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生者の行進

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「生者の行進」

「ディープアームズが、死んだ…!?」
ザフト王国・ドゥーエ城。いつも通りの朝を迎えた
ザフト騎士団ジュール隊隊長騎士イザークの一日は
その報告により大きく変わることとなった。
すぐさま遺品は回収され、ザフトの共同墓地に多くの墓が追加された。
「遺体は見つかっていないだと?」
訝しがるイザークだがそれ以上の情報は入ってくることはなく
仕方がないのでジュール隊全員で黙祷を捧げる。
墓地を一瞬の静寂が支配するが黙祷が終わったあと誰かが呟く。
「でも正直な話、アイツがいなくなってせいせいしたよな」
「だよな、いっつも隊の規律乱してたし」
イザークはその言葉に顔を歪め唇を噛み締めると声高に叫んだ。
「貴様らァ!志半ばにして散って行った同士にその言い草は何だッ!」
「志?本気で言ってるんですか隊長」
「アイツにそんなもんないってのは隊長が一番よくわかっていたでしょう?」
イザークが叫びを向けた二人ではなく別の隊員たちが反論する。
予想外の反撃に、イザークもつい戸惑ってしまう。それは事実であったからだ。
「…とにかく、死んだ者の事まで悪く言う者など、ジュール隊には必要ない!」
やや勢いをなくして、イザークが叫ぶ。隊員達はやれやれといった様子で
「じゃあ、俺達はさっさと持ち場に戻りますかね」
「死んだヤツに出来ることなんてないんだ、隊長も忘れた方がいいですよ」
ぞろぞろと墓地から立ち去っていく。イザークは拳を握り締め
「バカモノォ…俺達がヤツを思わねば、本当にヤツは…!」
声を押し殺しひとりごちた。頭を振り、目に溜まった水分を強引に吹き飛ばす
「あの、隊長」
その声に驚いて振り向くと、整った長い髪を結わえた少女が立っていた。
「シホ…どうした?」
その少女のことはよく知っている。自分の隊の一員なのだから当然だ。


「花をとってきました」
そう言ってシホはディープアームズの墓に赤い花を添える。
「ホウセンカか…」
いつだったか荒々しい彼の戦い方を、触れるだけで弾けるホウセンカの果実に喩えた事を思い出す。そして彼は、いつからか肩にホウセンカの花を貼り付けるようになった。
「あいつ単純だから隊長にああ言われてからホウセンカはどこだって騒いで…
あれ、私が上げたんですよ。枯れたらまたくれって、何度も何度も…」
いつもはやや表情も硬く口数も少ない彼女だが少しばかりよく喋る。
喋るうちに、声が小さくなっていき下を向いて黙る彼女の肩に、イザークはぽんと手を置く。
「たとえ自分勝手でも、多少乱暴でも…あいつは俺達ジュール隊の仲間だった」
しばらくして、落ち着いたシホと共に再び黙祷を捧げる。すると、誰かが近づいてきた。
「やぁ…私も一緒に、彼の冥福を祈ろうかね」
「クルーゼ、殿…!?」
意外な来訪者に驚きを隠せないイザーク。だが、同時に怒りもこみ上げてくる。
「貴方がアイツをそそのかさなければ、こんな事にはならなかったのでは?」
「心外だな。確かに彼が死んだの残念な事だったが…あれは彼が望んだ事だ」
「馬鹿な、アイツが自分から…」
「彼はまわりが自分を認めぬ者ばかりだと言っていた。
あのような若い力を腐らせていた君にも、責任はあるのではないかね?」
その口調は嫌になるほど冷静で、言っていることは正論に聞こえた。つい押し黙るイザーク。
「隊長は貴方が言うような無責任な人ではありません」
イザークではなくシホが答える。クルーゼをきりっとした表情で睨むように見据える。
「これはこれは、ジュール隊のお嬢さん…今のは失言だったかな」
愉快そうに口元を歪ませるクルーゼにイザークもシホもムッとした表情を作る。
「ハハ、そう身構えなさるな。私の用件はこれだけではないよ。例の作戦、君にも手伝ってもらおうと思ってね」
例の作戦…新兵器を使って種子を手に入れる作戦か。気に入らない内容だが隊を纏める者として断れない。
「着いてきたまえ。詳しく話そう」
「行くぞ、シホ。これは俺達が…生きている俺達がやらねばならん」
「お供します。どこまでも」
若者達が歩いていく。生きて、為すべき事をするために。死者はただ、その背中を見守るのみ。

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