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手のひら

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手のひら

大石秀一郎という人物は、人の変化を見抜くのがうまい。

たとえば、嫌なこと、困ったこと、悲しいことがあったときにそれを見抜いて理解し、気を使うことが出来る。
そういったとき、彼は大抵にっこりと笑って、対象の相手の頭をなでてやる。
悩み事その他は解決はしないものの前向きに取り組む姿勢になれるかも、という彼なりの気遣いかも知れない。
頭をなでてもらう、という行為は人が安らぎを感じる行為の中のひとつであるからだ。

___


手塚国光は悩んでいた。
理由は彼の自宅にある。

『ガチャンッ』

『あ…』

しまった、と思ったときにはもう遅かった。
手塚は彼の祖父が大切にしていた茶碗を落としてしまったのだ。

彼の祖父は典型的な文武両道で、剣道、柔道、華道、茶道そして書道も心がけており、また陶器にも興味があるようだ。
花器や茶器の展示、個展などがあればよく行くようだし、時には気に入った器を買ってくる。
落とした茶碗もその中のひとつだった。

手塚は完璧主義である。意図としてそう振舞っているわけではなく、祖父の影響でそうなってしまった。
なので不測の事態があるととたんに弱くなる。
彼にとって茶碗を割るということは不足の事態。思考が固まってしまい、数分後には目をそらしてしまった。
これは夢だ、俺が茶碗を割ったはずがない。目を瞑って言い聞かせるも…以前、割れた茶碗がそこにあるのだ。
陶器の残骸をどう片していいかわからない手塚は、朝練を理由にほったらかしにしてきてしまった。

これが彼の悩みの一連の流れである。
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