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神風6

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6(Epi.進藤拓馬-III)

「死ぬってどういうことなんだろうな」

消灯した後の暗闇の中、信行が突然つぶやいた。

「…なんだよ急に」
「いや別に。…でも俺ら、いつか死ぬじゃん」
「そりゃあ…」

だったら、死んだ後ってどうなるんだろうな。
信行はさらに続ける。
拓馬にはそんなことわかりようがなかったし、そんなこと、もちろん信行にも、誰にもわからなかった。

「俺さあ、俺、俺の故郷においてきちまった娘が気になってさ」

ああ、と拓馬は思った。
自分が死んだら確かに、自分だって雛のことが気になる…その後も霊体のようなものがあれば、の話だが。

「俺も気になるよ。…信行も恋人がいるんだな」
「いるよ。静香って言ってさ。見送るときは気丈に笑顔でさ…」
「俺は見送りのときは、泣いてたな…」

思い出す。下を向いて泣いていた雛を。
涙が地面に落ちて、だんだんとその色も消えていったことも。
今から行くのに、どう慰めようというのかと、自分を少なからず責めたことも。

「泣いてくれたほうが嬉しいけどな。別れるのが悲しいって思ってくれてるから」
「そうか?俺は雛には笑ってほしいなあ」
「雛って言うのか。かーわいいなまえっ」
「お前、からかうなうよ」

訓練しているあいだにも、雛は元気かなとか、そういうことが拓馬の頭から離れないように、
信行もその子が頭から離れないんだろう。
帰りたい。でももう、後戻りできない。
約束が果たせないことは最初からわかっていたけれど、(そしてそれはきっと雛もわかっていると思うけれど)
それでもここから抜け出して、雛に会いたい。
そんなことが出来ないとわかっていたから、こうやって信行に雛のことを話すしかないのだけれど。
それに自分には、帰れない理由がある。

―――よし。がんばろう。

信行もきっとそう思っているだろう。

「お前よく手紙書いてるよな、その娘にか?」

信行が話を続ける。

「ああ、あと両親にも。お前も書けば?」
「うん、そうだな。今度書くよ。でも俺筆不精だからなー」
「寂しがってるぞ、静香ちゃん」
「お前、こんなところで仕返しかよ」

ははは…と笑いあっていると。

「こらっ!お前ら、明日も早いんだぞ!早く寝ろ!」

厳しい先輩の声が飛んで、拓馬も信行も震え上がる。

「「はいっ」」

さっと布団にもぐり、雛のことを考えた。
記憶の中の雛は笑っており、泣いており、怒っており…
その合間に両親の顔を懐かしく垣間見ながら、拓馬は眠りに着いた。


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