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背中

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「背中」

 一つ目の種子を手に入れ、二つ目の種子を求めて旅を続けるストライク一行。
しかし、その手がかりだけでも見つけ出すのは容易ではなく
その日もろくな手がかりを見つけられないまま、一行は川のほとりで野営の準備を始めていた。
「今日もダメか…クソッ、何故見つからない」
「仕方があるまいて。今日はゆっくり休むことじゃな」
「のんびり休んでる余裕なんてあるのかよ!こうしてる間にも兄さん達は…」
ストライクは途中で発言を止め、自らが口にしかけた言葉に嫌悪を抱く。
こうしている間に、あの二人はどうしているのだろう。
ザフトに加担し、何をしているのだろう。
考えたくは無かった。たとえ自分に刃を向けた事実があったとしても。
二人がその手を罪もない人々の血で汚していることなど、考えたくも無かった。
深刻な顔で押し黙るストライクに、フラガが見かねた様子で声をかける。
「さて、暗くなる前に薪を集めないとな。行くぞ、坊主」
返事の有無も気にせず森に入るフラガを、ストライクは慌てて追いかけた。

「ん~~…おっ?この木の実うまそうだな」
気楽そうに口笛を吹くフラガに対し、ストライクは怪訝な面持ちだった。
騎士団長フラガ。王の護衛という特別な地位に着いている兄やイージスを除いた
ラクロアの騎士達の頂点に立つ男。この旅で同行するまでは特に話す機会もなく、
自分のような一介の兵には雲の上のような存在、のはずだった。
考えてみればこうやって二人きりになるのも初めてかもしれない。
だが今は騎士団長という厳格な印象のある立場に対し、あまりにも飄々としたその態度にストライクは少々苛立ちを覚え、半ば睨みつけるようにその背中を見ていた。
「…なぁ坊主。坊主は、なんか趣味とか楽しみにしてる事ってあるか?」
「楽しみにしてる、事?」
急に話題を振られた事にも驚いたが、内容も突拍子のないものだったのでストライクはいっそう困惑した。その様子を見てフラガが肩をすくめる。
「若いんだからなんかあるでしょうがよ…本を読むこととか、女の子とお喋りすることとか…」
ストライクは首を捻った。学問がからっきしなので本はあまり好きではないし、
女性も苦手ではないが進んで会話をする事もない。
幼い頃から馴染みがある故に異性という認識が緩いラクスは別として。

「…じゃあ、飯を食うこととか」
あぁそれだ、とストライクは頷いた。鍛錬の後に食う飯は格別に美味いと思っているし、
普通に食べるだけでも楽しみだ。かつては『制限時間内に百皿完食でタダ』という
ディアッカの店の企画に挑戦し、九十八皿目で吐いてメビウスゼロと兄を泣かせたこともある。
「そうか…なら明日はどっかの街で美味いモン食おう、そうしよう」
「えっ、種子探しはどうすんですか」
「んなもん一日くらい休んだって構わねえよ。この辺りは大方調べ尽くしたしな、ぶっ続けで」
楽しそうに笑うフラガに、ストライクはあからさまにむっとした表情を作り詰め寄る。
「ふざけんな…そんな事してる暇、俺達にはないはずだろ…!」
フラガは、声を荒げて今にも飛びかからんとするストライクの肩にそっと手を載せる。
「肩の力を抜けよ…お前は色々背負いすぎだ」
「構うもんか!早く種子を集めなきゃ、世界が危ないかもしれないんだぞ!」
未だ食って掛かるストライクに、フラガはため息混じりに呟いた。
「…少なくとも、俺はお前に世界の命運なんて背負わせたくねぇよ」
その言葉を聞いて、ストライクは愕然としてうなだれる。
この人は、自分の身を案じてくれていたのだ。


自分が選ばれたから、やらねばならない。
自分にはその力があるから、やらねばならない。
ストライクはそう言い聞かせて一心にこの旅を続けてきた。
もちろん自分で選んだことだから、誰も文句は言わないし誰にも文句は言えない事だった。
フラガはそれを見抜いていたのかもしれない。例え僅かでも、自分が辛いと思っていた事を。
口には出さないが、真剣な表情には出来る事なら代わってやりたいという思いがにじみ出ていた。
「大体その若さで今から種子だ戦争だ――んなもんに振り回されてちゃ、後の人生キツイって」
フラガの口調には、どこか苦々しいものが感じられた。思えば三十路にも満たないこの人が団長になったのもそれなりに若い頃のはず。騎士団の長としての誇りや、責任を背負ってきたであろう苦労は計り知れない。
そうだ、自分はこの人の事を何も知らないではないか。
ただ上辺だけを見て決め付けるなんて、何と愚かしい行為をしていたんだろう。ストライクの胸中は己を恥じる気持ちでいっぱいになる。
種子に選ばれたからって、自分だけ特別だと勘違いしていた。勇者でも気取っていたのだろうか。
「もっと気楽に行かなきゃ。旅も、人生もな」
フラガの言葉が妙に沁みて、なんだか目頭が熱い。ストライクはうつむいて誤魔化す。
「まぁでもお前さんのそういうところ、俺は嫌いじゃないけどね」
そう言って踵を返したフラガの背中が、ストライクにはいつもより大きく見えた気がした。


翌日、一行は近くの街で久々にゆったりと食事をとり過ごしていた。
だが物陰から彼らを狙う複数の影。ザフトの弓兵たちだった。
人通りの多い場所では、同じく種子を狙うザフトが目を光らせているのは当然のことだ。
弓兵が狙いを定めた矢が無我夢中で料理を平らげるストライクの頭めがけて解き放たれる。
食後のコーヒーを口にしながら、物陰を睨んでいたフラガがいち早く反応し立ち上がって
ストライクの頭を押さえつける。顔面を料理まみれにしたストライクが抗議しようとするがテーブルに刺さった矢と、飛んできた角度に自分の頭があった事に気付き絶句する。
「こら、何ぼさっとしてんの!騎士たる者、常に周りに注意を払うのは基本だろうが!」
フラガは怒鳴りながらストライクの頭を叩くと、鞘を掴み物陰に向かって駆け出す。
ストライクは目を丸くする。昨日と言ってる事が矛盾しているじゃないか。そもそも俺は騎士じゃない。
「ちっくしょー…納得いかねぇ…」
ストライクは走るフラガの背を見つめた。相変わらず飄々としているが、ふざけている様子はない。
戦いに臨むという確かな緊張感と、焦りを感じさせない余裕が同居した背中だった。
どんなに時にでも、己を見失わない。それがこの人の強さなんだ。
ストライクは少しだけ軽くなった足取りで、フラガに続いた。

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