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近況

かなり前の話なので覚えている人も少ないだろうが、パリで動物愛護団体がホームレスの男性から犬を奪い去るというニュースがあ
った。日本のメディアでは少し触れられただけであり(こことかここ)、そもそもそんな事件知らないよという人の方が多いだろ
う。本題に入る前に事件のあらましをここから引用してちょっと説明する。

2015年9月19日、フランスの動物愛護団体「Cause Animale Nord」のメンバーがホームレスの男性(厳密には住所不定者)から犬を
奪い去るという事件が発生した。一部始終は第三者によって撮影されており、その動画がfacebookに投稿されると5日間で180万回以
上視聴され、愛護団体への非難が巻き起こった。翌20日、愛護団体はfacebookに保護した犬にVeganと名前を付けたこと、そしてこ
の犬の里親を募集するとの内容の投稿を行った。当然のごとくこの投稿は炎上し、その後削除された。事件が起こってから数時間後
にはオンライン署名サイトChange.orgに当局による調査を求める請願キャンペーンが立ち上がり、最終的には25万人近い署名を集め
た。

22日、愛護団体の会長が公式の声明を発表。男性ホームレスが物乞いに利用するために犬を使っており、犬をおとなしくさせるため
に薬漬けにし、さらに予防接種を受けさせていないと主張。加えて警察に訴えたが何もしてくれなかったため犬を保護したと正当性
をアピールした。しかしネット上からの度重なる要求にも関わらず薬漬けにしたという証拠を提示しなかったこと、そもそも団体が
21日に投稿した動画では犬が元気そうに走り回っていたことから、反発を強めるだけに終わった。

23日、団体はfacebookのページを更新。再び犬の里親を募集することを発表した。しかし今度は195ユーロの「里親料」を支払えと
の一文が付け加えられておりさらなる炎上を招いた。この投稿は数日後に削除された。24日、Vincent Defivesというフランス人男
性が件のホームレスを探しだし接触に成功。ホームレスの男性はロマであるため言葉のやりとりに問題があったそうだが、このホー
ムレス(Ulianeという名前であることが後に判明した)のために大勢の人が動いていること、募金活動や弁護士による支援運動も行
われていることを伝えられるととても喜んだという。同日、フランス国家警察がfacebookの公式アカウント上にてこの事件の動画に
ついて繰り返し通知されたこと、ホームレス男性への暴行と盗難の容疑でCause Animale Nordに対する調査が開始されたことを発表
した。この投稿には2時間で5000いいね!が付いたという。

国家警察が個別の事件についてコメントするわけであり、いやが上にも世間の注目を引くこととなった。リベラシオンやルモンドと
いった新聞メディアもこの事件を伝え始め、良くも悪くも「炎上」は規模を拡大していく。一週間後の10月1日、警察はCause Anima
le NordのリーダーAnthony Blanchardを取り調べのために拘留した(custody for questioning)。彼は盗難については認めたが、暴
力行為については否定した。最終的には犬をホームレス男性に返還することを条件として拘束を解かれた。翌2日、ついにホームレ
ス男性と犬は再会することができた。その写真がこちら

最終的にホームレスは子犬を取り戻し、頭のおかしい動物愛護団体にはお灸が据えられたわけだ。めでたしめでたし。

……本当にそんな雑な結論でいいのか? この話はそんなに単純なものか? もっとえげつない物が見え隠れしてはいないか? 愛
護団体は「ホームレスの男は物乞いに犬を利用しており、犬を薬漬けにしていた」という理由で奪った。結局何の証拠も示されなか
ったが、百歩譲ってその主張が本当だったとしよう。この主張の元で犬をホームレスから引き離す――それはホームレスに飢えて死
ねと言っているに他ならない。この団体がホームレス男性にシェルターに入れるよう手配したとか、物乞いのための新たな道具をプ
レゼントしたとかいう話は聞かない。相手が乞食だろうと浮浪者だろうと、生命をつなぐための道具を奪うことを肯定していいのか?

Cause Animale Nordのメンバーはきっとこう言って反論するだろう。「いや、ホームレスの連中は犬を薬漬けにして利用できるだけ
利用したら捨てるに決まっているし、どうせろくなエサも与えていないさ」。だったらなおさらホームレスの救済を優先するべきだ。
そうすれば「物乞いに使うために薬漬けにされる犬」を減らすことが出来る。愛護団体が何度犬を奪おうと、ホームレスがいる限り
(そして野良犬がいる限り)「薬漬けにされた犬」とやらがなくなることはない。この事件がおれの記憶に残っていたのは、動物愛
護団体が図らずも「人間の命よりも犬猫の命の方が大事であると行動によって主張してしまったから」だと思う。もし時間と法律が
それを許すのなら、彼らは喜んでパリ中のホームレスから犬猫その他ペットを強奪するだろう。

同じことはおそらく日本にも当てはまる。ホームレスより野良犬・野良猫の方に優しくする人間の方がたぶん多い。家の近くの公園
に犬が2匹住み着くのとホームレスが2人拠点を構えるのとでは、あなたの反応は全く異なるものになるだろう。気持ちは分かる。お
れだっていい顔はしない。警察には通報せずとも役所には相談すると思う。ネット上に「犬畜生の命より人間の命の方がはるかに大
事だろ!」とヒューマニズムあふれる文章を書き込んでホームレスの人権を擁護するのは実にたやすい。しかし現実にはどうだ。小
銭を渡すどころか目も合わせないのではないか。あれほど口を酸っぱくして批判していた「想像上のステレオタイプ的動物愛護団
体」とおれには、「ホームレスから犬を奪うか否か」という程度の差しかない。人から物を盗らないことを自慢したってどうにもな
らない。不良生徒が「俺達ホームレスを襲撃しませんでした、偉いでしょ?」と言うようなものだ。

自分自身が人に説教できるほど偉くもなければ、憤っていた相手と本質的にはさほど変わらない……。そのことを痛感させられて
布団の中で丸くなっている。



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