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果たすべき使命

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匿名ユーザー

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「果たすべき使命」

俺の名は重戦士バスター。ザフトに雇われた傭兵…ということになっているが実はラクロアの者で称号は重闘士だ。
しかし最近不穏な動きを見せるザフトに対し情報を集めるため王の命を受け、単身ザフトに潜入することとなった。やれやれだ。
ちなみにこの事をザフトに感づかれないための身代わりとして、信頼できる部下を影武者に仕立て上げてきた。
気は弱いがそれなりに信頼の置ける奴なので一応は安心しているし、俺自身の装備を与え行動も一挙手一投足を叩き込んできたのでぬかりはない。
装備は当然貸しただけだ。後で必ず返してもらう。下手に傷をつければただでは済まないことも言い聞かせてある。
その後はザフト製の鎧や武器などを纏って姿を変え、傭兵として前線での戦闘を志望する事であっさりとザフト軍の一員として認められた。
ザフトは、騎士団だけでなく傭兵なども雇いそれを纏めて一つの軍としているらしい。
だからこそ、余所者にもある程度は入り込む余地はあるという事だ。
しかし生粋のザフト国民(もしくは、移民してきて正式に国民として認められた者)にしかなれない騎士団員達は自尊心が強く、余所者に対してはかなり排他的だった。
そのせいで当初は情報を集めるのもままならなかったものの、戦場で戦果を上げザフトに貢献するうちに待遇もそこそこ良くなりどこを出入りしても怪しまれなくなった。
常在戦場の精神で戦いを生きがいにしている俺としては、この点は大変好都合だった。
我が国王は、そういう意味で俺をここへ送り込んだのかもしれない。何分読めない男なので真意はわからないが。
むしろザフトが侵略こそ行うがつまらない一方的な殺戮も無く、最初に力を示してから事を容易に運ぶ姿勢である事は少し意外だった。
おそらくは現場を指揮する者の考えなのだろうが、他国への容赦ない侵略を命じているザフト王の意思に比べると矛盾を感じるところもある。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
現在集めた情報では、近々ラクロアへと襲撃をかけるらしい。すぐさまこの事をラクロアへ伝えようとしたが、あまりに突然の事でどうする事もできなかった。
そしてラクロアに式典の日、即ち襲撃の日がやってきた。


ザフト騎士団はラクロア騎士団に悟られぬようにということで国から少し離れて待機、ラクロアへと潜入した者からの合図で一斉に攻め込むとのことだった。
しかし実際には近衛騎士をはじめとするラクロアの守備は完璧、付け入る隙もないはずだ。事実、何度か起きた小規模な戦いではラクロアはほとんど被害を受けていない。
おそらくこの戦いを機に小競り合いの続いたザフトとの決着も近くなるだろう。
だが合図を受けラクロアへと入った時、自分の目を疑いたくなる光景がそこにはあった。
あの近衛騎士のデュエルとイージスが守るべき王の元を離れ、守るべき国を自らの魔法で焼き払っていたのだ。
俄かには信じられぬ事態に、つい声を上げそうになる。だが今はまだばれるわけにはいかない。表情を戻し、平静を装う。
それでも、俺の中では滅多に覚える事は無い戸惑いという感情が大部分を占めていた。
自分とは全く違い王と国民からの信頼は厚く、同時に厚い忠誠を誓う彼らが、何故。
俺が慣れない思考の渦に巻かれているうちに奴らは何食わぬ顔でザフト騎士団と合流する。
「まさか本当に我らの側につくとはな…誇りも信念も捨てたか。
だが、ここまでの覚悟を示した以上は受け入れてやる。国の方は我らが手を下すまでもなかろう…」
騎士団長の男があまり気分はよくなさそうな調子で言うと、特に追い討ちをかけることも無く騎士団を引き上げさせる。
残されたのは硝煙に包まれ、かつての面影と平穏を失った祖国であった。
裏切り者達は一片の感情も見せず、自分達が起こした惨劇に背を向けている。
裏切り者。
自分はどうなのだろう。任務のためとはいえ、手をこまねいて見ているこの行為は裏切りではないのか。
今からでも遅くは無い、武器を手に一矢報いる時ではないか?
自分でも珍しく感情的になっていると思う。普段なら何も考えずに手を出すか、傍観するかをすぐに決め込んでいるはずだ。
国をとるか、使命をとるか。
二つの狭間で、俺の心は揺れた。
国は、好きでも嫌いでもない…はずだ。平和ボケしているとは思うが決して堕落した国ではない。
王にも別に恩義を感じたりはしていない。だが俺の扱い方を心得ていて、仕えていても悪くないと思わせる男ではあった。
そんな男が、自分を信じて託した使命。
王が生きているかはわからない。下手をすれば、最後の命令かもしれない。
…ならば、何があってもこれをやり通す。
それこそが、俺を信じた王に対する俺なりの答えだ―――決して気が長い方ではないが、いけるところまでいってやる。
こうして俺は、本来は守るべき祖国に背を向けてラクロアの地を離れた。


しかし実際あれだけの打撃を受ければ、ラクロアも立ち直れないかもしれない。
失ったものは大きく、これからのことを考えると苛立つ気持ちが沸々とわいて来る。
そんな時、帰還するザフト騎士団の元に駆けつける者がいた。デュエルの弟、ストライクだ。
「兄さん!イージス!何故こんなことを!」
涙ながらにやかましく叫ぶ。どうやら単身ザフト騎士団を追ってきたようだ。
あの馬鹿なら納得はいくが、本当にやってしまう無思慮さと無謀さにはため息が出る。
「時間が惜しい。適当に痛めつけて追い返すのが得策だ」と提案しながら他の兵を制し背中から武器を抜く。この手で殴っておかないと気が済まないからだ。デュエルとイージスも似たような考えでさっさと追い返すつもりらしく、誰よりも先に剣を構えていた。
まぁ、こいつらならすぐに終わらせるだろう。俺は武器を持った手を緩める。
しかし、そこで再び信じられない事が起こった。デュエルとイージスは何の躊躇いもなくストライクに斬りかかったのだ。
俺は慌てて参戦し、適当に手を抜いて攻撃する。だが、二人が手を抜く様子はまるでない。
その時見た奴らの目には、戦闘狂と揶揄される俺でさえ戦慄を覚えた。
歓喜と狂気が入り混じった目。本気で、あいつを殺そうとしている目だった。
さらに厄介な事にもう一人の傭兵が参加しストライクにさらに不利な状況へと陥れる。
こいつは凄腕の殺し屋で、殺した人数だけ報酬を得るという契約をとっているために傭兵の中では俺に匹敵する戦果を上げている。
なんとか引き下がらせたいところだが、ここで止めるのは少々不自然だ。
戦いが始まり、ストライク自慢の闘術による攻撃は全てかわされるか弾かれ、隙を突いたデュエルの二刀流がストライクを傷つけていく。さらに、殺し屋は確実にしとめようと急所を狙い続けている。その度に俺が攻撃する振りをして妨害しているため、埒が明かないと思ったのか姿を消す。逃げる意味ではなく、文字通り姿を消して。
そう、こいつは消える能力を持っているのだ。現にストライクは誰もいない背後から攻撃を受けている。何らかの方法で姿を消しているに違いない。
この謎を解かずしてザフト攻略は難しいだろう。しかし今はそれどころではなかった。
大した時間も経たずに、ストライクの白い鎧がところどころ赤に染まる。本人も肩で息をし、ほぼ満身創痍の状態だった。
しかしここでこの未熟者が四人もの格上の相手に囲まれいたぶられた末に殺される、というのはどうにも気に食わない。
かといって、先ほどの決意をこの馬鹿のために覆すつもりもない。
決して余裕ある思考の許されない時間の中で、俺はあることを思いつく。
すぐに実践することを決めると、なんとか前に出てストライクを崖の方まで追い詰める。そして、トドメをさそうとするデュエルよりも先に一撃を叩き込んだ。
少しだけ腹から少し嫌な音をさせたストライクは悶絶の表情のまま弾き飛ばされ、力を失い崖下へと落下した。
俺の記憶が定かならば、この辺りには流れの激しい川があったはず。とにかくここより先は俺にはどうしようもない。後は自分で生き延びろ。だがもしも死んだら俺が殺した事になるのだろうか、などと考えていると
一方のデュエルとイージスは先ほどまでの無表情と打って変わって、凄むように俺の方を睨んでいた。
『よくもあいつを崖に突き落としたな』というより、『よくも邪魔をしてくれたな』と言いたげな表情に見えた。本当に人が変わってしまったようだ。任務で僅かに見ない間に、ここまで変われるものだろうか?本来なら感謝するところだろう。いや、死んでいたら一応謝ろうと思いつつ適当な言葉を流しその場を去る。
気がつけばラクロア騎士団が駆けつけていたが遅すぎた。そもそもあいつらがしっかりしていればこんな面倒な事にはならなかっただろうが。
結局近衛騎士二人の裏切りという戦力の減少と精神的動揺もあってか、碌な戦いにもならずにフラガの奇策で危機を切り抜けると撤退していった。
あの男もこの不可能は可能に出来なかったな、どこか情けない心情になりつつ俺は改めて誓う。
いつか必ず、こいつらザフトを纏めてこの手でぶちのめす。そのために、今は耐える。
とっくに汚れきった手だ。今更汚れが増えたところで構わない。この屈辱も甘んじて受け入れよう。
俺はザフトへと舞い戻る。
全ては、果たすべき使命のために。



灯りも無く、陽も射さず、全てが暗闇に包まれたどこかの一室に『それ』はいた。
『それ』は人間のようだったが、何か別のモノが入り混じったような不自然さをかもし出していた。
そして、他の生命が一切存在しない闇の中で自分の存在を確かめるようにひとりごちる。
クククッ…どうやら洗脳は完全に成功したようだな…こうもうまくいくとは。
やはりこの『力』は素晴らしいものだ。出来ない事など、何も無い。
彼らにはこれから存分に働いてもらうとして…しばらくはラクロアも邪魔はできないだろう。
下手に壊滅させれば近隣の国を含め敵を増やすだけだ。それよりは戦力を削いだあの状態で他国に悟られぬよう、復興と防衛に気をとられていてくれる方が都合が良い。
こちらとて戦力は無限ではないのだから、計画的に使わねばなるまい。
長い時間をかけて、ようやく私の理想は形を成してきたと言える。
パトリックは完全に私の操り人形。ヤツを使えば民衆も思いのままだ。小うるさい王子も地下牢に閉じ込めてやったし、この国はもはや私のモノ同然…フフッ…笑いが止まらんな…。
使えるだけ使ってやろう。これまで私が受けた苦しみと同じいや、それ以上の苦しみを味わってもらわねばな…!
そして私は手に入れるのだ!老いも病も、全てを超越した完全なる―――――

僅かな空白が、『それ』に訪れた。
暗闇を完全な静寂が支配する。
ややあって、『それ』は感情を剥き出しにしていた先ほどとは違い淡々とした口調で言葉を紡ぎだす。
さて、これでゆっくりとあの忌々しい種子(シード)を探し出す事が出来るわけだ…。
アレがなければ、全てが始まらない。アレさえあれば…。
暗闇の中で果たして見えているのか手元の石版を大事そうに眺め、撫で回すように指で表面の字を読み取った。
…一つはラクロアの近くか…二度手間だが構うまい。障害となるモノなど、もはや存在しないのだから…。
しかし、『それ』はまだ気づいていなかった。
ある男の行動によって一命をとりとめた、取るに足らないラクロアの若者が自身にとって最大の敵となろうとしているという事を。

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