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機動戦士ガンダム AI・戦士編


注:以下の文章では「CPU」という単語を「コンピューターの思考」という意味で使用しており、
原義とは差異があります。

ガチャポン戦士というゲームをご存じだろうか。「SDガンダム」を題材としたシミュレーションゲ
ームで、ファミコンからプレイステーションまで長く続いてきたバンダイの人気シリーズだ。

ファミコン版の第1作と第2作に当たる「スクランブルウォーズ」「カプセル戦記」の基本的なシ
ステムを引き継いで、スーパーファミコンで発売されたのが「SDガンダムX(92年)」「SDガンダムG
X(94年)」「SDガンダムGNEXT(95年)」の3作だ。

これら5作品は基本的にユニットの管理や生産、移動を行うシミュレーションパートと、敵対して
いるユニット同士が隣接した時戦闘を行うアクションパートとに分かれている。

シミュレーションパートではユニットを移動させ都市をや基地を占領する。都市を占領すると毎タ
ーンもらえる資金を貯め、基地でMSや艦船を建造し、然るべきタイミングで敵陣に攻め込むといっ
た具合だ。ファミコンウォーズとよく似ているシステムである。登場するのは各ガンダムシリーズ
のMSやMA、艦船たちだ。かなりの数の機体が登場するため好きな機体で好きなように部隊を組むこ
とが出来る。

アクションパートでは最大7体のユニットが画面にひしめき合い戦闘を行う。ユニットにはそれぞ
れ異なった能力値が設定されており、基本的に高コストなユニットほど強い。が、数の暴力もとい
人海戦術を駆使し1対6になるように仕向ければ、ちょっとくらいの性能差くらい吹き飛んでしま
う。ここで威力を発揮してくるのがユニットのレベル製で、これは決められた回数だけ戦闘を生き
延びるたびにレベルが上がり、能力値が上がるというものだ。最大までレベルが上がったユニット
は、たとえ元がしょうもない機体であったとしても正気とは思えない速度で画面を飛び回るため、
「通常の3倍の速さ」を再現することが出来る。効率よく戦闘回数を稼ぐために必然的に多数の機
体が戦闘に参加することとなり、ゲームを盛り上げる一方で、「戦力の集中」という戦術の基本が
知らず知らずのうちに身に付いていく。

''シミュレーションが苦手なプレイヤーはアクションで、アクションが苦手なプレイヤーはシミュ
レーションでもう一方を補う''ことが出来、ゲームを奥深くしている。それゆえ長くシリーズが発
売されてきたのだろう。

さて、ゲームの基本を読んで頂いたところで本題に入りたい。SFC最終作である「GNEXT」である
が、どうにも評判があまりよくない。と言っても操作性だとかシステムがダメだとか「ありがち
な」理由ではなく「CPUがおバカ過ぎる」のが批判の的となっている。いや、正直他の点は結
構良い。前2作よりグラフィックは格段に進歩しているし、MSの数も増えている。それまで2勢力同
士の戦いだったのが最大4勢力となり敵味方三つ巴の戦いとなっている。大宇宙・小宇宙・月面・
地球と分かれているマップのうち、大宇宙以外のものを好きな物から選べるシステムは真新しい
し、TEC(テクニカルレベル。生産出来る機体の種類に影響し、高レベルであるほど強力なユニッ
トが生産出来る)にしても、それまでは「占領している基地の数に応じて隠しポイントが毎ターン
加算され、一定値を超えるたびに上昇」だったのに対し、「1ターンに1回のみ、任意のタイミン
グで資金を支払うことで上昇」という物に変えられている。これは素晴らしいと思う。

プレイヤーに「TECを上げずにユニットを生産して速効を仕掛ける」とか「今苦しくても将来の優
位を得るために技術を向上させる」とかいう選択をさせるからだ。これはすなわち遊びの幅が増え
るわけで、プレイヤー同士の駆け引きをより一層引き立てる。もっとも、TECを上昇させるのに必
要な資金は加速度的に増えていき全体の中頃を過ぎた当たりから尋常ではない額になるため、最終
的には資金を稼ぐために打って出ざるを得なくなり、グダグダした展開になると言うことは避けら
れる。ただ、毎ターンTECを向上させるためにメニューを開くのが面倒だとか、最大値にまでする
のが厳しいといったデメリットはある。

本作から「シナリオ」モードが追加されている。このモードでは生産関連のシステムが凍結されて
おり、原作アニメに即した部隊とユニットのみを与えられ規定ターン数以内に敵軍を全滅させるの
が目的のショートキャンペーンになっている。余談ながらこの「ゲームの中で原作を再現」という
のは後のGジェネシリーズにかなりの影響を与えていると思われる。というかGジェネのユニットア
イコンがファミコンのそれを流用していたりとかなりの関連性がある。

がしかし、これらの長所を吹き飛ばすくらいCPUはダメなのだ。ダメと言ってもアクション部
分は問題なく、シミュレーション部分に大きな問題がある。

まずはCPUがTECを全く上昇させない点。一応、余りにも低い場合は10程度まで上げるのだが、ゲー
ム内での最大TECは30を超えており、ユニットの能力も「その程度」でしかない。また資金か生産
可能な空きがある限り全力でユニットを生産するのも欠点だ。このゲームでは基本的に常に金穴で
あり、よほど占領地が増えない限り収入が支出に全く見合わない。資金をやりくりして高価なユニ
ットを生産したりTECを上昇させるのが基本だ。しかしCPUには貯金という概念が無く、金があるな
ら弱くて使い物にならないユニットすら平気で大量生産する。これは頂けない。初期設定でゲーム
スタート時の資金やTECレベルを設定することが出来るのだが、CPUに有り余る資金を持たせると湯
水のように高価なユニットを生産し続ける。最初から貧乏でも全力で生産することには変わりな
く、当然ターンごとの収支は大赤字となる。いつしか資金は底を突くのだが、するとCPUはどうす
るか。「毎ターン入る僅かな収入で作れる(=弱い)ユニットだけをいつまでも作り続ける」とい
う行動を繰り返すのである。

生産の中身に関しても謎な行動をする。地上でしか使えないユニットを宇宙で作ると言った明らか
に制作者のミスとしか思えないことをするのだ。適正のないユニットは基地→艦船の1マス間のみ
なら行動出来るので、プレイヤーが間違って地球でボールを生産してしまっても、搭載枠に空きの
ある艦に適当に放り込むだけで良いのだが、CPUにそんな芸当など出来ず、期せずして基地は出撃
出来ないMSで溢れかえりその生産機能を停止する。例えば月面の工場がグフで一杯になったりする
というのは、極めてありがちな光景である。
それとは別に、生産中のユニットで一杯になっている基地を何度も覗いては諦め、眺めてはキャン
セルし、という謎としか言いようのない行動を1ターン中に何回も繰り返すのだ。これは正直
バグの類だと思う。このせいでCPUの思考時間が間延びしているのだが、シリーズ初代から思考時
間の長さには定評があるので、多くは語るまい。

次にユニットが本拠地付近に密集する点。何ターン何十ターンと本拠地に張り付き、気が付くと大
量のユニットを密集させ団子を作っている。全くもって非常によろしくない。本拠地は大宇宙マッ
プにあり、ゲーム開始後速やかに小宇宙・月面・地球のいずれかに侵攻し資金源を得る、というの
がこれまた基本だ。本拠地周辺をうろうろし、たまに動いたかと思うと艦船からユニットを出撃さ
せ、たかと思えば格納し……というなんとも不毛な光景を見せられるのは苦痛でしかない。
このユニットの出し入れと言うのが病的で、敵もいないのに出撃させたかと思いきや敵の目の前で
格納し、艦ごとMSを宇宙の藻屑とすることがよくある。これには理由がある。あらゆるユニット
は「燃料」というパラメータを持ち、これは移動したマスの分現在値から引かれる。燃料がゼロに
なるとユニットの本来の移動力にかかわらず1マスしか進めなくなる。しかし、基地や艦船に格納
すれば最大値まで回復するのだ。おそらくプログラマーはCPUがヘボい燃料切れを
頻発してしまうことを恐れたに違いない。なので短いサイクルでユニットを艦船に格納するように
した、と。しかしこの安易な解決策は次の問題を呼ぶ。各MS,MAには必要補給ポイントという物が
設定されており、艦船に格納した際その艦が個別に持つ補給ポイントからそれが差し引かれて初め
てHPや燃料が回復する。艦の補給ポイントが尽きると、その艦が基地に入港するまで一切補給が出
来なくなる。それだけでなく、どのユニットも基地・艦船に格納されてから再出撃するのに決めら
れたターン分待たなくてはならない。かくして、プレイヤーの前には補給ポイントが尽き、頻繁に
出し入れしているせいで1機も出撃出来ない変な艦がノコノコ現れることとなる。「X」「GX」で
はそんな変なことはしなかったため、今でもこの点を批判するファンが多い。

強いCPUとは何なのだろうか。

例えば第二次大戦を扱ったゲームで、「最高に強いドイツ担当のCPU」「判断力溢れる日本担当のC
PU」ならそもそも開戦しないに違いない、という論を見かけたが、なるほどそういうものかも
しれない。過去の歴史を扱ったゲーム、というものを想像して欲しい。プレイヤーはその後どの国
家や民族がどういう道を歩むのかを知っている(知ることが出来る)が、CPUは常に出たとこ勝負
のいきなり本番である。臨機応変さは望むべくもない。「よかれと思って手を結んだ同盟国が足手
まといとなって負けた」としても、CPUは「ああ次は余計な国とは同盟しないようにしなくっちゃ
だわ」と考えたりはしないのだ。人間ならプレイの内容を次に生かすことが出来るが、CPUはプレ
イの度にリセットされてしまうのだから。

史実通りに動くCPUとゲームとして一番賢く動くCPUとはまた別物だろう。HoI2での日本プレイの定
石のひとつとして、「ゲームスタートの1936年1月1日にいきなり対米宣戦」なんていう荒技がある
が、そういったプレイヤーチートをCPUが平気な顔してやってのけたとしたらさすがにちょっと違
うんじゃないの、と。ゲームとしては最高の手でも、シミュレーションとしてはどうなの? と感
じてしまう。

「GNEXT」は歴史を扱ったゲームではない。プレイごとに違ったパワーバランスになるゲームで、
ユーザが求める強いCPUとは「こちらがぬくぬくTEC上昇を図っているのを察知したら速攻を仕掛け
てくる」とか「ある戦線で防戦する隙にこちらの守備が薄いところを攻めてくる」といった強さ
だ。このコラムで「基本」という単語を何回か使ったが、それはやり込んだプレイヤーだからこそ
認識出来る「定石」であり、ミスを経験して成長すると言ったことが出来ないCPUに同じ事を求め
るのは酷という物である。だからこそ開発スタッフにはテストプレイを繰り返して「最初から成長
したCPU」を実装してもらわねば困るのだ。余談だが、このゲームでは(おそらく)CPUはチートを
していない。プレイヤーとCPUは全く同じ土俵に立っている。CPUとチートの関係は奥深く、一概に
「チートしているからダメ。していないから良い」とは言えないようだ。おれはCPUの思考につい
ては専門外で、「複雑なゲームならばチートも仕方あるまい」としか言えないのだが…。

CPUに下駄を履かせるというのにも種類があって、「CPUの思考能力そのものを強化する」のと「CP
Uに有利になるよう各種数値を修正する」等というのが考えられる。前者の方がゲーム的には「王
道」なのだろうけどプレイヤーは数千数万単位で居るわけで、2000年以降はインターネットによる
情報交換という強力な手段もあり、思考を強化したところですぐさま''「熟練プレイヤーの奇策」
が「当たり前の基本ワザ」として幅広く認知されてしまう。''普通気付かないだろ!という穴を付
いた戦術が「発見」され「当たり前」となるにつれ、「頭の良いCPU」とか「嫌らしい配置のマッ
プ」とかはそれほどでもない相手になって行く。となるとそれを見越して必然的に後者のような調
整をせざるを得ないのだけれど、「能力値的に優勢な相手にガチンコせざるを得ない難しいプレ
イ」は希であり大抵の場合「CPUのおバカさを逆手に取った作業プレイ」を余儀なくされる。とい
うより、CPUを強力にする術を事欠いたプログラマーが泣く泣く数値的修正で誤魔化す、と書くべ
きだろうか。これを「手抜きゲーだ!」と嘆くか「縛りプレイにうってつけだ!」と喜ぶかは個人
の問題である。

前2作の経験を全く生かせていないと批判することは出来るが、一応擁護してみると、この作品ど
うも下請けに丸投げされて製作されたらしい。「GNEXT」の発売日は12月22日。バンダイとしては
是が非でもクリスマス商戦に投入したかったのだろう。アクションパートとシミュレーションパー
トと2つのAIが必要で、そのぶん納期の面で厳しいやりとりがあったことは想像出来るが、だから
といって駄目な作品の免罪符とはならない。

結果として、「GNEXT」はそのあまりのダメなCPUのせいで不遇な扱いを受けることとなってしまっ
た。だがおれは、対人戦に限ればシリーズ中トップの出来映えだと考えている。たかがCPUさ
れどCPU、だ。もっとも対人戦は物的・時間的要素に制限されるわけで、正直かなり時間が必要な
ゲームなため「友達の家に学校帰りによってサクッとプレイ」は紳士協定やローカルルールを決め
ないと無理だったろうが…。今なら(あまり大っぴらに出来る話ではないかも知れないが)エミュ
レーターによるインターネット対戦やその中継も出来るのだろうけど。



参考
「Civilization IV」のリードデザイナーSoren Johnson氏がAIの秘訣を語る、「負けるためのプレ
イ: AIと“Civilization”」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080222/ai.htm
4Gamer.net ― [CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語
るAIキャラクターの実装手法
http://www.4gamer.net/games/000/G000000/20120822107/
コンピュータ将棋(wikipedia) フレーム問題というのが興味深い。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BF%E5%B
0%86%E6%A3%8B
何かと叩かれるコーエー製ゲームのAI 兵1・ピンポンダッシュ
http://www7.atwiki.jp/nicosangokushi/pages/344.html#id_2dcc2d0b
http://www7.atwiki.jp/nicosangokushi/pages/342.html#id_424a2536



最終更新日 2017-09-02
2017/09/02 文章の幅修正と英数字を半角に修正




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最終更新:2017年09月02日 17:57