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王女の決意

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「王女の決意」

ラクロアの式典の途中、突如として反乱を起こした近衛騎士デュエルとイージス。
反乱の際、二人の近衛騎士はラクロア王シーゲルに刃を向けると躊躇いもなく切り捨てる。
孤児のデュエルにとっては父親同然の存在、のはずであった。
王は倒れ、同時にザフト軍の襲撃。それを合図にして場は大混乱に陥る。
混乱に乗じて、2人の近衛騎士はザフト騎士団に合流し逃走を図った。
惨劇の場となった王の間で、胸からは血を流し膝を突いた王は力なく叫ぶ。
「キラ…王女を…ラクスを…頼んだぞ…!」
「ですがっ…」
「己の役目を忘れるでない…その剣、何のための力か…!」
「陛下はワシが必ず安全なところまでお連れする。お前は王女様をお守りするんじゃ」
「老導師メビウスゼロ様…わかりました。王女様、こちらへ!」
「ま、待ってキラ…お父様、お父様ぁッ!」
国を出る際、近衛騎士は街に攻撃呪文を放ち、辺り一面が火の海と化した。
専属の護衛キラに連れられ、いち早く国から避難した王女ラクスは、紅蓮に包まれる国を見ていることしかできなかった…。


赤いマフラーが映える、緑色の小鳥が騎士団長フラガからの伝令を持ってキラの元へ飛来する。
騎士団の連絡役として働いているトリィだ。キラに懐いており、キラ自身も友達のように扱っている。
キラは手紙を読み、近衛騎士がラクロアを出たあとザフトと合流したこと、ストライクが一人でそれを追いさらにラクロア騎士団も追撃部隊を編成し国を出たことを知る。おそらく戦闘となるだろう。このまま行けば戦いに巻き込まれるかもしれない。そう判断したキラはとある場所に目標を定め、足を早める。
ヘリオポリス神殿―――ラクロアの近郊に存在する、湖に囲まれたそれは辿り着くのも大変な場所にあるのだが、その分人気はなく近づく者がほとんどいない。 ましてやザフトの兵が来ることはまずないだろう。
途中モンスターに襲われたりしたが、幼少の頃から鍛えられたキラはものともせず、
見事ラクスを神殿まで連れて行く。自分達がヘリオポリス神殿に向かったことと
現在はとりあえず王女も無事であることを記し、トリィに持たせて騎士団長フラガの元へ送る。
さすがにこれだけの距離を移動したので王女も疲れているようだ。神殿には何があるかわからないので入れない。よって入り口のあたりで休息をとることに決定し、ようやく落ち着いたキラは息を吐く。
しばらくの間、静寂が訪れた。



何故、こんなことになったのだろう。王女ラクスは神殿の下に座り込んでため息をついた。
今まで王を守り、民衆を守り、国を守ってきた彼ら2人が反乱を起こすなんて自分にはもちろん国民の誰もが信じられないはずだ。
これからラクロアはどうなるのか、 自分はどうすればいいのか。頭の中で色々な想いがぐるぐるとかき混ぜられ、 様々な考えが浮かんでは消えていく。
そうこうしてどれだけ経っただろうか。
突然、どこからか誰かの声が響く。ラクスは不意に思考を止め、流れ込んでくる声に耳を傾けた。
「種子(シード)…守護獣…力を示せ…我らの封印をとけ?」
途切れ途切れだが、心の中に染み込むように響く言葉を知らず知らずのうちに己の意志とは関係なく紡いでいく。
「ラクス様、どうかしましたか?」
キラが不安げにラクスの顔を覗き込む。声をかけられ自身の意識を取り戻したラクスは
「えぇ、大丈夫ですよ。心配させて御免なさい」
疲れを隠しきれぬ表情で無理やり笑顔を作る。
キラはいたたまれない気持ちになりながら、話題を変えようとラクスが口にした言葉の一片について尋ねる。
「もしかして今ラクス様が口にした種子って、この国に伝わるっていう…」
「あぁ…そういえば昔一度だけお父様がそのようなお話をしてくれましたね」
ラクスはキラの発言をきっかけに、この国に古くから伝わる伝説のことを思い出す。
種子(シード)。「力」「技」「魔法」3つの法則を司り、3つを手にし見事その力を開花させれば神にも近い力を手にすることができるという秘宝。それぞれに生命が宿っており意思を持っている存在とも、手にした者に新たな姿と力を与える武具だとも言われていて様々な説があるため詳細は不明である。
もしかしたら今の声はラクロアの危機を察知した精霊のお告げかもしれない、とラクスは思った。
先程ラクスの頭の中に声が響いたとき、ヘリオポリスの神殿の奥の祭壇が光に包まれたことを知る者はいるはずもなかった。


再びトリィが戻ってきた。どうやら2人にはザフト共々逃げられたらしい。
さらにその際ストライクがザフト兵に倒され、行方不明となったことが記されていた。
(そんなっ…ストライクが…!?)
悲痛な報せに、キラは大きく目を見開いて唇をきつく噛み締めた。
王女を守護するという特殊な立場上、普通の生活を送るどころか友人を作ることさえままならなかった自分に気兼ねなく接してくれた友と呼べる数少ない存在。
ストライク自身もそれなりに複雑な事情を抱えていたが、微塵も気にすることなくまっすぐに生きてきた彼がキラは好きだった。
それだけにザフトに単身戦いを挑んだ彼の行動は彼らしくはあるが、命を落としてはいないかという懸念が痛みとなって胸の中で渦巻く。
(ラクス様には、知らせないでおこう…)
動揺を悟られぬよう、静かに手紙を閉じて懐に仕舞い込む。
「ラクロアの方は落ち着いたようです。とにかく戻りましょう…慌しくて、すみません」
「いいえ。キラは頑張っていると思いますよ」
文句を言う事も、咎める事もせず笑みを携えてラクスは立ち上がる。
自分に絶対の信頼を寄せる彼女に隠し事をした後ろめたさが、キラの心をさらに痛めた。
国に戻るため、来た道を辿る。その途中、脇に流れる川のふもとに誰かが倒れているのを発見する。
「あれは…!」
先ほど行方不明の知らせを受けたストライクであった。キラはラクスと共に急いで駆け寄る。
ラクスはキラが仰向けにさせたストライクの頬に手を触れて呼びかける。
「ストライク。しっかりしてください、ストライク」
「う…」
意識があることを確認して、キラはひとまず安堵する。だが激しく傷ついたその身体を見やると、明らかに崖から落ちた時以外についたであろう切り傷があることに気がつき、眉をしかめた。
(これは…どこかで見たような…)
信じたくはないし、確証もないことだ。キラは薬草を取り出し、応急処置を施す。
とにかく国に戻らなくては。ストライクを加え3人で帰路につく。
ラクロアに到着し、医療部隊にストライクを預ける。そうしてから、ようやくラクスは自分の国の惨状を目にする。
城下街の半分ほどが焼け、かつての面影はほとんど残っていなかった。死者こそ出なかったものの、火事に巻き込まれた怪我を負った人もいるようだ。
憔悴しきった人々へどのように声をかけるべきか迷い、視線を落としたラクスは民家の前で泣きじゃくっている少女を発見する。
「どうしたの?」
しゃがみこんで視線を合わせ、出来る限り優しい口調で語り掛ける。少女は
「ひっく、えぐっ…おと、おとっ、おどう゛ざんが…うわぁぁん!あぁぁああああん!」
あふれ出した感情を抑えられず泣きだす。傍であやしていた母親らしき女性が、父親が少女を助けるために火事に巻き込まれ、今しがた運ばれていったことを教えてくれた。
その姿に、ラクスはなんとなく自分を重ねる。そっと手を伸ばし少女を抱きしめて言う。
「それは、辛かったですね…でも、泣いてばかりではきっとお父様も心配してしまいます…さぁ、涙を拭いて」
慰めたはずのラクスの瞳から、涙が流れている。 最後は自分にも向けた言葉だった。
王女として、泣いている場合ではない。そんなことはわかっている、はずなのに。どうしても頬を伝う涙は止まらない。
自分だけがつらいのではないのだ、大勢の民が悲しみに包まれている。
この先、不安を抱く彼らを導くのは自分の役目だ。
強く、ならなければ。
誰かが泣きたいとき、支えて上げられる強さを手に入れたい。
そのために、この事で泣くのはこれで最後にしよう。
(なりたいのではなく、ならなければなりませんね…)
決意を胸に、ラクスは前を見据えた。視線の先にはラクロア城が、己が戻るべき場所が存在していた。


「ラクス様…よくぞご無事で。ささ、早く城の中へ」
城に戻ると、大臣のアズラエルが出迎える。彼も無事だったようだ。
別に悪い人間ではないのだろうが、時々妙に不遜な態度をとる彼がキラはあまり好きではなかった。
(そういえばこの人…どこにいたんだろう。陛下が斬られた時、真っ先に…?)
確証はないので顔には出さないが、何となく嫌な気分になる。
「いやはや、一時はどうなる事かと思いましたけどねェ…陛下は寝室の方でございますよ」
「そうですか…」
彼の話によると、父はなんとか一命をとりとめたようだ。ラクスは胸をなでおろす。
しかし、容態は非常に不安定なため安心できない事に変わりはない。 ラクスは凛とした表情で先ほどから考えていたことへの答えを出す。
「それで、これから陛下の代わりにしばらくこの国を治める者についてですけども…」
アズラエルがいやらしい口調で、自身の名を出す前にラクスが胸を張って言う。
「わたくしがやります。父の代わりに、わたくしがこの国を治めてみせます」
天然で頭の中はラクロアを象徴するように平和そのものと多くの人々に愛されるだけの存在だった王女から出た意外すぎる言葉に、キラも含めた一同が驚きを隠せなかった。
「で、ですが…王女様は政治についてあまりお分かりではないんじゃあ?」
「えぇ。ですから、皆さんの力を是非お貸しください」
「そ…そりゃあもう、任せてくださいよ…ハハ…」
呆気にとられたアズラエルは、引きつった顔で苦笑いをする。
今の自分が世間知らずで未熟なのは百も承知だ。ならば周りの人間の助力を請うてでも国を纏める。
その間に努力し、学び、父のような王を目指す。それがラクスの決意だった。
「それでアズラエルさん、騎士団の皆さんを王の間へ集めてくださいませんか」
「いっ…一体何を?」
「これからはわたくしが父の代わりに務めを果たすことを、皆さんにきちんとお伝えしませんと」
「そっ、そうでしたね!ならばナタルさんに伝えて参ります…それでは」
アズラエルはなんとも形容しがたい表情を作り、足早に立ち去っていった。
王の間に着くと、ラクスは騎士団員達が集まるのを待ちながらこれまでは父が構えていた玉座に手を触れる。
これからは、ここが自分の居場所だ―――改めて決意した直後、再びどこからか声が聞こえてくる。
(お前の決意はしかと感じた…ヘリオポリス神殿へ…若き勇者を………この声は、一体どちら様?)
声の主を探そうと周囲を見渡すが、不審な存在は感じられない。
傍らで直立不動の姿勢をとっていたキラが怪訝そうな顔をする。やはり、自分にだけしか聞こえていないようだ。ラクスは一方的に続く言葉を逃さぬよう耳をすませる。
(三つの種子を集めよ…スダドアカの……闇、を打ち払う…希望…)
鵜呑みにするのは軽率だが、何をすべきかわからないこの状況で導となる言葉が提示されるのは、ラクスには有難かった。
もしその存在が事実ならば、この道しか残されていないのかもしれない。事実であることを願ってしまう。
考えているうちに騎士団員達が整然と立ち並ぶ。その中には、ストライクの姿もあった。
不安げな面持ちの者が多い中、自分をまっすぐに見つめるその瞳に何らかの決意を感じたラクスは静かに頷くと、先ほどの声に従いこの国に伝わる伝説の秘宝について語りだす。
それは、ラクロアという国が新たな一歩を踏み出した瞬間であった…。

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