2008-11-23
2008-12-28追記あり
2009-06-23さらに追記





アライグマ

先週、通勤の帰りにアライグマの交通事故死体を見ました。一応モザイク処理はしてありますが、見たいという方はこちらをクリックしてください。

私が子供のころに、『あらいぐまラスカル』というテレビアニメが放映されていました。もう今となってはどんな内容だったのか、まったく覚えていないのでググってみると……
詳しくはリンク先をご覧ください。
でその当時、アニメの人気に便乗してペットとして日本に輸入されたわけですが、アライグマはとても気性が荒く、飼いきれなくなって放たれたものが野生化してしまいました。

Wikipedia によると、日本では岐阜県可児市で野生化が初めて確認されたとのことです。愛知県犬山市の動物園からの逃亡個体との記述もありますが、犬山市にお住まいのS村先生によると、「あそこはサル専門で、アライグマなんていないよ~」とのこと(アライグマの脱走は実際にあったそうです。この件について追記しました)。いずれにせよ、可児市と犬山市にまたがる山から、木曽川沿いに上流や下流へ生息範囲を広げているようです。下流側の各務原市にお住まいのM尾先生のお宅には、飼い犬のドッグフードを失敬しにやってくるそうです。

私自身は、アライグマの交通事故死体を見るのはこれが3回目です。ここ最近では、イヌやネコと変わらないぐらいの頻度で目撃しているような気がします。


特定外来生物

北米大陸と違って、日本においてはアライグマを捕食する生物はいないため、繁殖力が強く、知能の高いアライグマは農業害獣となり、また、在来種の生存も脅かしています。また狂犬病などのウイルスを媒介する可能性もあるようです。そのため、2004年に特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律が制定され、アライグマは特定外来生物として規制の対象となりました。

可愛いからといって安易に飼育すること、可哀想だからといって安易に野に放つこと、いずれも生態系に大きな、取り返しのつかないダメージを与えることになります。


進化における「赤の女王効果」

『鏡の国のアリス』で、赤の女王はアリスに言いました。

「ここではだね、同じ場所にとどまるだけで、もう必死で走らなきゃいけないんだよ。そしてどっかよそに行くつもりなら、せめてその倍の速さで走らないとね!」


種・個体・遺伝子が生き残るためには進化し続けなければならないことの比喩として、「赤の女王効果」という言葉が提唱されたのは、1973年、アメリカ人生物学者のリー・ヴァン・ヴェーレンによってでした。

何万年、何百万年という進化的スケールを通じて、キツネはますます鋭い嗅覚を持つようになります。そして同時にウサギはますます敏感な耳を持つようになります。捕食者(キツネ)も被食者(ウサギ)も、どちらも生き残るために進化します。そのため、キツネの祖先に比べると、現代のキツネはずっと優れたハンターになっています。でも同時に、現代のウサギも、その祖先に比べるとずっと優れた逃亡者です。結果的に、現代のキツネの狩りの成功率は祖先の成功率とほとんど変わりがありません。捕食者も被食者も、進化を通じてのデザインの改善だけが自らの生き残りを保障します。赤の女王の言葉のとおり、立ち止まるものは生き残れないのです。進化によるデザインの改善はあったけども、生存率は上昇しない。これが「赤の女王効果」です(このあたりの事情を詳しく知りたい方には、リチャード・ドーキンスの『盲目の時計職人』をおススメします)。

従って、現代のキツネが、祖先ウサギを見つけたら、簡単に捉えることが出来ます。
現代のウサギは、祖先キツネから簡単に逃れることが出来ます。現代の日本にやってきたアライグマは、個体数を急激に増やしていることからして、簡単にエサを捉えることが出来るのでしょう。

でもこれは、日本の在来種が祖先型で、アメリカの種が現代型だということを意味しているのではありません。また、アメリカの進化速度が速く、日本の進化の速度が遅いということを意味しているのでもありません。単にアメリカと日本では、生存競争のルールが(あるいは生存競争に参加するプレイヤーが)異なっているだけなのです。外来種の問題では、なんとなく日本は被害者だというイメージがあるようですが、そうとは限りません。たとえばマメコガネは日本産のコガネムシの一種で、アメリカではJapanese beetle と呼ばれています。天敵のいないアメリカでは農業害虫として猛威を振るい、農家からは忌み嫌われています。さらに、IUCN(国際自然保護連合)が選ぶ、世界の侵略的外来種ワースト100のなかに、ワカメが含まれています。貨物船のバラスト水に混入した胞子(遊走子)が海外の港で放出され、そこでワカメが大繁殖しているのです。


ある環境で進化してきた生物が他の環境に移ると、そこは簡単にエサを手に入れることの出来る楽園かもしれないし、逆に、あっという間にエサにされてしまう地獄のようなところかもしれません。簡単にエサが手に入るとしても、それを食べつくしてしまえば、そこは地獄に早変わりです。やはり、捕食者も被食者も、互いにペースを合わせて共進化することが、種の多様性にとって一番いいようです。

我が家にも出没したようです(2008-12-28追記)

正月用に母が作っていた干し柿がすべて何者かに食べられてしまいました。2階のベランダに干してあったのですが。ネコは柿を食べないでしょうから、これは雑食性のアライグマの仕業と考えていいのでしょう。

そして先日も、今度は我が家のある団地の入り口で、アライグマの交通事故死体を見ました。今年に限って言えば、ネコやイヌよりも明らかに多いです。

モンキーセンターからのアライグマ脱走(2009-06-23追記)

はてなブックマーク経由で、complex_catさんより情報をいただきました。やはりモンキーセンターからのアライグマ脱走事件はあったそうです。日本哺乳類学会に、脱走とその後の定着の経緯が報告されています。complex_catさん、お知らせいただきありがとうございました。

もうすぐ2009年が半分経過しますが、この半年にもアライグマの死体を1匹見ました。



参考サイト



  • すみません、「ゆめえび」と同一人です。
    ブログをもう一つ持っていまして、そちらは自然のもの関係なのです。
    実は先日、私も特定外来生物と遭遇しました。
    植物ですが「アレチウリ」です。
    そうとは知らなかったのですが、写真を写して帰ってから、ムシ子に教えられてビックリ。
    移動させたり、持ち帰ったりすると罰金がものすごく高いですね!!
    それより何より、その強力な繁殖力で周囲の在来植物に大きな被害を与えることも知りました。

    これらの怖さをもっと啓蒙しないといけないですね。
    ブラックバスなどのように、有名ではないけれど、静かに我々を脅かすものは他にもたくさんいるのですから。
    私も呼びかけていかねばと思っていたところです。 -- 森のどんぐり屋 (2008-11-25 09:56:44)
  • 森のどんぐり屋さん(ゆめえびさん)こんにちは。
    コメントありがとうございます。

    私は植物には明るくないので、アレチウリのことはまったく知りませんでした。
    帰化植物といえばセイタカアワダチソウくらいでしょうか。
    名古屋市でリスの保護活動をなさっている方から、最近はまたススキが勢力を盛り返しつつある、なんて話を聞きました。
    この先どうなるのでしょうかね?
    ほんの少しでも、子供たちのこの問題への理解を深める役に立てばいいなと思います。
    -- yu-kubo (2008-11-26 21:44:59)
  • はじめてコメントさせていただきます。みんなの科学のサイトのNishiです。
    私の住まいは田舎のほうで,空き地もたくさん所有しているので,雑草退治には悩まされます。セイタカアワダチソウは20年くらいで勢力が弱まりますね。後にはススキがでてきます。あと,クズも雑草としては手ごわい。確か北米で帰化して大繁殖して問題だそう。
    雑草退治ではカバープランツでなんとかならないかと,数年前から片手間で試しています。その一つにキク科のルドベキア(和名:オオハンゴウソウ)がありましたが,これが特定外来生物にしているのをつい最近知って,びっくりしています。近所でも園芸品種として育てている人が多いのですが,どうしたものでしょう。 -- Nishi (2009-01-28 23:13:12)
  • 「みんなの科学」とても楽しそうな情報たくさんのサイトですね。じっくり見させていただきます。
    そういえば以前に、MOVE FORM のページにコメントさせていただいたのでした。

    私は植物には詳しくないのですが、昨年は本当によくアライグマ(の死体)を見ました。どうしちゃったんだろう?
    赤外線のカメラを仕掛けたら、夜の住宅街を徘徊する様子が撮れちゃうかも。
    -- yu-kubo (2009-01-29 09:35:49)
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最終更新:2009年06月23日 22:48