
  しかし、そんな軽口のおかげですっかり深刻な雰囲気が無くなってリラックスすることができたのだった。
  「実は、学校でぇ、これを貰ったんですけど・」
  と言いながら、ちょっとしゃがんで机の横に置いておいた、鞄の中から封筒を取り出そうと、ごそごそと探っていると、机の上から律子の声が。
  「まさかっ!?やよいっ、あなた、そうか、そうよねー、そんな年頃よねー。可愛くてアイドルとくれば、まあ、ほっとかれないわよねー。あ、あたしは中学時代そんなこと全然なかったんだけどなートホホ、ああ、いいわねーこれが甘酸っぱい青春ってやつよねー。・・・いいなぁ、やよい」
  何かごにょごにょ呟いていた気がするが後半はよく聞き取れなかった。
  「えーと、これなんですけど・・・」
  「あ~ら、ラブレターにしては貧相な封筒・・・あれ?給食費?」
  「そうなんです。うち、今月は特に貧乏で直ぐには払えそうにないんです・・・。でも先生とかに相談もできなくて・・・」
  「そっかー・・・そうだよね」
  律子もやよいの家庭の事情は知っている。今月は彼女の弟が病気になったことも含めて。
  (普通は先生に相談したほうがいいんだろうけど、それじゃ結局、やよいの親に先生から連絡が行く公算が高いしなぁ、それじゃやよいの親孝行したいって気持ちが無駄になっちゃうし。しかし、よりにもよって・・・)
  「う~ん、お金か~。まいったな。ここはあたしがっ、て言ってあげたいけど、ゴメン、今月あたしも余裕なくて・・・」
  「えっ、ううん、そんな、律子さんに立替なんて、元々お願いすることなんて考えてもいなかったし、うちの問題だし。」
  「うん、でも、ごめんね。あたしの方から話を聞くなんて言っておいて結局、手助けできなくて」
 それも当然の話しである。多少は律子の方が年上であるが、まだ高校生の身。自由にできる身銭などそうあるわけでもない。それに律子の両親は会社の経営者であり、金銭については特に厳しく教育されている。 
 「でも、聞いてもらっただけでも、けっこうスッキリしたもの」
とは言うものの、やよいの表情は冴えない。
  それを、眺めながら律子は、
  (う~ん、ここはなんとか私としても手を貸してあげたいとこだわ。とは言っても私も似たような悩みがあってここに来たわけだし・・・、そうだっ!)
  「そうだわっ! プロデューサーに相談してみましょうよ」
  「えっ!プロデューサーにですか?でも、うちの都合をプロデューサーに相談しても・・・」
  「いいから、いいから、今までも結構、無理難題をなんとかしてきたでしょ、あのプロデューサーは。きっと今回もなんとかしてくれるかもよ」
  と言って律子は少し意地悪く笑った。
  「そうかなぁ、・・・そうかも・・・でも」
  それでは結局、高槻家の負担を誰かに代わってもらうだけで、自分で解決したわけではない、そのことに納得できないでいるやよいであったが、
  「あら、噂をすれば、かしら」
  まさかと思って時計をみると、事務所に来てから30分くらいしか経っていなかった。プロデューサーは戻ってくるのに1時間はかかると言っていたから、まだのはず、しかし・・・。
  廊下から慌ただしい足音が聞こえたかと思ったら、いきなりドアが開いた。
  「どうしたっ?今日はOFFの日と言っておいたのじゃなかったのか?まさか、なにかトラブルでも?」
  息を切らせながらプロデューサーが部屋に飛び込んできた。
  「ほらね」
  律子は勝ち誇った顔でそういった。
  「ん?なんの話しだ?」
  「いーえ、プロデューサー、こっちの話しですよー」
  「?何なんだ?いったい?課員から俺の担当しているアイドルが『二人とも深刻な顔して小会議室にこもったまま出てこない』なんて連絡をもらったから急いで戻ってきたんだぞ。」  
よほど心配したのだろう、額にかいた汗を拭きもせず二人に詰め寄り、すこし乱暴に椅子に座る。
  「すいません、プロデューサー・・・その、・・・」
  恐縮したやよいが喋りだすのを、律子が早口で
  「すいませんでした、プロデューサーの邪魔をするつもりで来た訳じゃないんです。でも、全くのトラブルじゃない、というわけでもなくですねぇ」
  と、プロデューサーの怒気をなだめつつ、関心を引く言い方をする。 
  「ん?なんだ、やっぱり何か問題でも起きたのか?それなら言ってくれ。君達をアイドル業に専念できるようにするのもプロデューサーである俺の役目だ」
  さっきの怒気はどこへやら、真顔で言ってくる。
  「さっすが、私らのプロデューサーね。安心だわ、ほら、やよい」
  上手く場を作って促す律子。
  「あの、プロデューサー」
  「おや、相談事ってやよいか?てっきり律子が何か厄介事を、いや、その、ゴホン。どうしたんだ、そういえばさっきから元気がなかったな。」
  「あの、プロデューサー、お給料の前借ってお願いできませんかっ!?」
  「な、なんだいきなり、給料の前借って」
  「あの~、今月、家計がピンチで、お父さん困ってるから、その、給食費が払えなくて・・・それで・・・」
  最後はだんだん小声になって、俯いてしまったやよい。
  「しかし、前借って・・・。そりゃ、社長に頼めば何とかしてくれるだろうけど・・・ん、そうだな・・・」
  顎に手を当てて思案顔になるプロデューサー。
  急に考え出してしまったプロデューサーに更に心配を募らせるやよい。
  「もっと、いい方法がある。いっそ、経費で落とそう」
  「えっ?」
  「え!?いいんですか?プロデューサー、そんなことして」
  経理に明るい律子が驚きの声を上げる。よく判ってないやよいも、
  「でも、立替てもらうわけには・・・」
  「やよい、心配することは無いよ、立替じゃない、いわば投資だ。君たちがアイドルに専念できるようにする為の経費だ。給食が食べられなくて、体力が無くなってステージで失敗してもらいたくないからな。そんな姿はファンだってがっかりするぞ。」
  「プロデューサー・・・、ありがとうございますっ!」
  「それにな、何かご褒美をあげなきゃな、とも思っていたんだ。この間、オーディション受けただろ?『ルーキーズ』っていう、あれな、合格したんだ」
  『えっ!?』
  やよいと律子、二人の声が重なる。
  「それって・・・」
  「そうだ!トップアイドルなら必ずっと言っていいほど通過する、正に登竜門。これで、経歴にも箔が付くし、雑誌にも大きく取り上げられる。俺はお前達の力を信じてる、トップアイドルになれる力を、な。だからできる限りバックアップはするつもりだ」
  『やったー!』
  抱き合うやよいと律子。
  「だからな、やよい、とりあえずこの給食費のことは俺に任せてくれ」
  「はいっ!プロデューサー、ほんとーに、ありがとうございますっ!」
  大きくお辞儀をしたあと、片手を挙げてくるやよい。
  柔らかい笑顔で、ハイタッチをするプロデューサー。
  微笑ましい光景に照れくさいのか、しきりに眼鏡のズレを直す振りをする律子。
  「よし、俺も今日は、仕事終わりだし、帰るぞ。明日から厳しいレッスンと仕事が山済みだからな、心してかかるように」
  「ハーイ、わかりました!」
  元気一杯の返事、やよいのいつもの明るさが戻った証拠である。彼女の姿勢も表情も髪飾りの向日葵と同様、太陽に向かって伸びようとしているようだった。
  「うん、うん、おっとと、待ってください、プロデューサー。私も相談があるんです」
  と、帰ろうとするプロデューサーを呼び止める律子。
  「え?律子も、何かあったのかい?」
  ドアノブに手をかけたまま振り向くプロデューサー。
  「ええ、私の両親って会社の経営者じゃないですか。」
  いきなり身の上話を始める律子。
  「勿論知っているよ、律子のその企画力や経理に対するシビアな観察眼は両親の教育の賜物だろ」
  「はい、もちろん、とても厳しく教育されましたわ」
  プロデューサーにはこの話がどこに繋がるのかさっぱり読めなかった。
  隣のやよいも同じようでキョトンとしている。
  「で、その両親から『アイドル活動もだんだん軌道に乗ってきたんだろう』ってんで・・・」
  「てんで?」
  「緊張感を保つために、ってお小遣いを全額カットされちゃったんですよ~」  
  「それはすばらしい両親だな、働かざる者食うべからず、だな」
  「で、お給料だけじゃやっていけないので、事務所で経理のアルバイトさせてください」
  「な、なにー!?」
  「ほら、この事務所じゃりっぱな化粧道具もないでしょう?自前で買うにしても資金がいるんですよっ」
  「いや、それは悪かったと思うし、気持ちはわかるが、そりゃ無理だ」
  無理、の言葉に柳眉を逆立てる律子。
  「無理っ?なんでですかっ!?今、『できる限りのバックアップはする』って言ったばかりじゃないですかー」
  「どこの事務所が、自分の小遣い稼ぎのために所属アイドルを経理のバイトに雇うと思っているんだっ!」
顔を突き合わせて、言い合いを始める始末。
  「じゃあ、お給料上げてくださいっ」
  「それもすぐには無理っ!」
  「あー、律子さんずるいっ!プロデューサー、私もっ!」
  「ああっもう、やよいまでっ。ダメったら、ダメッ!、第一俺だって安月給でこき使われる立場なんだから、俺の給料も上げてくれっ!」
  「もうっ!プロデューサーは男でしょう?、栄養ドリンクあげるから、夜も働いて担当アイドルを楽させなさいっ」
  「んな無茶な!」
  小さな会議室から悲鳴と怒号が事務所中にこだまする。
  階下から響くその声を聞きながら、シワ一つないスーツに身を包んだ中年男性が椅子に深々と腰掛け、電話をしていた。
  「ああ、私だ、高木だよ。久しぶりだな。・・・ああ、元気でやっているよ。お互い忙しい身だ、手短に用件を話すよ。ああ、この間、紹介してくれたオーディションの件だがね、うちのタレントも出すことにするよ。うん?・・・ああ、わかってるさ。うちにも頼りになりそうなのがいるんでね。そうだ、よろしく頼むよ。じゃあな、失礼するよ」
  アイドルとしての登竜門を抜けたことによって全国に名を広めることができた『ツインTe♪』だが、トップアイドルへの道はこれから佳境に入るのである。
  夢を掴みそして持続する辛さを彼女達はまだ知らない。しかし、そんな彼女達を支え導く者と共と手に手を取り合って歩むことができれば決して不可能ではない。二つの手を互いに結び合えたその時こそ、『ツインTe♪』は輝くことができる、と。
  『プロデューサー!お願い~』
  「だーっもう、しつこいっ!」
                                   完 

  • あとがき
 え~、ぱっとストーリーが浮かんだので小説にしてみました。アイマスのなかの一シーンを私なりに膨らませてみましたがどうでしょうか?
アイマス知らない人が読んでも楽しいと思っていただければ幸いですし、俺も始めてみようかな、と思ってくれたらもっと幸いです。
もしよければコメントくださいませ。どんなコメントでも受け止めて糧にするつもりです。
もちろん匿名でかまいません。貴方が私の友人であるなら、馴れ合いのコメントなど不要です。 
  • 単純に結構読み辛いな、これ。 -- FeO (2005-11-24 02:45:36)
  • やよい可愛い -- リオン (2007-12-29 11:16:43)
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