桜井淳 発言研究まとめ@Wiki

【参考】2005.09.30他 鉄鋼新聞社原文

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日本の未来を担う鉄鋼材料/安心・安全・環境をキーワードとして
日本鉄鋼協会創立90周年記念シンポジウム/鉄に、もっと夢と戦略を(上)/「鉄」を核に新防災社会構築へ
千葉大大学院・非常勤講師(前読売新聞編集委員)・浅羽雅晴氏
日本鉄鋼協会誌「ふぇらむ」から

2005.09.30 鉄鋼新聞記事情報 03面



頻発する災害

「鉄」は、社会の基盤や安全を支えるために欠かせない、古くて新しい材料である。ここでは自然災害の多発する時代の「鉄」への期待を、専門家とは違った観点からお話ししたい。

昨 年10月の新潟県中越地震はマグニチュード(M)6・8の強い地震だった。さらに今年3月の福岡県西方沖地震はM7・0であり、たて続けに大きな地震が発 生した。阪神淡路大震災から10年の間に、数十年に1度起きるかどうかという大きな地震が3回も続いたことになる。地震学者の間では活動期に入ったのでは ないかとの見方も出始めている。

さらに新潟中越地震で注目されたのがJR新幹線開業以来初の脱線事故だった(写真参照)。車輪と排障器の間 にレールがはさまってどうにか踏みとどまり、危うく転覆を免れた。昨今、鉄道や自動車などに効率性や省エネ性がもちこまれ、車体の軽量化が進められている が、いったいどこまで必要なのかと考えさせられる。

鉄離れが進む新幹線も、人間がぶつかっただけで「のぞみ5号」のアルミ合金製の車体の鼻 先にポッカリと穴が開いてしまった。こちらも材料の脆弱性が気になるところだ(その後、100人を超す死亡者を出して大惨事となったJR福知山線の脱線転 覆事故でも、電車のボディーの強度不足が大きな問題になった)。

一方、インド洋の大津波を映し出すテレビを見ていて、被災地に鉄とコンク リートがあまりにも少ない、との印象を受けた人は多かったのではないか。鉄とコンクリートは、街づくりやダム、河川改修の際に、自然景観にそぐわないし無 粋であると疎んじられてきたが、大災害への備えとなると評価が逆になるものだ。

昨年は、台風が10個も日本列島に上陸し各地に爪痕を残し た。なかでも台風18号は列島を縦断して強い勢力のまま函館に再上陸し、防波堤のケーソンを次々と海中に沈めるなどその威力を見せつけた。甚大な自然災害 に遭遇するたびに人間社会の脆弱さを思い知らされ、災害にどう備えるかが焦眉の問題になっている。

社会基盤の維持人材の確保

一 方で、日本は1960年代から社会基盤の整備が急速に進んだ。数十年経ったいま、高速道路や新幹線、橋梁、超高層ビルなどの社会インフラがそろそろ更新、 修復の時期に入っている。今後、人口構成の高齢化が一層進み、財政が逼迫するなかで、大規模な修復や建て直しにかかる膨大な費用をどのように確保し、貴重 な社会基盤をどう保持していくのかが問題になり始めている。当然「鉄」の長寿命化やリサイクル性向上などが真剣に論じられるようになるだろう。

ま たマンパワーの問題としては、団塊の世代が一斉に定年を迎える「2007年問題」が起きる。豊かな経験を持った人材が大量に組織を離れたあと、社会の安 全・安心の管理や継承をどのように確保していくのかが、いまだに見えてこない。さらに2020年になると、2000年に比べてこのような人材が800万人 も減少するとみられている。

「日本を取り巻く脅威」というテーマを整理した政府のデータでは、災害によるライフラインの寸断や、地震・津 波、過密都市圏の脆弱性が鋭く指摘されている。「安全・安心の重要度に関する意識」という政府の世論調査でも、国民は常に災害防止を上位に位置づけてき た。だが、実際の政策となると、不審船やNBC(核、生物、化学兵器)テロ、サイバーテロなどの政治的なテーマにすり替えてしまい、地震や風水害に備える インフラ整備についての比重が軽くなっているのは無視できない問題である。

同じように、2006年からの実施に向けて論議されている「第3 期科学技術基本計画」でも、防災や社会基盤整備についての視点が欠落している。バイオ、ナノテク・材料、情報通信、環境などの従来の4分野にこだわらず、 防災や減災の研究におおいに力を入れるべきである。これは他の先進国にはまねのできない自然災害大国日本ならでは重要なテーマであり、「鉄」を核にした新 たな防災社会や安全社会づくりにもつながるはずである。


2005.10.06 鉄鋼新聞 03面


研究者の減少

だ が「鉄」を取り巻く内情は決して楽観できるわけではない。昨今、中国特需と素材不足で鉄鋼業界は一時的に潤っているものの、「鉄」の将来を支える研究費と 研究者数が長期的に減少し続けているからだ。他の産業は不景気の中でも研究費と研究者数を一定のレベルで維持してきた。トヨタや日立は、年間売り上げの 4~5%の研究開発費を確保してきたが、鉄鋼業界では1%を割り込んでしまっている(図参照)。こうした事態を放置しておくと業界全体の活力が損なわれ、 優秀な学生が集まらなくなり、現役の若手世代も意気消沈しかねないと心配する人が多い。経営者は長期的な展望をもち、初心にたち返って研究開発に力を入れ 直すべきである。

いま、各大学の工学部から「鉄鋼」や「冶金」、「金属学」などの看板が次々と消え、「マテリアル工学科」と舌をかみそうな 名前に変貌している。「鉄」を含む材料分野の研究に関して世界のトップクラスの実力を誇る日本だが、この強みを活かし切れず、放置してきたつけが回ってき たのではないだろうか。

ここ20年ほどの間に、物理学や材料科学の分野でおきた2つの革命を思い起こしてみたい。かつて専門家達は身近な 「炭素」について、「ほとんど調べつくした」としていたが、ある時突然、フラーレンやカーボンナノチューブが発見され、世界を驚嘆させた。また「セラミッ クス(無機材料)」についても「ほとんど研究の余地はないだろう」と思われていたところに、高温超電導物質が発見された。したがって魅力に溢れる、開発の 余地の多い「鉄」の分野で、将来、驚くような大発見が生まれる可能性がないとはいえない。

高強度はもちろんのこと、さびない鉄や、汚れない 鉄、人の肌のような感覚を持つ鉄、七色に輝く鉄……と、鉄には様々な期待が込められている。新時代にむけての斬新な「鉄」の研究開発には、経団連などの支 援を積極的に活用して、国家プロジェクトとして推進すべきである。経団連はこれまで準天頂衛星の開発や、ナノテク、環境保全、情報通信分野などで国家プロ ジェクトを後押ししてきた実績があるからだ。

また開発の過程で生まれた科学的知見を、社会や若者に還元しながら知的刺激を与え、励ましてゆ くことも欠かせない。茨城県つくば市にある物質・材料研究機構では、「超鉄鋼プロジェクト」のホットな研究成果をビジュアルなパンフレットにまとめ、大学 理工学部の授業に使えるようにサービスしている。豊橋科学技術大学などではこれを教材として効果的に活用しており、「鉄」を見る学生たちの目に輝きが生ま れているという。

若者への訴えかけ

今、若者の間で「鉄」や「鋼」といえば、人気漫画の『鋼の錬金術師』をすぐ思い浮かべるそうだ。昔も『鉄腕アトム』や『鉄人28号』などがあった。「鉄」は若者の世界に確かな存在感を与えているといえよう。

あ る鉄鋼会社では、「瀬戸大橋には71万トンの鉄が使われた」などと、社会に役立つ「鉄」の説明資料を作り、公表している。雑誌や絵本で「鉄」をわかりやす く説明することで、社員の子供たちが父親の仕事をよく理解できるようになったと好評だそうだ。さらに小中学校の教材用としての利用も徐々に広がり始めてい る。

また今年、早稲田大学附属本庄高等学院の生徒による「鉄」の研究が、北京で開催された3rdAPEC Youth Science  Festivalで世界第2位に選ばれた。小川から採集したバクテリアを使って水酸化鉄の沈殿物から鉄を回収し、それを製鉄にまでつなげようという面白い 研究である。ここでも物質・材料研究機構が高度な顕微鏡写真の撮影を手助けしている。専門家が、若い学生たちの活動を側面から支えることの意義がくっきり と現れている。

「信頼に足る社会基盤」の維持や「安全・安心の社会」の構築には、これからも「鉄」を使った‘鉄壁’の備えが必要となる。 「鉄」は社会的に見えにくい素材だからこそ、より積極的なPR活動の展開が必要であり、その存在感を常に社会に向けて発信し続けることが発展に不可欠に なっている。

未来産業としての「鉄」の輝かしい再興を、市民の立場から熱望している。

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