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ラクロアの賢者

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「ラクロアの賢者」

式典の日、突如反乱を起こした二人の近衛騎士により大きな打撃を受けたラクロア。
これからの方針について話そうと、王女ラクスは王の間に集った騎士団の前でこの国に伝わる伝説の『種子』(シード)について語りだす。
誰もが聞き覚えのないその存在にほとんどの者が戸惑いを覚えると同時に、それがもし本当ならば二人の近衛騎士を失った自分達が国を護るためには必要だ、という結論にも辿り着いていた。
そして話し合いの結果、当面の目的は国の復興と『種子』を集めザフトの侵略を止める、という二つに決定される。
種子を探し出すメンバーには志願者である若き闘士ストライクと騎士団長フラガ、女剣士マリュー、そして。
「種子か…ワシも詳しい事はよくわからんが、この国のためじゃ。力を貸そう。いや、知恵かの。ホッホッホ」
声をあげて笑う老導師メビウスゼロを見ながら、ストライクはため息をついた。
彼は長きに渡って執政を担当していたのだが、そろそろ新しい世代にも期待したいとアズラエルに全てを任せ、引退したラクロアの重鎮である。
だが、これまで執政のため動き回っていた彼は年老いてもその勢いは衰える事がなく、常に暇を持て余していた。
元々法術士でもあった彼は弟子であるナタルが指揮を執るラクロア騎士団法術隊にちょっかいを出すのは日常茶飯事である。

辺境に位置し、国同士の争いとは無関係に見えるラクロアでも常に安全が保障されているわけではない。
騎士団員達は有事に備え、常に各々の力・技・魔法を高める訓練を行なってる。
これはそんなある日に起きた、とはいえさほど珍しくはない光景だった。
「ホッホッホ。まだまだじゃのう、若造ども。どれ、ワシがひとつ強力な呪文でも…」
「導師様、困ります!今は演習の最中なのです!」
散歩がてらに若者達の様子でも見よう―――演習場に現れた老導師はちょうど良いモノを見つけたと言わんばかりに目を輝かせると、騎士団でも一際厳しい修練に励む法術隊の演習に乱入する。
「まぁそう固いことを言うな。どれ、あの的を法術で壊せばよいのじゃろ」
老導師は僅かな時間で左手を添えた杖の先端に精神を集中させると、
「バズレイッ!」
強力な呪文を法術隊が使う練習用の的めがけて放つ。的は爆発四散し、自慢げな顔をする老導師。若き法術士達は歓声と拍手を送る。しかし、
「うおっちゃあっちぃぃぃぃぃ!!」
たまたま通りがかったストライクに、燃え盛る破片がいくつか降り注いだ。
「何すんだジジィ!」
「的を壊してしまっては練習ができません!」
二人から同時に抗議を受けて詰め寄られ形勢不利か、老導師は素早く判断すると抗議をしてきたうちの一人に狙いを定める。
「おいスー坊!お前どうせ暇じゃろ。今からワシに付き合え!」
「ちょっ…俺は今から剣の稽古を!」
「稽古は夜でも出来る!買い物は店が開いとる間だけじゃ!」
こうして老導師はあわや標的にされたストライクを無理やり引っ張ると、演習場を後にしたのだった。


正直に言おう。俺はこのジジィが苦手だ。
俺達を見つけた王様に代わって育ててくれた事は感謝しているが、それを抜きにして語るとなると話は変わる。
まず第一に、俺やイージスを法術士にするためには手段を選ばない強引さ。
今は大分諦めたようだが、昔は相当ひどかった。
小さい頃、誓約書と知らずに名前を書かされそうになった事は忘れられそうにない。
あとかなり大人気ない。俺が大事に集めていたカードダスを勝手に持って行ったりする。
そのくせ俺達のことは未だに子供扱いしやがるのも気に食わない。俺とイージスをスー坊、イー坊と呼び色々な騒動に巻き込んだりする。
今だってそうだ。何で俺がこんなことしなきゃならないんだよ。あぁ、さっき焼けた部分が痛い。
演習場でジジィにつかまり、現在はその買い物に付き合わされている俺は、募る不満を吐き出す手段もないまま悶々とした表情で歩いていた。
「おい、こら!さっさとついてこんかい!」「はいはい」「はいは一回!」「はい!」
騒がしいやりとりをしながら、ジジィの趣味の骨董品や杖集めにつき合わされ、俺が荷物の全てを預かる。
朝から休むことなく荷物を抱えて歩き続け、陽がてっぺんを過ぎる頃になると俺は文句を垂れる気力もなくしていた。
一方のジジィは疲れるどころかむしろ元気で、それがまた俺の神経を逆なでする。
「ホッホッホ、よう頑張ったな。どれ、甘いものでも食べて休憩しようか」
そう言ってやってきたのは若者ながらラクロア一と噂される腕で注目を集めるディアッカの食堂だった。
「だーかーらー!ウチはそういうのねーんだって!」
「何いうとるんじゃ!ラクロア一の料理人を名乗るならチョコパフェぐらい簡単に作らんかい!えーと、えーと…そう!ヂアッカ!ヂアッカよ!」
「だからディアッカだっての!いい加減にしてくれ」
だだをこねるジジィ。ちなみにこの争いはここに来るたびに行われる。ディアッカのディが発音できずにヂアッカになるのもいつもの事だ。
「ったく毎度毎度…ストライク、頼むから何とかしてくれよ」
「無理」
この後も陽が落ちるまで連れまわされ、最後には万屋でジジィと共にカードダスを回す。これもいつもの事だ。あ、キラカードだ。やりぃ。
「よし、それはそこに…んむ、ごくろう。気をつけて帰るんじゃぞ」
別れ際に茶色で楕円形で思いっきり甘いアメを渡される。散々コキ使った報酬がコレだけって舐めんな。
アメか、アメなだけにかこのジジィ。というかこれはあまり好きじゃない。
ったく、うっとおしい事この上ない。だけど、もし祖父がいたならこんな感じなのだろうか。兄さんと共に拾われた俺にはわからない。
ただわかるのは、あのジジィはいつも自分にかまってばかりいるということだ。


遠くない過去の記憶を振り返りながら、ストライクは老導師を眺めていた。
初めて出会った時からその旺盛さは変わらないのでそれ程に気にしていなかったが、
近頃は大分皺も増え、目も悪くなったようだ。老眼鏡をかけているのを見かける時もある。
なのに、これから種子の捜索に一緒についていくというのだ。ザフトと戦うこともあるだろう。
当然、あの2人とも。
ストライクは迷いを振り払い、意を決すると言葉を発する。
「じーさん。種子は俺達に任せて、アンタは大人しくしてなよ」
それはストライクにしては珍しく棘のない、穏やかな口調だった。
老導師の目が、一瞬驚きの色に染まったあと打って変わって険しくなる。
フラガも続こうとしたが、老導師の様子を見て途中で諦めたように一歩下がると肩をすくめた。
その直後、老導師の耳を貫くような怒鳴り声が王の間に響く。
「バカモン!お前らのようなひよっこどもにラクロアの命運を預けられるか!…それにあのバカ共はワシ直々にたっぷりと説教してやらんとな」
後半の言葉で、自分と違いあの二人が怒られるところは滅多に見た覚えがないので少し揺らぐが、それとこれとは話が別だ。
親のいない自分や兄にも、親のいるイージスにも違いのない態度で接してくれた数少ない大人。できれば戦いなんて巻き込みたくない。
なのに、どうしてわざわざ苦しくなるであろう戦いに飛び込もうとするのか。
自分の気持ちを上手く伝える手段が見つからず、ストライクはむず痒い気分に苛まれる。
(クソッ、だから嫌いなんだ)
どうにかして諦めさせる手はないものか。ストライクが神妙な表情で考え込んでいると、後頭部に大きな衝撃が加わる。
「なんでだ!」
「なぁに辛気臭い顔しとんじゃ!そんな顔見てるとこっちまで気が滅入るわい!ほれ、これでも食え!」
差し出されたのは、いつも渡される茶色い飴だった。
受け取って握り締めつつ、ストライクは怪訝そうな表情をやめない。
「フン…お前、ワシの法術をなめとるな?それにワシの知恵なくしてこの先戦い抜けるものか。まぁいざとなったら、お前にでも守ってもらうわい。のうスー坊!」
「スー坊言うな!…当たり前だ」
「なら決まりじゃな!ワシも行くぞい」
(しまった…このジジィ)
満足げな表情の老導師に対し、ストライクは苛々した様子で拳を握り締める。
逆に丸め込まれてしまったことに納得がいかない上、反論できるほど頭が回らない事実が腹立たしかった。
「お決まりのようですわね」
「ぇっ…ぃゃ……」
加えて、ラクスによって無慈悲な決断が下されストライクは言葉を失う。
さすがに幼馴染とはいえ王女に噛み付くほど無作法ではない。本来なら騎士の称号を授かる者として、それなりに立場は弁えているつもりだ。
こうして、ストライクと共に種子を探しに行く仲間が決定する。騎士団長フラガ、副団長マリュー。
そして、苦手ではあるがストライクにとっては兄と等しくかけがえのない、家族同然の存在。
やはり連れて行くには忍びないのだが、本人の意思は相当固いようでストライクは諦める。
しかしこの頑固さを譲り受けているのが自分自身だということを、本人はまだ知らない。
今、伝説の『種子』を巡る大いなる戦いが始まろうとしていた…。

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