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蒼天の蝙蝠

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その国の領主・磯川忠秀の嫡男・千代鶴は沢で倒れていた同じ年頃の子供を拾う。

左頬に蝙蝠のような痣のある子供は蝙蝠丸(へんぷくまる)と名乗った。
名前や格好、落ち着いた態度から一見少年に見えたが、蝙蝠丸は少女であった。
行くあてがない、という彼女を千代鶴は屋敷に住まわせることにする。

千代鶴の警護をしている源一は、蝙蝠丸の正体を見抜いていた。
蝙蝠丸は、千代鶴の叔父・次秀の抱える忍者集団「鉄鬼衆」の一員だった。
現在、千代鶴の父忠秀は病に臥しており、次秀が次の領主の座を狙っているのだ。
千代鶴を暗殺しに来たのかと問う源一に、蝙蝠丸は自分の生い立ちを語る。

蝙蝠丸は幼い頃、両親との旅の途中で盗賊に襲われ、両親を惨殺された。
生き残った彼女を拾い育てたのが鉄鬼衆の頭だった。
忍として成長した彼女は暗殺者となった。しかしある時、標的の親子3人を幼少期の自分に
重ねてしまった蝙蝠丸は人を殺すことが出来なくなった。
そして役立たずとして始末されそうになったため、逃げ出したのだ。
千代鶴の元にたどり着いたのは全くの偶然だった。
もう鉄鬼衆には戻るな、若様はお前を気に入っているから…と源一はそれ以上の追及をやめた。

明るく真直ぐな性格の千代鶴の元で、蝙蝠丸は次第に人間らしさを取り戻していく。
千代鶴と作った雪ダルマを、薄く微笑みながら眺めていた蝙蝠丸の元へ、血まみれの源一が現れた。
源一は蝙蝠丸に忠秀が亡くなった事、この屋敷に鉄鬼衆が迫っていることを知らせる。
すでに致命傷を負っていた源一は、蝙蝠丸へ千代鶴を守ることと自分への止めを頼む。
止めを刺させる、ということは蝙蝠丸の不殺の封印を解かせる事でもあった。

千代鶴の屋敷を取り囲む鉄鬼衆を1人、また1人と蝙蝠丸は鮮やかに倒していく。
18人倒したところで、千代鶴に血にまみれた姿を見られてしまう。
動揺しつつも、蝙蝠丸は千代鶴を逃がし、鉄鬼衆の頭と戦う。
情を知るようになった蝙蝠丸を頭は「獣になれ、情に流されるものは獣に食われるだけ」と叱咤する。

しかし、頭の技量を上回りながら蝙蝠丸は頭に致命傷を負わせるようなことはしなかった。
何故かと問う頭に、蝙蝠丸は「ここまで育てていただいた、血縁はなくとも父と思っている」と答える。
その答えを聞いて情けないと頭は嘆く。そしてこんな小娘のために仕損じる自分も情けないと。
しかしその顔は妙に和らいでいた。
その頭の体に屋敷の侍達の放った矢が突き立ち、頭は倒れた。
蝙蝠丸に「貴様などもう鉄鬼衆ではない、好き勝手に生きろ」と頭は言い残す。

戦い終わってみれば、転がっているのは師匠や元の仲間たちの死骸、
そして血にまみれた雪ダルマ。泣き出しそうな顔で、蝙蝠丸は立ち上がった。
侍たちが蝙蝠丸を手当てしようとしたが、すでに彼女は見当たらなかった。

「蝙蝠丸とはよく言ったものだ、鳥でもない獣でもない、なんと醜い生き物よ」
血まみれの手で顔を覆い、泣きながら蝙蝠丸は雪の中に消えていった。



5年後、磯川領。笠を目深にかぶった旅の女がいた。
治安も安定し、千代鶴改め是秀が領民に慕われていることを聞いて女は安堵する。
是秀は気安く城下を歩き回る領主で、ちょうどそこへ是秀が通りかかった。
家来たちが笠をかぶった女を見咎めるが、女は「顔が病で崩れている」と言い訳する。
なおも女を詰問しようとする家来を制止して、是秀は女を茶にさそった。

団子を食べながら、是秀は女にこの地の感想を聞く。良いところだ、と答えると、是秀は
「ならば、あの娘も帰ってきてくれるだろうか」と言う。

助けたかったのに、逆に助けられた娘がいた。それが悔しくて、政敵を追い落として
誰もが住みやすい地を目指した。情けなかった千代鶴もいっぱしの領主になった。
今度こそその娘に恥じるところのない男になったと思う。
「だから、もし蝙蝠の頬に痣のある人にあったら伝えてくれ」と是秀は女に言い残す。

千代鶴はいつでも帰ってくるのを待っている。
共に陽の光の下を歩もうぞ。
恐れるな、手を伸ばせ。蒼天はすぐそこにある、と。

「確かにお受けしました、必ず伝えましょう」
そういって涙を流す女の頬には、蝙蝠の痣があった。

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